40.それぞれの思惑
生き残りを見つけられたのは嬉しい誤算だった。
でも、問題が解決した訳じゃない。私達はまだ逃げている途中で、このお城には沢山の騎士が巡回してる。
「フィンレール様。この城はすでに包囲されています。どこも騎士ばかりです」
「……ええ、いくつか出口はありますが、固められていると見て間違いないでしょう」
逃げ道はない。あっても騎士はそこを張っているだろうし、亜人が大嫌いな人達が私を逃すとは思えない。捕まえたっていう報告がない限り、警戒態勢を解くことはないだろう、って……これは先生の予想だ。
正直なことを言っちゃえば──足手纏いが増えた。
フィル先生みたいに多少は戦える人だったら、まだ良かった。
でも見つかったのはメイドさんで、当然、戦ったことがない一般人だ。現実を見ると、むしろ困ったことになったかもしれない。
頭が良いフィル先生は、それに気づいてる。
気づいていながら気づいていないフリをして、誰かを見捨てる選択肢を無意識に排除しようとしているんだ。
この中で決定権があるのは先生だ。私は守られているだけの存在だし、先生が決めたことに文句を言える立場じゃないってことは分かってる。
だから私は先生のやりたいことを肯定する。
今まで私のわがままを笑って許してくれた先生に、私も応えたいから。
「…………仕方ありません、当初に予定していた逃げ道とは異なりますが、王族専用の隠し通路を使いましょう」
「隠し通路? そんなのが、あるの?」
「ええ。……ですがそこは騎士団の演習場近くにあるため危険だと判断し、選択肢から除外していました。しかし、普通の逃げ道が騎士によって固められている以上、多少は無理をしてでも突破するしか我々に残された手段はありません」
王族専用ってことは、王族しか知らない隠し通路ということ。
そこなら騎士は見張っていないだろうし、隠し通路にさえ到達してしまえば私達は安全に逃げられる。
…………問題は、どうやってそこに移動するか。
「隠し通路はお父様の執務室にあります。ここから反対の場所にありますから、今まで以上に……慎重に進みましょう」
「ん、分かった」
「ミナもそれでいい? ……ミナ?」
「──あ、はい! 私はフィンレール様についていくだけです」
ミナは考え事をしていたみたい。
でも、それが見えたのは一瞬。すぐに笑顔を作って立ち上がった。
何を考えていたのかは分からない。
多分、不安なんだ。仲間はみんな殺されちゃって、周りは相変わらず敵ばかり。不安になって余計なことを考えちゃうのは仕方のないことだと思う。
気持ちは分かる。
だって私も、そういうことは何度もあったから。
◆◇◆
「──まだ見つかっていないのか?」
「奴らは巧妙に隠れているらしく、数十人もの騎士を巡回させて探しておりますが、今は何も……」
苛立ちを隠せず、舌打ちを鳴らす。
偽りの勇者レアと、それを庇護する生き残りの王女。
それを捕らえるよう命令してから一時間が経過した。巡回に回せる騎士を全て導入しても尚、影一つも見当たらない。この城が広いのか、それとも騎士が予想以上に使い物にならないのか?
おそらく後者だろう。
第一王女は多少魔法を扱えるようだが、実戦に出たこともない小娘。
忌まわしき亜人は他人の手助けがなければ動けず、訓練では何も教わることなく今まできたとバーグやマグノリアから報告を受けている。王女が何か入れ知恵をしていたらしいが、素人が教えたところで大した脅威にはならないだろう。
「早く探し出せ。最悪、王女の方は殺しても構わん。亜人はまだ殺すなよ。あれにはまだ利用価値がある」
「──ハッ!」
騎士が出ていく。
「…………使えない騎士だな」
「耳が痛いな」
同室にて待機しているバーグが、不満げにそう呟いた。
何が「耳が痛い」だ。全てこいつの教育不足が招いた結果だろうに。
「そう思うならお前が直接出向けばいいものを」
「わざわざ俺が出向く必要もない。出口はすでに固めてある。見つかるのも時間の問題だろう」
「もし見つからなかった場合は、どう責任を取るつもりだ?」
「あり得ないな」
断言された。そこまで自信があるということは、もしもの場合を想定してすでに何かしらの手は打ってあるのだろう。
「でもロマンコフ。本当に王女を殺しちゃっていいの? あれはあれで利用価値があると思うのだけれど」
「扱いづらい駒を持っていても面倒なだけだ」
あれは無駄に知恵が回る。
今回の革命も、あの王女に気づかれないよう立ち回るのに苦労した。
こちら側に引き入れる際の苦労を考えるより、さっさと邪魔者を排除してしまったほうが結果的には利益になるだろう。
「それじゃあ、私がやっちゃってもいいわよね?」
「お前が?」
「昔から気に入らなかったのよ。ちょっと才能があるだけで天才って言われて、うざいったらありゃしないわ。だからいつか私が殺したいと思っていたの。……ね? いいでしょう?」
以前から、マグノリアが第一王女に対して良い感情を抱いていなかったのは知っている。
こうして革命を起こし、大義名分のために王女を殺害できる機会が回ってきたことを喜んでいるのだろう。
正直、勝手な行動をしないでほしいというのが私の素直な意見だ。
しかし、マグノリアならば確実に殺してくれるだろう。
失敗はしないはずだ。下手な者に任せるより、彼女に任せたほうがいいかもしれないな。
「……好きにしろ」
手段は問わない。
王族の血筋は全て絶たなければならないのだ。
この私が、ロマンコフ・バトラーが──新たな王となるために。
折角のエイプリルフールなので番外編を書こうかなと思っていたのですが、純粋すぎるクレアに嘘をつくのは私の良心が許せなかったのでやめました。
どうも、クレア様に幸せになってもらい隊、隊長の白波ハクアです。