15.お披露目
今日はいい天気。
雲ひとつない……とまではいかないけれど、お日様の光がポカポカして、お外で眠ると気持ちがいいだろうなって思う。
そんなある日、私はクロと一緒にお外に出ていた。
クロの背中に乗って、ゆっくりと街の中を移動している。
「ねぇ、クロ……どこ行くの?」
『着いてからのお楽しみだ』
微睡みから目覚めて、今日は何をしようかなってボーッとお外を見ていた時、お部屋にクロがやってきた。
そして『見せたいものがある』って言われて、帽子をかぶってお外に行く準備をして背中に乗ったのはいいけど、まだどこに行くのか教えてもらっていない。
目的地を聞いてもずっと同じ言葉しか返ってこないし、クロの横を歩くシュリもニコニコしてるだけで何も教えてくれなかった。
私に見せたいものって何かな?
わざわざ私をお外に連れ出すくらいだから、きっと凄いものなんだろうな。
それに、クロとシュリ、周囲を行き交う眷属のみんなの雰囲気を見た感じだと、嫌なものでもなさそう。
……うーん、わからないや。
『ほら、そろそろ見えてくるぞ』
クロが背中を少し揺らして、私は思考を現実に戻した。
そして、クロの視線を辿って前を見つめると──────。
「たてもの?」
綺麗に並ぶみんなの住居の先に、大きな建物があった。
前に、私のために作った神殿みたいなところよりは小さいけど、それを除いたら一番大きい。こんな大きなものは知らない。
もしかして、あれがクロの見せたかったもの……なのかな?
「あれは、みんなのための訓練場よ。それを作るためにお話ししたこと、覚えてるかしら?」
「…………ん、いま思い出した」
シュリに言われるまで忘れてたことは、正直に言う。
でも、そんな話をしていたことはすぐに思い出したし、どんな話をしたかも思い出した。
「えっと、竜人のおじいちゃんと話して、ここに危険が迫った時に、みんなが戦えるように訓練する場所……だよね」
「オルグね。大体そんな感じよ。よく思い出せたわね〜、えらいえらいっ」
「ん、大切なことだったから……」
竜人のおじいちゃん────オルグさんは魔王軍の偉い人。リリーちゃんの次に魔王軍を動かしている人で、今は体の衰えで最前線から引いているけど、昔はすごく強くて大活躍だったみたい。
そんな彼ら魔王軍がのびのびと体を動かせる場所を作ってあげるかわりに、この街で強くなりたいと志願した人だけ、魔王軍の人達が直々に戦い方を教える約束だったはず。
そこまで言ったら、シュリに覚えてて偉いって褒めてもらった。
ついでに頭も撫で撫でしてもらえたから、大切なことはちゃんと覚えられてたのかな。
「訓練場、完成したの?」
『ああ、ようやくな。見てわかる通りの規模だ。予想以上に時間が掛かってしまったが、つい昨日、完成したのだ』
「おー……」
訓練場のお話が出て、今日で一ヶ月くらい?
ガッドさん達ドワーフや、人間さん、器用な魔物が頑張って動いて、一ヶ月ですごく大きな建物を作るのは十分早いと思うけど、これでも予定より遅くなっちゃったほうなんだね。
「中、見てもいいの?」
『そのために連れてきたのだ。ぜひ、主に見てもらいたい』
「クロったら、昨日の時点で『今すぐ主に見せてあげたい!』ってうるさくて……でも、まだ最終確認が終わっていなかったから、我慢するように言い聞かせるのには苦労したわ」
『おいシュリ! それは秘密にしろと……!』
「暴走した罰よ。……まったく、クレアちゃんのことになったらいつも暴走して。少しは代表としての自覚を持ってよね!」
バラされたくないことを言われて抗議したクロだったけど、すぐに言い返されて黙っちゃった。
クロが暴走するのはいつものこと。
でも、それは私のいないところでもやってたみたい。
「クロ。ちょっと落ち着こう、ね……」
『うぐぅっ……あ、主が、そう言うのであれば……』
私のことを思ってくれるのは、嬉しい。
でも、そのせいで周りを困らせるのはダメ。
「ふっ、クロったら怒られちゃって……みんなに言ったら面白くなりそうね」
『──シュリ! それは流石にやりすぎだぞ!?』
「うるさいわね! いつもいつもアンタのせいで悩まされてるんだから、そのお返しよ! もっと反省しなさい、この馬鹿!」
また、二人は口喧嘩を始めちゃった。
周りの人が気になって集まってきたけど、クロ達は気づいていないみたい。
「もうっ、ラチがあかないわね! こうなったら私達らしく、魔物の掟に則ろうじゃない!」
『同意だ。ちょうどいい場所もあることだからな。この機会にどっちが上なのか白黒つけようではないか』
こうなると長いし、これを止めるのも面倒だなぁ…………よし。
「ん、よいしょ……っと……」
転げ落ちないようにクロの背中を降りて、部屋から持ってきたお布団をその場に敷いて寝転がる。
これで、口喧嘩が終わったらどっちかが起こしてくれるはず。
それまで私は夢の中に────って意識を手放そうとした時、女の子の呆れたような声が私の耳に届いた。
「…………あんたら、何してんのよ……」