3.みんな仲良く
リリーちゃんが沢山の魔物を連れてやってきた。
その数は200。本当はもっといたらしいけど、度重なる戦闘でその数は少しづつ減ってて、今ではこの数に落ち着いたみたい。
でも、それは沢山の戦闘を潜り抜けてきた猛者という証明になるし、何年もリリーちゃんと一緒に行動してきた仲間だから、戦闘面でも交流面でも信頼してくれていいって言われた。
魔王軍は、初代魔王がいた時から沢山の種族と戦争を続けてきた。
その主な相手は──人間。
でも私の街には人間さんがいっぱい住んでる。それで喧嘩にならないかなって心配していたけど、同じ目的を持つ同士だってすぐに打ち解けてくれたみたい。
でもやっぱり最初はお互いにどう接したらいいか分からなくて、戸惑っていたところをリリーちゃんが裏で色々と手を回してくれたんだって、クロが報告してくれた。……後でちゃんとお礼を言っておかなきゃ。
そんな訳で、意外と魔王軍はすぐに街のみんなと打ち解けてくれた。
でも、流石に200体を街に歓迎することはできない。
それは物理的な問題。単純にその数を住まわせるだけの家も、街の広さも足りなかった。
だから、また森を開拓して住まいを確保できるまで、魔王軍には街の外にテントを張って、しばらくそこで野営してもらうことになった。
リリーちゃんだけは一応、重要人ということで一足先に街で暮らしてもらう。
だから他の魔王軍のみんなには、少しの間だけ我慢してねって謝った。でもみんな優しくて「野営には慣れてる。食料を提供してくれてありがとう」って笑いながら言ってくれた。
みんなともっと仲良くなれたらなって思う。
でも、まだ外から来たばかりだから完全に信用しちゃダメだって、クロは言っていた。
だから彼らには監視を付けることになった。
その役割は情報共有が得意なラルクと、魔王軍のお世話を担当することになった吸血鬼の侍女、ミランダ達。
ラルクはフェンリルだから実力面では問題ないし、ミランダ達も戦闘経験の少ない侍女とは言え、私と契約した吸血鬼。魔王軍相手に後れを取ることにはならないだろうって、話し合いで決まったみたい。
みんな、不満を持たずに生活してくれている。
私がそれが嬉しい。みんなが喧嘩しないで暮らせるのは良いことだし、やっぱり平和が一番なんだなって、ラットベルン王国でよく分かったから。
だから、こうして静かに眠れている今が一番幸せ。
みんなと一緒に眠って、起きたらみんなとお話しして。
また眠くなったらみんなに「おやすみなさい」って言って、またもふもふの中に沈んで……。
そうやっていられる時間が永遠に続けばいいのに。
そのためにクロ達は頑張ってくれている。だから私はクロ達に全部任せて、ゆっくり眠っていられるんだ。
「おっはよーーーーう! いつまで寝てるの魔王様! 今日は天気が良いから、引きこもってないで一緒に外に遊びに行きましっぷばぁ!?」
すっごく大きな声と、すっごく大きな破壊音。
何が起こったんだろうって目を開けると、私のお部屋にぽっかりと穴が空いてた。穴は人が通った後みたいな形をしていて、そこからうっすらと見える外の景色には、頭から地面に突き刺さっている人の姿があった。
……本当に何が起こったんだろう?
あれは多分、リリーちゃんかな。
でも、どうして地面に突き刺さっているんだろう?
「あらクレアちゃん。おはよう」
「ん、おはよう……ねぇシュリ。……あれ、なぁに?」
「あの悪魔の趣味よ」
「へぇー……」
変な趣味だなぁ。
世界には沢山の種類の趣味があるって聞いたけれど、頭から地面に埋まる趣味は初めて聞いた。
「あれは特殊だから、クレアちゃんは真似しちゃダメよ?」
「ん、わかった」
人の趣味を悪く言うつもりはないけれど、あれはちょっと……やりたくない。
もしかしたら地面はひんやりしてて気持ちいいのかもしれない。でも、すごく汚れるし掘るのも面倒だし、何よりあれをやったら色々と終わっちゃうような気がして、誘われても嫌だなぁって思う。
「って! 趣味なわけあるかー!!!!!」
リリーちゃんが飛び起きた。
すっごく元気。最初見た時は一瞬、誰かに埋められちゃったのかなって心配したけれど、あれだけ元気なら、やっぱり趣味だったのかな?
