2.リリーちゃん
更新遅くなってすいませんでしたぁぁぁ!!!!
ラットベルン王国。
勇者召喚をしようとして、なぜか私まで巻き込んで召喚した国。
王国の大臣、ロマンコフが引き起こしたクーデターで国は崩壊。事件を解決した私達はお迎えに来たシュリと一緒に街に戻ることになったんだけど、どうやって帰ろうかなって悩んでいた。
そんな時、唐突に現れたのが悪魔ちゃん。
悪魔ちゃんは私達を運んでくれた。方法は覚えてないけれど、街まで運んでもらっている途中で私は寝ちゃったみたい。
そこから十日が経過した。
私はその間、一度も起きなかった。きっと、国での騒動を収めた疲れと、街に帰ってきた安心感で、いつも以上に深い眠りに落ちたのだろうって、クロが言った。
そして私は起きた。
起きた時には、悪魔ちゃんは全身を縛られていて、私が起きるまでずっと放置だったみたい。
ちょっとだけ可哀想だけど、私に悪戯しようとした罰だから受けて当然の報いだって、みんなはそう言っていた。
……………………回想、終わり。
「これで、あってる?」
『うむ。間違いない』
「……ん。よかった」
クロや悪魔ちゃんから聞いた話を纏めたけれど、最後の方は覚えてないや。
多分、それだけ疲れていたのかな。
王国では街みたいに好きなだけ眠れなかったし、起きている時は魔法のお勉強とかで忙しかった。ハヤト達やフィル先生とのお話は楽しかったけれど、やっぱり私は睡眠の方が好きなんだなぁ……って思う。
「でも、どうして悪魔が私達を助けてくれたんだろう……?」
『それはこの悪魔から直接聞けばいい。話せと言っても主に言うのだと口を割らなかったのだ』
そして視線は再び──開口一番に叫んだせいでまた全身を縛られた悪魔ちゃんへ。
「忘れているようだから、もう一度自己紹介するわね!」
悪魔ちゃんは綺麗に飛び跳ねて立ち上がり、胸を張ってこう言った。
「初めまして今代の魔王様。私はリリー。リリー・リル・レルリエッタよ! 初代魔王様の命令に従い、魔王軍に所属する魔物を率いている大悪魔で、次なる魔王の器である貴女の傘下に入るため、こうしてやってきたの!」
………………?
「あ、あれ……? ちょっと何よその反応。まさか分かってないの? あんなに分かりやすく話してあげたじゃない!」
「…………えっと、名前……なんだっけ?」
「そこから!?」
『リ』が多くて、ちょっと覚えられなかった。
そこで分からなくなっちゃったから、その後の話も全部、入ってこなかった。
「うぅ、ごめんなさい……」
『主が謝ることではないぞ。悪いのは長ったらしい名前をしている悪魔だ。主は何も悪くない』
「…………ん、クロ。ありがとう」
クロは優しい。
いつも私を慰めてくれるから、やっぱり近くにいてくれると安心する。
『それで、この自称大悪魔の名前はリリーだ。こいつは魔王軍を率いているらしいな。どうやら、主の傘下に入りたくて我々の街にやってきたようだ』
「…………どうして?」
『悪魔が言うには、主が今代の魔王だかららしい』
クロの言葉に、私はまた、首を傾げる。
「私、魔王じゃないよ?」
「本人がそう思っていなくても、すでにその器には魔王の核が宿っている。魔王になる資格が貴女にはあるのよ」
「……むぅ」
ラットベルン王国でも、そんなことを言われた。
──私が魔王。
予言がそう言っていたんだって。
でも、私は魔王になるつもりなんてない。
人間と必要以上に争いたくないし、私はただ、みんなと一緒に平和に暮らして、ずっと、ずぅっと……静かに眠っていられたら、それで満足なんだ。
なのに、みんなは私が魔王だって言うの?
「今はまだそうじゃなくても、いつか必ず選択の時がくるわ」
「………………」
『主。そう難しく考えなくてもいい』
ポンッて、私の頭の上にクロの前脚が置かれる。
『魔王になりたくないのであれば、嫌だと否定し続ければいい。人と争いたくないならば、そう言えばいい。我々は主のためにある。主がそう願うのなら──我々がそれを叶えるのだ』
「そうよ〜。誰が何と言おうと、クレアちゃんがやりたいことをやればそれでいいの。今更、誰もクレアちゃんに文句なんて言わないわよ」
「どうか、決して部外者の言葉に耳を傾けないで、自分のご意思を貫いてください。レア様自身がお決めになられたことならば、私はその意思を尊重いたします」
クロが、シュリが、フィル先生が、そう言ってくれた。
私のやりたいようにすればいい。魔王になりたくないなら「嫌だ」と言えばいい、って……。
「ん、わかった」
みんなが支えてくれる。
そう思っただけで、私はすっごく……気持ちが楽になった。
「リリーちゃん」
「『ちゃん』? 私、これでも数千年は生きて……」
「リリーちゃん。あのね、聞いてほしいことが、あるの」
「ああ、うん……もう『ちゃん』付けでいいわよ。……それで何? 魔王様のご意見を聞こうじゃないの」
ラットベルン王国でも言ったこと。
私はやっぱり、人間と戦いたくない。
勇者と──ハヤト達と戦いたくない。
だって三人は私のお友達だもん。お友達が殺し合いをしたらダメなんだよ。
だから、私は────
「私は、魔王じゃないよ」
「…………そう。分かったわ」
リリーちゃんはあっさり引き下がってくれた。
それが意外だった。
「……怒らないの?」
「怒るも何も、それが貴女の意思なら私達はそれに従うだけ。──魔王じゃない。そう言い切るのも一つの選択でしょ?」
でも、とリリーちゃんは続ける。
「私はまだ諦めたわけじゃないわよ! 私は絶対、次の魔王が貴女だって確信してる。……私、魔王を見る目だけはいいの」
どこからその自信がくるのか、リリーちゃんは鼻を鳴らしてそう言った。
「だからしばらくの間、この街に滞在することにするわ。──魔物の主さん。滞在許可を頂けるかしら?」
「それは、えっと……」
クロを見る。
頷きで返してくれた。
「ん、いいよ。街のみんなと仲良くするって約束してくれるなら、歓迎する」
「ありがと。それじゃあ私共々、お邪魔するわね!」
こうして、リリーちゃんも少しの間だけ街に住むことになった。
また面白そうな人が来た。これで街も賑わって…………ぅん? 私共々?
「共々って、どういうこと?」
「あら言ってなかったかしら? 私は魔王軍を率いる大悪魔よ。当然、魔王軍の魔物達も一緒に連れて来たに決まっているじゃない」
「……………………え?」
「すでに配下の魔物達は大樹海近隣に待機しているわ。それも受け入れてくれるわよね?」
クロを見る。
すっごく焦っていた。
「……………………え?」
なんか。すごく大変なことになっちゃった、かも……?