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39.隠れんぼ


「……長居しすぎましたね。そろそろ行きましょう」

「ん、分かった」


 本当は同じ生存者も探しながら行きたいけれど、それは後回しにする。

 他人よりもまずは我が身。先生も言ってたこと。人間の先生はすぐに死んじゃうから、余計に慎重に進まなきゃいけないんだ。


 それから私達は足音を立てないように進んだ。


『敵はこの国に存在する騎士団、その全て』


 先生はそう言った。

 この国はもう終わりだって。クーデターが起こったから、どうせみんな殺されるんだって。


 私は最初、その言葉を疑っていた。

 だって騎士団は国を守るのがお仕事で、自分達の主人である王族を命懸けで守るのが使命だって……それが騎士の生き甲斐なんだって、ラルクが教えてくれたから。

 だから騎士団の全員が敵だなんて、流石に言い過ぎなんじゃないかって思っていた。


 でも、その考えはすぐに間違いだったんだって分かった。


「っ、レア様……!」


 正面から近づいてくる人の気配。

 それからはすっごく嫌な気配がして、それを先生に伝えようと口を開くより先に、先生はすぐ横の部屋に入り込んだ。


「せんせ」

「しっ。……静かに」


 カチャ、カチャ、って硬いものが擦れる音が扉のすぐ近くで聞こえる。

 それは騎士が歩く音だ。

 このお城で何度も聞いていたから覚えている。


 …………本当に騎士が敵だったんだ。


 あの人からは嫌な魔力が漂っていた。それと、濃厚な血の匂いも。

 姿までは見えなかったから想像でしかないけど、きっと真っ白な鎧には大量の返り血がこびり付いているんだと思う。それは多分敵を殺したものじゃなくて、使用人達を皆殺しにしたものだ。


「…………やはり、クーデターは彼らが」


 敵は騎士団だって断言した先生も、心の奥底ではまだ騎士団を信じたい気持ちはあったみたい。

 でも、ダメだった。

 希望を裏切られた先生はすごく苦しそうな顔をしていて、守られているこっちが心配になるほどに弱り切っていた。


「先生?」

「…………大丈夫ですよ。大丈夫。私は、この程度では迷いません」


 無意識に頬を撫でていた。

 これをしてもらうと気持ち良くなって、すごく安心できるから、先生にもやってあげたら少しは気持ちが楽になるかなって思った。


 先生は「ありがとうございます」って微笑んでくれた。

 でも、その表情はまだ固くて、本当に大丈夫なのかなって、ちょっとだけ……心配。


 騎士が遠くまで行くのを待ってから、私達は行動を再開した。

 あっちも私達が逃げていることを知っているのか、出口が近づくに連れて騎士の数が多くなっていた。

 安全にお城を出られる場所はいくつかある。その全部を抑えられていると、誰にも見つからずに逃げ切るのはかなり厳しい。


 フィル先生から聞いた騎士団に所属する騎士の数は二百人くらい。

 その上、兵士も協力しているって考えると、フィル先生だけがどんなに頑張っても、どうにもならないかもしれない。


 先生もそれは理解している。

 だからなのかな。焦っている様子が背中越しに伝わってきて、見ているこっちも苦しくなった。




 そんな時、




「フィンレール様……! こちらです!」


 限りなく声を押し殺して、でもこっちにしっかりと聞こえる女の人の呼びかけ。

 声がした方向を振り向くと、少しだけ開かれた扉から『ちょいちょい』って手招きする人影が一つ見えた。


 メイドさんのお洋服。見覚えのある顔。

 ……多分、フィル先生の専属メイドだった人だ。


「ミナ! 貴女、生きていたのですね!」

「フィンレール様も、よくぞご無事で……ああ、本当にもう駄目かと」


 感動の再会、なのかな。

 フィル先生は私達以外の生き残りがいたことが嬉しいのか、涙を流して喜んでいる。たった一人。見つけられたのはとても少ない数だけど、それだけでも十分、先生の希望には繋がったんだ。


「他の者は? ……貴女だけですか?」

「申し訳ありません。私以外は、おそらく……」


 メイドさん、ミナさんは事の顛末を少しづつ話してくれた。

 ミナさんを含めた使用人がいつも通りお仕事をしていて、休憩時間になったからお部屋でお茶を飲んでいた。その時、急に沢山の騎士が押し入ってきたみたい。


 一瞬の出来事だった。


 なんの力も持たない一般人が騎士に抵抗できるはずもなく、みんな斬り殺された。

 話し合いなんてさせてもらえない、一方的な虐殺。ここに来るまで私達が見てきた光景から、容易に想像できる惨劇の始まりを聞いた。


「私は咄嗟に隠れ、どうにか逃げ切ることができました。──でも、っ! 仲間が殺されているところを見ているだけだった自分が情けなくて……!」

「…………もういいです。もう大丈夫。大勢が死んだのは悲しいことです。しかし、その中で貴女だけでも生き残っていたことが、私は嬉しい。……ミナ、私達はこの城を脱出します。共に行きましょう」

「フィンレール様……はい! 私もどうか、貴女と一緒に」


 きっと、ミナさんは幸運だった。

 他の人は多分もう死んでいて、彼女以外の生き残りには期待できない。


 でも、一人助けられた。

 そのことにフィル先生は、とても安心した笑顔を浮かべていた。


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