14.二人の魔王候補(???視点)
「モラナ大樹海?」
一面の金、希少な羽毛その土地で採れる最高品質の素材が用いられた家具類。その豪華さに誰もが一瞬は目が痛くなる一室の中。
王族のみが座るような椅子にどっかりと座り込んだ男は、彼の家臣から伝えられた、聞き覚えのない土地の名前に眉を寄せた。
その男は──魔族だ。
その男が住んでいる土地は魔族領と呼ばれる、魔物や魔族のみが住む大陸。
初代魔王が小さな村から発展させたこの土地だったが、それを代々統治してきた魔王なき今、彼がこの土地を治めていると言っても過言ではない。
だが、彼はまだ魔王ではない。
しかし、彼は自分が次期魔王になるのだと信じて疑っていなかった。
そう、信じていた…………が、いつになっても彼は魔王に至ることができなかった。
──自分は魔族最強の男だ。
──魔王は力こそが全て。
だが、いくら彼が覇を唱えたところで魔王の意思は応えてくれない。
そんな苛々が募りに募っていたところに、彼の臣下から告げられた言葉。
──真なる魔王がモラナ大樹海にいるらしい。
自分が魔王になるのだと思っていた矢先に、魔王候補が現れた。
男が激怒したのは言うまでもない。その殺意にも似た気迫に圧されながらも、臣下は自らが得た情報を伝える。
「そ、その場所にリリー・リル・レルリエッタが率いる旧魔王軍の部隊が足を踏み入れたとの目撃情報があり、森の外で監視を続けている諜報部隊によりますと、まだ奴らは森から出てこず、おそらく、魔王候補と接触したのではないかと」
「リリー? ……ふんっ、あの裏切り者の羽虫か」
魔族の身でありながら、無駄に戦うことを嫌う弱虫。
そのくせ初代魔王の頃から魔王軍に所属していたこともあり、発言権は無駄に大きく、男が率いる過激派とリリー率いる穏健派の間では何度か衝突が起きていた。
だが、それは数百年前の話。
当時の魔王が崩御した際、リリーは「今度こそ本物の魔王様を探しに行く!」と言い出し、穏健派の魔族全てを連れて魔族領を去った。
守るべき魔族領を捨て、旅に出たのだ。
これを裏切り以外に何と言うべきか。そして、魔族領を捨てた裏切り者が見出した魔王は、魔王に相応しい者なのか。
──いいや、そんなはずがない。
自分こそが真の魔王だ。
なぜなら、自分は先代魔王の実の息子なのだから。自分こそが魔王に相応しいに決まっている。
モラナ大樹海に住む魔王?
そんな紛い物、どうせ自分の前では塵芥と同じだろう。
「だが、目障りだな」
自分の他に、魔王だと噂される者がいる。
プライドの高い男は、自分が一番ではないと気が済まなかった。自分と並ぶ可能性のある存在を許せなかった。
「…………フンッ、いいだろう。その紛い物、俺が直接見定めてやる」
その後、この手で直接、その者に引導を渡してやろう。
「出るぞ。準備をしろ」
男は立ち上がり、臣下は深々と頭を下げる。
モラナ大樹海を揺るがす脅威は、すぐそこまで迫っていた。