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33.革命(ハヤト視点)

※※※ 微グロ注意です ※※※


 静まり返った会場の中、女性が発した悲鳴で時は動き出した。

 そこから波紋のように動揺と混乱が生じていく中、俺は未だに何が起こったのか理解できずにいた。


 いや、本当は理解している。

 パーティーの中、誰もが油断していたのを狙って国王と王妃の首が斬られた。


 襲撃?

 ──違う。これは裏切りだ。


 その犯人は死んだ二人の側に立っている。

 俺はその人物を見たことで、余計に混乱してしまった。だってその人は国王に仕える一番の家臣だった人で、裏切りには一番程遠い人だと思っていた人だったから。


「静まれぃ!!」


 血に濡れた剣を片手に、その人──ロマンコフさんは叫ぶ。

 それは温厚そうな彼からは考えられない野太い声で、それを受けた会場の貴族達は完全に萎縮してしまっていた。


「さ、宰相殿! 一体なに──」


 たまらず叫んだ貴族の一人は、それ以上何も言わなくなった。

 理由は単純。近くに待機していた騎士によって、その首を刎ねられたから。


「動くな! 貴様らはすでに包囲されている!」


 それを合図に大勢の騎士がパーティー会場になだれ込んできた。

 この騒ぎを聞きつけて助けにきてくれたのかと思った。しかし、希望はすぐに裏切られた。なぜなら、彼らは皆──殺意をむき出しに剣の切っ先を俺達に向けていたから。


「人間でありながら他種族に情けなく媚びへつらう愚かな王と、それに従う王妃は倒れた!

 これより、ラットベルン王国は新たに生まれ変わる。私、ロマンコフ、騎士団長バーグ、魔法師団長マグノリア。この三名は第二王女エルミリアナ様を新たな女王と定め、ここに真なる『人間のための国』を治めると宣言する!」


 ──革命の時だ!

 ロマンコフはそう言い、剣を振って付着した血を払った。


 その姿は歴戦の剣士のような風格を感じる。

 噂に聞いた話によれば、彼はかつて名を馳せた騎士だったらしい。老衰すると同時に前線を引退したと聞いていたのに、宰相となった今でも、当時の覇気は衰えていないように思えた。


「我々こそが最も優れた種族である! 亜人などに頼らず、魔物などには屈せず、我々こそが全ての大陸を支配するものであると世界に知らしめるのだ!」


 この国には二つの派閥がある。

 より良い繁栄のため、他種族との貿易を盛んに行って技術を学ぼうとする肯定派。

 人間こそが最も優れた種族だと言い張り、他種族との交流を一切認めない否定派。


 国王や王妃、第一王女が肯定派だったこともあり、今までは肯定派の勢力が強かった。だからレアが勇者として召喚されても問題にはならなかったし、すぐに受け入れられた。


 でも、今日この時、全てがひっくり返った。


「さ、宰相……? これは一体、どういうことですの?」


 喧騒に包まれた会場に、未だ状況を理解していない少女の声が聞こえた。

 たった今、ロマンコフや他二名によって新たな女王として任命された第二王女、エルミリアナ様だ。


「事前に申した通りです。今日この日をもってエルミリアナ様が女王となり、この国に住む亜人を駆逐いたします。なぁに、心配することはありません。私や騎士団長、魔法師団長が精一杯支援しますので、貴女様はただ玉座に存在していただければ、それで何も問題は」

「そういうことではありません! わたくしは、ここまで望んでいなかった! なぜお父様やお母様を……! ただ亜人を追い出せば良かったのではありませんの!?」

「エルミリアナ様。この世界はそんな簡単ではありません。革命に悪しき為政者は必要ありません。だから殺しただけのことです」

「っ、いや! いやぁ! お父様ぁ! お母様ぁ! ごめんなさ、ぃ……! わたくし、こんなことになるなんて、知らなくて……ごめんなさい! ぅ、ぁぁああああああああ!」


 第二王女の嘆きが反響する。

 その様子を、宰相は──ただただ冷酷な瞳で見下ろしていた。


「……ふぅ。他国からの圧力を抑制するために第二王女だけは生かしておこうと思ったが、これでは何の役にも立たん。生かしてやっても足を引っ張られるだけか」


 ロマンコフは呆れたように溜め息を吐き出し、バーグはおもむろに剣を鞘から抜いた。


「あら、殺しちゃうの?」

「足手纏いになるよりはマシだ。扱いやすい傀儡になると思ったが、所詮は愚かな王族だったな。ここで血筋を完全に断っておいたほうが、今後のためにもなるだろう」

「ふーん、まぁ好きにすれば?」


 剣はゆっくりとエルミリアナ様に吸い寄せられる。

 そして、狙いを定めた切っ先が彼女の首に振り下ろされ────


「やめろぉおおおおおおお!」


 自分自身に【加速】のスキルを纏わせて、駆ける。

 これ以上、俺の眼の前で誰かを殺させてはいけない。その一心で動き出した体は、全てが手遅れになる前にギリギリ届いた。


「やめてください、騎士団長!」

「ハヤト。俺の邪魔をするのか」

「します! エルミリアナ様まで死なせる訳にはいかない!」

「そうか」


 油断はしていなかった。

 相手は騎士団長。俺の師匠だった人だ。だから彼を絶対の敵だと思って、何が何でも倒す覚悟でいた。


 でも、気付いた時には、俺の体は遥か後方に吹き飛ばされていた。


 何が起こった?

 何をされた?


 何も見えなかった。

 剣を弾く動作も、動き出す前兆も、何も…………。


「勇者とは言え、まだ剣術を覚えたばかりの子供。俺には勝てない」

「それでも、っ!?」


 再び立ち上がろうとした。

 でも、全く違う方向から飛んできた光の縄で体を縛られ、身動きが取れなくなった。


「もー、遊んでる場合じゃないでしょう? さっさと殺しちゃいなさいよ」

「ああ、そうだな」


 振りほどけない。

 今すぐに動かなきゃ、また人が死ぬというのに!


「ではさようなら、第二王女。大丈夫です。すぐに貴女のお姉様も、そちらに送って差し上げます」

「っ、ぐぅあああああ! やめろぉ! お願いだから、やめ──!」


 ザシュッ、と無慈悲な一撃が少女の首筋に食い込み、その勢いのまま断ち切られた。


 ゴロゴロと王座から転がり落ちる頭。

 それは絶望に染まり、大粒の涙を流していた。


「………………あ、あぁ……」


 酷い最後を迎えたエルミリアナ様。

 彼女はお世辞にも良い人ではなかった。人に好かれるような性格でもなかった。でも、それは幼かっただけだ。まだ彼女は成長することができた。未来があった。自分の気持ちに素直になれば、将来はきっと良い女性になっていたはずだ。──こんなところで死んでいい人ではなかった。


「あぁ、あ、ウアァアアアアアアアアア!!!!!」


 もうそれは叶わない。

 何もできなかった。自分が弱いから救えなかった。俺は勇者なのに、守りたいと思った人すら、一人も守れない。


 ──憎い。


 この地獄を作り出した奴らが憎い。

 自分の弱さが憎い。


 この現実がどうしようもなく──憎いと思えた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 劣等感の見せ方。 ○○至上主義とか唱えるやつって、大抵は他種族や人種と比べてどこかに認めたくない、劣ったところから目を背けたがると聞く。 俺達は○○に負けてない! を強くこじらせて身内…
[一言] すげー、否定派が魔王生み出しちゃいそうだよ
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