49.変な魔力
この度、『ある日、惰眠を貪っていたら一族から追放されて森に捨てられました』の書籍化が決定しました!
ここまで来れたのは皆様の応援のおかげです!
本当にありがとうございます!
詳細は随時お知らせしていきます。
ツイッターや活動報告のチェックを忘れずに!
書籍化作業も並行して頑張っていくので、今後も本作をよろしくお願いいたします!
フィル先生が言うには、ハヤト達はお城の地下……そこに広がる監獄に軟禁されているらしい。
らしい、とあやふやなのはただの予想だから。
何かを捕まえておくのは監獄が一番楽だし、監獄にはすごく強い大罪人を拘束しておく装置があるみたいで、勇者を無力化したまま入れておくには、その地下にある監獄以外に方法がないんだって、それがフィル先生の考え。
ハヤト達の魔力は、もう感じられない。
前は城のどこかにいれば辿れたのに、今はどんなに頑張っても三人の魔力っぽいものは見えない。
……殺されては、いないと思う。
勇者は色々な意味で世界中に影響を及ぼす存在。それを殺すよりも、魔法か何かで強制的に服従させて、自分達の駒にしたほうが何倍も利益になる。
それに、今この国はクーデターが起こったばかりで、とても不安定。だから「こっちには勇者がいるんだぞ」って周辺諸国に圧力をかける意味でも、勇者は生かされるだろうって。
私達が行くべき場所は決まった。
「でも、どうやって助けよう」
勇者が暴れたら困る。
だから多分、監獄には沢山の見張りがいると思う。
……全部倒す?
でも、騎士団や魔法師団を全員相手にするのは……流石にちょっと面倒くさい。
「おそらく助けるだけなら簡単かと。監獄には最低限の見張りしかいないと思いますので」
「……どうして?」
「演習場がある方面に魔力が集中しているのが分かりますか? ……えぇと、あっちです」
フィル先生が指差したほうに感覚を広げる。ほんとだ。なんか広いところに沢山の人が集まってる。その中で特に反応が大きい二つ。……一つは騎士団長で、もう一つはマグノリア。
「マグノリアが私達のことを話したのでしょう。そこで騎士団と魔法師団が協力し、城内に現れた吸血鬼の討伐を計画しているのかと」
吸血鬼は一番弱いのでも、人間からはすっごく警戒される。
だから真っ先に自分達の身を案じて、吸血鬼の討伐をしようとしているみたい。
「………………」
「………………」
演習場に行って、様子を観察する。
今はちょうど説明が終わって、騎士団長が他の人間に激励を飛ばしているところらしい。
「場内に現れた吸血鬼は二体。奴らは今も姿をくらませ、我が国に潜伏している。逃走を許せば脅威となるだろう。今のうちに叩くのだ。──恐れるな! 片方は成人していない子供であり、もう片方は吸血鬼に目覚めたばかり。加護を受けた我々が一丸となって畳み掛ければ、何も問題ない!」
彼の横には、マグノリアが佇んでいる。
でも、それが本当にマグノリアなのか、私は一瞬分からなくなった。
うーん。説明が難しい。
確かに姿形はさっき私達の目の前から逃げたマグノリアなんだけど、彼女の中にある魔力が違うものになっている。根本的な部分は同じなんだけど、その上を何か全く別の魔力が纏っているような……とにかく変な感じ。
それに、マグノリアだけじゃない。
あの場所に集まっている全員に、変な魔力が宿ってる。
でも、それはおかしい。全員が全員、同じ魔力を持っているなんて……普通はありえないことだもん。
それこそあそこにいる全員が、私みたいな人と契約していない限りは────
「………………、……」
「……?」
気のせいかな。
マグノリアと目が合ったような……ううん。私達は今、魔法で完璧に隠れられているはず。見破られるなんてあるはず────
「レア様!」
ドンッ、と体を突き飛ばされた。
何が起こったのか分からないまま尻餅をついたその直後──私がいた場所に無数の真っ赤な槍が降り注いだ。
すごく熱くて、すごく痛そうな槍。
この魔力は知らない。この魔力からは嫌な感じがする。すごく不気味。
「レア様。大丈夫ですか!?」
「ん、大丈夫。助けてくれてありが、」
──また、だ。
また視線を感じた。
そう思って演習場を見下ろせば、マグノリアはこっちを真っ直ぐ──見つめていた。
「【────】」
マグノリアの口が動く。
するとまた私の頭上に真っ赤な槍が現れて、床に突き刺さった。
「レア様! ……くっ、すぐそちらに」
「先生、来ちゃダメ!」
真っ赤な槍が急に膨れ上がる。
嫌な予感がした。
私は咄嗟に動いて、近づいて来ようとするフィル先生の体を魔弾で吹き飛ばす。
そして耳をつんざく爆音。
床に突き刺さっていた槍の全てが大爆発を起こして、私はその爆風で飛んだ。
「あらあらぁ? 鼠が一人、迷い込んだらしいわねぇ」
ねっとりと纏わりつくような気持ち悪い声。
それはマグノリアのもの。どうやら私は、演習場の真ん中に落ちちゃったみたい。
呆然としている間に騎士達は私を囲んで、大人数で私の体を押さえつけてきた。
抵抗しようとした。……でも、私が何かしようとした時を見計らったように、さっきと同じ槍が降ってきて、私の体は地面に縫い付けられた。
すぐに抜け出そうとした。
でもやっぱり私の考えを見透かしたように、動かそうとしたところから槍で串刺しにされた。
「レア様! っっっ! レア様を離せぇええええええ!」
張り裂けるような怒号と、連続して鳴り響く爆音。
フィル先生は魔法を乱発して私のところに来ようと奮闘するけれど、そんな先生の前に立ちはだかる巨漢が一人。──騎士団長だ。
「マグノリア。元王女は俺がやる。遊んでないでさっさと終わらせろ」
「チッ、分かってるわよ」
騎士団長は、すごく豪華な鎧を身につけていた。
それには魔物が嫌いそうな魔力が沢山宿っていて、先生とほぼ互角にやりあっていることから、自身を強くする効果もあるみたい。
先生は私の元に来れなくて、焦ってる。
そのせいで動きが鈍い。冷静な先生なら一度距離を取って態勢を立て直すはずなのに、あの騎士団長と間近で戦おうとしてる。
私も、動けない。
マグノリアはとても弱かったはずなのに、その中にある変な魔力のせいですっごく強くなってるみたい。
「形勢逆転。ざまぁないわねぇ?」
足音が近づいてきた。そう思った途端、急に視界がぐわんって揺らいだ。マグノリアは足をあげていて、その時、頭を蹴られたんだって分かった。
「っ、うきゅぅ……!」
次はお腹を踏まれた。
グリグリって、鋭い踵のところで抉られるように踏まれた。
またその次は、目の前のものを踏み潰すように、いっぱい踏まれた。何度も何度も、何度も何度も何度も……。
「痛い? ねぇ痛い!? あははっ! 私を馬鹿にした罰よ。……まだ許さないわよ? このまま、あんたが死ぬまでずっと痛めつけてあげる!」
「けほ、けほっ……せんせ、ぇ」
先生はまだ戦っている。
ずっと私を呼ぶ声がする。
でも少し、少しづつ……その勢いは弱くなっていた。
クレア「うきゅぅ」
フィル「(呻き声が可愛すぎる!!!)」