31.お披露目する
「諸君、この度は王族主催のパーティーに参加してくれて感謝する」
王様の声が聞こえる。
召喚された初日に会ってから一度も聞いてなかった、フィル先生のパパの声だ。
「貴族の間ではすでに噂になっていることだろう。わが国では勇者召喚に成功し、今日、この場をもって正式に勇者のお披露目をすることとなった」
それまで静かに王様の言葉を聞いていた貴族達から、小さな歓声が上がった。
勇者召喚をしたことは噂になっていても、私達はずっとこのお城で生活していたから、本当に召喚に成功したのか半信半疑だったんだと思う。
このパーティーで王様が正式に『勇者のお披露目』を発表した。
余程、勇者っていう存在は大きいんだろうな。貴族達は希望に目を輝かせていたけれど、一部は不安を隠せずに暗い顔をしていた。
勇者召喚が成功したということは、魔王復活の時が近いということ。
たしか、今までの魔王との戦いは全大陸を巻き込む大戦争になったんだっけ? 自分達が戦う訳じゃないと分かっていても、もしかしたら被害が及ぶかもしれないって怖くなっちゃったのかな。
もし戦争になったら、私の街は大丈夫かな。
モラナ大樹海まで巻き込まれるとは思わないけれど、もしもの場合もある。ここで聞いたことをクロ達に話して、今のうちに街の防衛を強化しておくのもいいのかも。
「召喚に応じた勇者は四名。彼らはすでに訓練の中で驚くべき成長を遂げており、此度の魔王との戦争では期待以上の戦果をあげてくれるだろう。──では勇者諸君。こちらへ」
合図されて、私達は天幕から登場する。
「勇者ハヤト。勇者ミカ。勇者ユウナ。勇者レア。この四名が此度の召喚に応じてくれた勇敢な戦士である」
参加している貴族は私達の姿を見て顔を輝かせた。
でも、私を見た途端、すぐにそれは困惑の色に変わった。
やっぱり私は例外なんだろうな。
今まで勇者は異世界から召喚されて、それは等しく人間だった。亜人が勇者として召喚されたことは無いから、みんなの戸惑いも分かる。
それに加えて私は足が不自由っていう設定がある。
こんなものに人間の未来を任せていいのかって不安になるのは、仕方ない。
「……大丈夫ですよ。レアちゃん」
ユウナが私の頭を撫でてくれた。
ハヤトとミカも、私を守るように立ってくれた。
「……このように勇者の絆も強い。第一王女であるフィンレールからは『今までの勇者の中では、最も期待できる四人だ』との見解も得ている」
「おお、フィンレール様が」
「第一王女殿下がそういうのであれば、間違いないですね」
「此度の戦いも勝てるかもしれない!」
フィル先生の言葉を聞いた貴族は、一斉に目の色を変えた。
すごい信頼だ。
もしかして、先生はこうなることを予想して、事前に根回しをしてくれていたのかな。
「………………」
先生はこっちを見て微笑んでいる。
その目はとても優しくて、とても安心できた。
「今後は貴殿らに協力を仰ぐこともあるだろう。その時は協力を惜しむことなく助力してほしい」
そういう挨拶を終えて、パーティーは自由行動になった。
と言っても、沢山の貴族達が代わる代わる挨拶しにくるせいで、あまり場を離れることはできなかった。
パーティー会場には色々な料理が並んでいて、どれもすごく美味しそうな見た目だったから気になっていたのに……しばらくは食べられなさそうで残念。
それに、私にはもう一つの問題が近づいていて…………。
「レアちゃん。……レアちゃん!」
「……んみゃ」
意識がどっかに行っていた。
朝早くから色々と準備してて、あまり満足して眠れなかったから、今になって少し眠くなってきちゃった。
「レア、眠いの?」
「……ん、でも……もうちょっと、頑張る…………」
「どう見ても頑張れる状態じゃないわよ、それ。……どうする? あとは私達に任せて、レアは先に戻っちゃっていいわよ」
ここでミカの誘惑の言葉が。
…………どうしよう。
「レア様はもう十分、頑張りました。無理はなさらないでください」
貴族への挨拶回りを終えたフィル先生がやってきて、ミカと同じことを言ってきた。
「先生? ……でも、」
「ではこうしましょう。レア様は大勢に囲まれるのは得意ではなく、初めてのパーティーで疲れてしまったと。これならば誰も文句を言わないでしょう」
それで良いのかなって思ったけれど、意識しちゃったせいで本当に眠くなってきた。
みんな甘やかしてくれるし、私も甘えちゃおうかな。
「折角ですから、会場近くの庭園でお休みしませんか? これから音楽隊の演奏が始まるので、それを聞きながら眠るのもたまには良いかと思いますよ。ついでにケーキも持っていきましょう。まだ食べていませんよね?」
「ん、行く……」
「俺達も落ち着いたらそっちに行くよ。また後で会おうね」
「分かった。……おやすみなさい」
ハヤトの声に、私は頷いて答える。
残ってくれる三人に「ばいばい」って手を振って、フィル先生に車椅子を押してもらいながら、私はお外に出た。
庭園には沢山のお花が綺麗に咲いていた。それを眺めながらケーキを食べて、フィル先生の膝枕で横になる。
ちょうどいい感じにお日様も当たって、すごく気持ちが良かった。
「今日はありがとうございました」
フィル先生はそう言った。
でも、感謝されるようなことをした覚えがないから、私は首を傾げる。
「……ん、私は……何もしてないよ?」
「いいえ。無理をしてでもパーティーに参加してくださいました。それだけで感謝を申し上げるには十分です」
勇者のお披露目パーティーで、勇者が参加しないのはおかしい。
だから頑張ってみようって思っただけ。
結局、最後までやりきることはできずに、こうしてフィル先生と会場を抜け出すことになっちゃったけれど……。
「おやすみなさい。レア様。今日は本当に……お疲れさまでした」
「……ん。おやすみなさい」
フィル先生のなでなで。
それはとても優しくて、温かくて、安心感に包まれるような気分になった私はすぐに、夢の中まで落ちていった。
リアルでの山場を終えて、自由の身になった私です。
しばらくは執筆に専念できるので、色々と頑張っちゃおうかなと思っております。
(タイミング良くなろうコンも開催されているし、来週あたりにでも新作を出しちゃおうかな……?)
お楽しみに、です!