13.楽しみができた
絵本を読み終わったら、お勉強会は終わりになった。
これ以上は私の集中力と眠気が限界だろうって、最初に話し合って『本は一日一冊まで』って決めたみたい。
絵本はとても読みやすくて、わかりやすくて面白い。
でも、絵本を読んでその内容をお勉強するだけで疲れるし眠くなるから、二人の優しさがすごく嬉しかった。
「では、レア様。また明日」
「復習もするから、ちゃんと覚えておくのよー」
「ん、また明日……」
二人が出て行って、私だけになる。
…………少し寂しい。さっきまでずっとお話ししていたのに、急に誰もいなくなって静かになるのは、嫌だな。
「そんなクレアちゃんに私、登場!!!!」
「──んぐっ?」
換気のために開けっ放しだった窓から、何かが入ってくる気配。
それを感じ取った時、私の視界は真っ暗になって、やわらかいものが顔に押し当てられて息苦しくなった。
この声、この匂い…………。
「シュリ?」
「ええ、あなたのママよ! 久しぶりね!」
「ん、さっきぶり……だね」
シュリとは久しぶりじゃない。
一緒に眠ったし、フィル先生とリリーちゃんが来るギリギリまで居てくれたから、離れてから一時間ちょっとしか経ってない。
そう言ったら、
「気分的には久しぶりなのよ!」って反応が返ってきた。
そうなのかな?
……そうなのかな。
よくわからないけど、シュリがそう言うならそうなんだろうな。
「シュリ、どうしてここに?」
「クレアちゃんの寂しいオーラを感じ取ったから、飛んできたのよ!」
「でも、お仕事は?」
「…………放り投げてきたわ!」
お仕事、放り投げてきちゃったんだ……。
それって大丈夫なのかな。色々溜まってるって聞いてたけど、戻ったほうがいいんじゃないかな。
「大丈夫大丈夫。クレアちゃんが寂しがってるって言ったら、みんな納得してくれたから! 仕事なんかよりクレアちゃん優先よ!」
「そうなの?」
「──そうなの! ここでは、クレアちゃんより仕事を優先する奴のほうが非難されるのよ。みんな、クレアちゃんのことが大好きだから」
「…………ん、ありがとぅ」
やっぱり、面と向かって「大好き」って言われると、恥ずかしい。
何事もいつか慣れがくるって言われたけど、これだけはいつまで経っても慣れないと思う。
でも、それでいいのかもしれない。
だって、大好きって言われることを当たり前に思い始めたら、それに対する『ありがとう』の気持ちが無くなっちゃうと思うから……。だから、これは慣れないほうがいいんだ。
「んふふ──えいっ!」
「うみゅぅ?」
色々考えてたら、急に体を引っ張られてベッドに倒された。
ぼふって音がしてお布団の中に収まると、それのすぐ後に、目の前にシュリの顔が降ってきた。
……すっごくニコニコしてる。
何か嬉しいことでもあったのかな?
「クレアちゃん、お勉強で疲れたでしょう? 可愛いお目目が、いつも以上に眠たそう……」
「ん、ねむい」
「お勉強はどうだった? あの二人だから大丈夫だと思うけど、大変だったら無理しないでね。嫌になったら遠慮せず、すぐに『嫌だ』ってハッキリ言っていいのよ?」
「……ううん。お勉強、楽しいから……だいじょうぶ」
「そ。なら良かったわ」
シュリの体がちょっとだけ動いて、こっちに近づく。
「今日のお勉強、お疲れさま。明日もあるんでしょう?」
「うん。楽しみ」
「それなら、お勉強中に寝落ちしないよう、今の内にいっぱい寝ておかないとね」
「ん」
シュリの匂い、すごく安心する。
「……ふ、ぁぁ……ん…………」
たくさんお勉強して、とっても疲れた。
きっと、今眠ると気持ちがいいんだろうな。
そう思うと、瞼がすごく重くなった。
「おやすみ、クレアちゃん」
「……ん……おやすみ、なさい……」
お勉強会、思ったよりも楽しかったな。
これが続くなら、私も、お勉強を頑張れると思う。
私も色々と考えられるようになりたい。
だから明日も、お勉強を頑張ろう。
そう思いながら、私は、ゆっくりと意識を手放した。