「だから趣味じゃないっての! なんなのそこの女! 部屋に入った途端ぶん殴ってくるとか、常識ってものを知らないわけ!?」
「あら生きていたのね。そのまま埋まっていればよかったのに……」
「こわっ! 最後こわっ!!」
「クレアちゃんの睡眠を妨害するお馬鹿さんには、ちょうどいいんじゃない?」
「なによ。私はただ挨拶しにきただけじゃない。それを睡眠妨害って、ちょっと魔王様の従者怖すぎじゃない!?」
怖い? ……シュリが?
「ううん。シュリはすごく優しいよ?」
「いや、いやいやいや! 容赦無く人の顔ぶん殴ってくる奴が、優しいわけないでしょ!」
「でも、シュリはすっごく優しいんだよ。いつも一緒にいてくれるし、いっぱい褒めてくれるし、抱きしめてくれた時はすっごく……温かいの」
「それは魔王様にだけでしょ! もっと他にも優しくしろって、魔王様が言ってくれる?」
そう言われても、うーん……?
「……シュリ。みんなに優しくないの?」
「優しくしてるつもりよ。その悪魔がおかしいんじゃない?」
「シュリは優しくしてるって」
「あ、これ終わったー。誰もなぁんにも言ってくれないやつだー」
リリーちゃんの目が遠くを見つめ始めた。
……大丈夫かな?
「きっと、リリーちゃんはシュリのことを知らないだけ。もっと仲良くなれば、大丈夫」
「は? 私がこの女と仲良くする? ……それ本気で言ってる?」
「ん。みんなには仲良くしてほしい。だから喧嘩もしないで。……シュリも、ね?」
「……はぁ。分かったわ。それがクレアちゃんのお願いなら」
「え、ちょっと待ちなさいよ! 私は了承した覚えないんですけど! あれと仲良くするなんて無────」
一瞬空気が歪んだ。
そう思ったら『ヒュゴッ!』って変な音が聞こえてきて、リリーちゃんの真横の壁が弾け飛んだ。
「……………………」
リリーちゃんは顔を真っ青にさせながら、シュリと弾け飛んだ壁とを交互に見る。
「クレアちゃんのお願いは絶対なのよ。それを破るつもり?」
「────ヒエッ」
「返事は?」
「……ふぁい」
リリーちゃんはすごい勢いで首を縦に振った。
シュリと仲良くしてくれるみたい。……良かった。
「これはもう狂信者よ。間違いないわ。そういう人間を何度も見てきたもの。今代の魔王様は愛されてる? 馬鹿言うんじゃないわよ。あれはもはや崇拝よ。愛されているなんて生易しいものじゃないわ。やばい。下手したら殺される」
「それじゃあ友好を深めるためにも早速、裏で話しましょうか。もちろん断らないわよねぇ? だって私達、仲良いものねぇ?」
「…………ハイ、ソウデスネ」
シュリはリリーちゃんの肩を掴んで、リリーちゃんはまた沢山頷いていた。
「と、いうわけでクレアちゃん。私はちょっとお話ししてくるわね」
「……ん。行ってらっしゃい。先に寝てるね」
「ええ。すぐに戻ってくるわ。おやすみなさい」
シュリは私の頬にキスを落として、リリーちゃんと一緒に部屋を出て行っちゃった。
「……………………ん、よいしょ……」
一人残された私は、散らばったお布団を集めて、それに抱きついた。
まだ温かい。
でも、どうしてだろう。
なんか、少し…………寂しいな。
シュリの間違った教育+クレアのちょっとした勘違い=リリーが可哀想なことになる