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47.愛称


 逃げられちゃった。

 どうしよう。追いかけたほうがいいのかな。


 ……うーん、面倒くさいや。


「せんせ、行こ」

「あ、少しお待ちください」

「……ん?」


 抱っこしてもらおうと両手を広げたら、待ってって言われちゃった。

 別に拒絶された訳じゃなくて、ちゃんと抱っこはしてくれたんだけど……先生、何か考えてるみたい?


「どうしたの?」

「いえ。この後の行動について少し、考えておりました」

「? 逃げるんじゃないの?」

「当初はその予定だったのですが、色々と予定が狂いましたので。果たして本当に、このまま逃げる必要が…………あ、もちろん最後は逃げますよ? ただ、全てを捨てる前にやるべきことがあるのでは、と」


 そう言われて、私も考える。


 フィル先生は最初、逃げることを最優先に考えていた。

 それは私が不死身じゃないという仮定のまま動いていたから。そして、人間だった先生もすぐに死んじゃうから。そうならないように逃げようとしていた。


 でも、もうその必要はない。


 吸血鬼になった先生は、すごく強くなった。

 契約の仕方は違ったけれど、私と契約したことには変わらないから、私が死なない限りは先生も死ななくなった。だから実質、先生は不死になったんだ。


 もう騎士なんかに逃げる必要はない。

 先生くらいなら百人が相手でも余裕で勝っちゃうもん。


 だから先生は、逃亡を優先して捨てていたことに意識してもいいんじゃないかって……そう言いたいんだよね。


「でも、何をするの?」

「……まずは勇者様方の救出を。今のうちに恩を売っておきましょう」

「?」


 先生の言葉に、少し引っ掛かりを覚えた。

 ハヤト達の救出は分かる。あの後、ハヤトのすっごく強い魔力を感じられなくなったから、多分捕まっちゃったんだろうなとは思っていたから。


 でも、恩を売るってどういうことだろう?


「主人様。これはパーティーの最後に公表する予定だったのですが、実は……すでに魔王の拠点と名前は判明していました」

「え、そうなの……?」


 これは初耳。

 そういえば魔王復活は『予言』で知ったって聞いた。拠点と名前も、その時に分かっていたのかな。


「その魔王の名は、クレア・クリムゾン。──貴女様です」

「…………え?」


 魔王が……私?

 えぇと、どういうことだろう。私が魔王になるの?


「私、人間と対立するつもりはないよ?」

「ええ、だからこそ貴女様の真名を知った時は困惑しました」


 私は人間を嫌っている訳じゃない。

 街のみんなに酷いことをするなら、こっちも相応のことはするけれど……好き好んで殺し合いをしたいって思ったことはない。


 なのに、私が魔王? ……なんの冗談だろう。


「これが真実はどうかはまだ分かりません。しかし、予言では貴女様が魔王だと示された。……なので今のうちに勇者へと良い印象を刻んでおくのです」


 もし本当に、私が魔王になった時──ハヤト達は私を倒すために動くことになる。

 私が住んでいるモラナ大樹海を目指して。


 それは、嫌だな……。

 ハヤト達も私に優しくしてくれたから、好きだ。


 せっかくできたお友達と戦いたくない。

 だから先生は、今のうちに魔王の印象を良い方向に変えようとしているんだ。


「ん、分かった。ハヤト達を助ける。ハヤト達を嫌いになりたくない、から」

「……ええ。私も主人様と勇者が争うところを見たくありません」


 …………。

 ……………………。

 ………………………………。


「主人様?」

「その呼び方、なんかやだ」

「えぇ!? も、申し訳ありません! しかし、私は主人様の眷属になった訳でして、どうお呼びしたらいいのか……」

「今までのままがいい」

「え、しかし……」

「命令。絶対」


 眷属になったフィル先生に、初めての命令。

 ここまで言われたら断れないと悟ったのか、先生は小さな溜め息の後、分かりましたって頷いてくれた。


「では、レア様と」

「……まだ、その名前で呼んでくれるの?」

「貴女様は私のことを『フィル先生』と呼んでくださいます。ならば私も今まで通り『レア様』と呼びたい。……その、前から愛称呼び、というものに憧れていまして……」


 後半照れながらそう言った先生は、とても可愛く見えた。


 ──愛称呼び。

 うん。すっごくいいと思う。


「ありがと先生。大好き」

「っ、ええ! 私もレア様をお慕いしております! ──あぁ! 私、今とても、とっても幸せです!」

「? うん。私も嬉しい」

「ハゥッ!」


 先生、急に自分の胸を押さえつけて……どうしたんだろう。

 なんか顔も赤いような気がする。


「ん、」

「っ!?」


 私のおでこを、フィル先生のおでこに当てる。

 ……ん、熱は無いみたい。吸血鬼になったせいで調子が悪いのかなと思ったけれど、違うみたいで安心した。


「はぁぁぁ……我が生涯、一片の悔いな、し……」


 心臓が一瞬だけヒュンッてなったと思ったら、先生がその場で倒れた。

 さっきよりも顔を真っ赤にさせて、目はぐるぐるって焦点が合ってない。……気絶してるみたい。揺さぶっても、頬をペチペチ叩いても起きる様子はない。


 …………どうしよう。


フィル先生は眷属になったことで色々と吹っ切れたみたいです。

(ラノベのタイトルみたいだな)

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― 新着の感想 ―
[一言] >フィル先生は眷属になったことで色々と吹っ切れたみたいです。 フィル「覚・醒! 今後は変態淑女と言われても、胸を張ってレア様の全身をprprすると誓いますわっ!」(よだれダバダバー) こ…
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