エピローグ 帰れない
「じゃあ、元気でね」
「うん。レアも元気で」
ハヤト達が去っていく。
私はその後ろ姿をずっと見守っていた。三人の姿が見えなくなるまで、ずっと……。
「寂しい?」
「……ん」
シュリの言葉に、頷く。
これは三人が決めたこと。
三人がしっかりと考えて、これは必要なことなんだって選んだ行動なら、私は応援する。
…………でも、やっぱり寂しいな。
これが永遠のお別れじゃない。
だからって、やっと出来た友達とのお別れは……嫌だなって思っちゃった。
「あの三人は勇者です。必ず、また会えますよ」
「……ん、そうだといいな」
勇者の潜在能力はすごい。
すぐに強くなれるだろうし、三人が協力すれば安全だと思う。
それに、あの三人にはプレゼントも渡しておいた。
すぐ死なないようにって祈りを込めたお守りと、旅を続けるためには一番大切な資金。
ハヤトは受け取れないって遠慮した。
だから私は『貸す』ことで、強引にそれを渡した。
これはあげるんじゃない。次会った時に返してもらうためのもの。だから絶対、私に会いに来てもらうんだ。
「大丈夫。勇者ってものは頑丈に出来てるものよ。首を切られたり心臓を潰されたりしない限り、神に祝福を受けた人間は簡単に死なないわ」
「……え、じゃあ……すぐ死んじゃうよ?」
「あ、そうだったわね。クレアちゃんにとってはそうだったわよね。……私としたことが前提を間違えたわ」
「レア様の『これ』は元からだったのですね……これは先が思いやられます」
シュリとフィル先生が遠い目になる。
……どうしたんだろう?
「──さ、さて! 一先ずはこれで一件落着ってね! クレアちゃんは無事に見つけられたし、怪我も無いし! 新しい仲間もできたし。クロに報告することが増えたわね」
「クロ……早く会いたい」
今、クロは何をしているんだろう。
あの街で今も私の帰りを待ってくれているのかな。
他のみんなのことも気になる。
元気かなって。私がいなくなっても大丈夫だったのかなって。
「ほんと、大変だったのよ。ロームとラルクは今すぐにでも飛び出しそうな勢いだったし、クロは平常を保っているようでただのポンコツだったし。むしろ冷静でいられた方が圧倒的に少ないとか……改めて、私達はクレアちゃんに依存しすぎなんだなって理解したわ」
想像以上に大変なことになっていたみたい。
でも、それだけみんなが私のことを心配してくれたんだって思うと、すごく嬉しいな。
「これで、やっと街が落ち着くわ。早く帰りましょう」
「ん、帰る…………でも、どうやって帰るの?」
そう聞くと、シュリはピシッて石みたいに固まった。
「まさか、走ってきたの?」
「………………」
シュリが小さく頷いた。……うわぁ。
「だ、だって仕方ないでしょう!? やっとクレアちゃんの居場所が分かって、すぐに迎えに行かなきゃって無我夢中で……! 帰りのことなんて頭になかったのよ!」
シュリは何度も「仕方がなかった」って言う。
冷静に見えて実はシュリも冷静じゃなかったってことなのかな。だって帰り道のことを全く考えないで、私のことを迎えにきてくれたんだもんね。
「…………ふふ、あははっ」
シュリはいつも落ち着いていて、いつも優しく私にいろいろなことを教えてくれた。
そんなシュリが当たり前のことを忘れて、街からこの国まで全速力で走ってきたことを想像したら、面白くて笑っちゃった。
「シュリ。お迎えにきてくれて、ありがとね」
「どういたしまして。私の可愛い娘のためだもの。たとえ世界の果てだろうと迎えに行くわ」
世界の果ては、誰もが到達できないって言われている未踏の地だ。
そこに行った人は絶対に帰ってこないから、すごく危険な場所とも言われている。
でも、シュリ達なら迎えにきてくれそう。
「でも、困りましたね。モラナ大樹海は果てしなく遠い場所にあります。普通に歩くのは不可能で、馬車を使っても最速で一ヶ月以上は掛かります」
「シュリは、どのくらいで来たの?」
「一週間ってところかしら。途中で休憩を挟まなければ、もっと早くいけるわよ」
一ヶ月以上掛かる距離を、休憩込みで一週間。
それを当然のように言うシュリに対して、フィル先生はどこか虚ろな目を浮かべていた。
「やはり非常識なのは同じなのですね……」
「ああ見えてシュリはフェンリルなの。だからあれが普通なの」
「はぁ、フェンリル。なるほど道理で──ってフェンリル!? 実在していた、いえ、それよりなぜフェンリルが人の姿に!?」
「色々あった」
「……色々、ですか…………あはは、なんかもう……言葉が見つかりません……」
やっぱり、フェンリルって言うとみんな驚くんだな。
ミルドさんも最初は驚いていたし、フィル先生も同じ反応だったから、その度にフェンリルは、私のママはすごいんだって誇らしくなる。
「よしっ! 帰る方法を考えていなかったのは私のミス! こうなったら二人を担いで私が走るわ!」
「それだと先生が疲れちゃう」
「そ、それじゃあ……私が馬車を引くわ!」
「馬車が壊れちゃう」
「それなら、えぇと……それなら……! うぅ!」
シュリは頭を抱えて、うずくまった。
うーん、困ったな。
私だったら多少強引でも大丈夫だけど、先生には負担が大きいから強引な手は使えない。
「お困りかしら!」
どうしようかなって考えていたところで、すっごく元気な声が上から降ってきた。
私達はほぼ同時に上を見上げる。
そして、三人して同じように眉をひそめた。
それは女の子だった。
腰から蝙蝠みたいな羽を生やした、肌色が多い女の子。
「その悩み! この大悪魔リリーが解決してあげる! 大船に乗ったつもりで任せなさい!」
そう宣言した大悪魔リリーは、
「言葉も出ない? 大丈夫、安心して──そう! この大悪魔、リリー様に掛かればこの程度──ウッ、ゲホッ! ゴホ、ゴホッ! オエッ──!」
ドンッと胸を強く叩いて……強く叩きすぎて、盛大にむせていた。
これにて第3章完結です!
長かった。本当に長かった……!
勇者召喚の巻き込まれによって始まったクレアの外出(?)。様々な波乱があった中で無事にお迎えが来て、やっと帰れると思ったところに新キャラ登場!…………(もうすでに残念っぽさが滲み出ていますが)一体どんな子なのでしょうか!
というわけで次は第4章です。
──が、ここでお知らせがあります。
ここでしばらくお休みします。
書籍化作業や新章のプロット練り、書き溜め、新作の準備等々。一ヶ月ほどの休暇を予定しています。
書籍化に関する情報はTwitterと活動報告で随時お知らせしていくので、チェックを忘れずに!
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次は6月にお会いしましょう。
ではでは〜。