48.贈り物
「も、申し訳ありませんでしたっ!」
フィル先生は目覚めて開口一番、そう謝った。
頭を床につける勢いで謝られたから、逆に私が困っちゃった。
「……本当に、申し訳ありません。失言をしただけではなく、まさかそのまま意識を失うなど……悠長にしている場合ではないというのに!」
「ん、大丈夫。私は怒ってないよ」
「ですが……」
「それより、フィル先生大丈夫? 具合が悪いなら、まだ休んでていいよ?」
無理したらダメ。
フィル先生は張り切りすぎちゃうところがあるから、また倒れる前に休ませないと。
「い、いえっ! 私は大丈夫です!」
「……ほんと?」
「はい! 限界だと思った時は素直に申します。なので、まだ大丈夫です」
正直、まだ心配。
私に気を遣っているだろうから、やっぱり無理はさせたくない。
「──あ、ちょっと待ってね」
指を噛みちぎって、血を床に垂らす。
そうして呼び出したのは、毎度お馴染みになった【血溜まりの棺桶】だ。
「れ、レア様……それはもしかして……」
「私の棺桶。色々な物をしまえて、すごく便利なの」
「吸血鬼は何よりも大切な棺桶を一つ所持していると聞きましたが、それがレア様の……! はぁ、美しい……」
「ん、ありがと」
吸血鬼の棺桶の話は、人間の間でも有名みたい。
でも、そんなに感動するものかな。気がついた時にはあったものだから、別に特別だとは思わない。便利だなってだけ。
「ん、んっと……」
棺桶の中に手を入れて、がさごそと漁る。
たしか、この中にアレがあったはずなんだけど……どこにいったんだろう。パパからプレゼントされて一度も使ったことがないから、あるのは間違いないと思うんだけどな────あ、あった。
「先生。これ、あげる」
そう言って手渡したのは一本の杖と、色々なアクセサリー。
私は使わないものだから、先生にプレゼントしようと思った。でも、
「こ、これは受け取れません!」
せっかく渡したのに、返されちゃった。
「レア様。これが何なのか理解しているのですか!?」
「……杖?」
「そうですが! そうなのですが……! これにはいくつもの魔法付与がされています。全魔法系統の威力強化だけではなく、魔力消費を激減させたり、魔法詠唱の補助もしたり──魔力を溜め込む魔石まで! これほどの物は国宝級、いいえ、伝説級すらも生温い! このアクセサリーもです!」
すっごく力説された。
パパからのプレゼント、そんなにすごい物だったんだ。
「でも、私は使わないから、やっぱり先生に使ってほしい」
「これを使うなんて恐れ多い。私なんかよりも、もっと相応しい使い手が」
「……もう、先生は傷つくところ……見たくないから」
「っ!?」
先生が死んじゃうって思った時、胸がすっごく苦しくなった。
もう、あんなのは見たくない。
だから、少しでも先生が安全でいられるなら、私が持っているものならプレゼントしてあげたい。国宝とか伝説とかどうでもいい。そんなものの価値より、先生の方がずっと……ずぅっと大切だから。
「…………分かりました。ですが、これは預かるだけです。レア様にとってこれが必要になった時、御身を最優先にして必ず申し付けてください。私は喜んでこれをお返しいたします」
「プレゼント、嫌だった……?」
私のことを好きでいてくれるなら、私からのプレゼントは喜んでくれると思ってた。
でも、逆にフィル先生を困らせちゃった。
…………迷惑、だったのかな。
「そうではありません。レア様が私のことを大切に思ってくれる。その上でこんな素晴らしい贈り物をくださった。嬉しすぎて舞い上がってしまいそうです」
「……なら、」
「しかし、私はレア様のことが一番なのです。これを渡したことでレア様を守るものが減ってしまうと思うと、少し心配になってしまいます」
……ああ、そっか。
先生はこれが私にとって大切なものだと思っているんだ。
「ん、大丈夫。これくらいの物は、まだまだいっぱいある。だから安心して?」
毎年、パパから同じようなものを貰っていた。
むしろこの杖は最初に貰ったからまだ弱い方で、棺桶の中にはもっとすごい物が眠ってる……はず。
「……そ、それはそれで恐ろしいですね」
だから大丈夫だよって言ったら、先生は笑顔を引きつらせた。
…………?
何がダメだったんだろう? ……まぁいっか。
「それじゃ先生、行こ?」
「ええ、行きましょう。勇者様方を助けに」
手を繋ぐ。
……あったかい。
この温もりを一生、手放したくない。
だから今は頑張らなきゃ……だよね。
Q.フィル先生はどのくらい強くなったの?
A.クレアのお爺ちゃんを片手でぶっ飛ばせる程度。
ちなみにクレアのお爺ちゃんは老弱していますが、元は真祖(吸血鬼の頂点レベル)でした。
パパからのプレゼント、恐ろしい……。