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26.魔弾の進化


「レア様の魔弾は伸び代があります」


 部屋に戻ってすぐ、フィル先生はそう言った。

 相当、魔法のお話をしたかったんだと思う。前置きも無しに話を進めるフィル先生は珍しい。


「伸び代って?」

「レア様は魔弾を放つ際、何も考えていませんよね?」


 頷く。

 前にも言ったけど、当たってほしいとは思っていても、それ以外のことは特に何も考えていない。


「つまり、レア様の魔弾はまだ初期段階。言い方は悪くなってしまいますが、まだ空っぽなのです」

「…………?」


 そう言われても、いまいちピンとこない。

 それは私が馬鹿だからなのか、単純に魔法の意識が足りていないからなのか。……多分、どっちもだろうな。


「レア様の魔弾はまだ成長できるはずなので、威力の高い魔力を撃ち出す以外のことも可能なのではないかと私は考えています」

「魔力を撃ち出す、以外のこと……?」

「例えば、範囲を狭めることによってより威力の高い魔弾を放つとか。逆に威力を低くする代わりに範囲を大きくするとか」

「んと、色々な魔弾を作る……ってこと?」

「その認識で間違いありません」

「おおー」


 ただ魔力を撃ち出すだけじゃない。

 威力を高くしたり、範囲を大きくしたり。色々な魔弾を考えれば考えるほど、魔弾の選択肢が増えていく。


 それは……うん。すっごく面白そう。


「でも、出来るかな……」

「可能かどうかは分かりません。出来るなら今日試したかったのですが、訓練場はあの有様ですからね」


 今から戻って実験してみても、多分、沢山の人の目があるせいで十分な成果は得られないと思う。


「なので、今日は着想の日としましょう。今日のうちに様々な魔弾を考え、次の訓練日に何が出来るかを試してみるのです。簡単なものから難しそうなもの。レア様がこうしてみたいと思ったもの。何でもいいので今日出たものを忘れないように、紙に書き写しておきましょう」


 と、フィル先生はどこからか分厚い紙束を出した。

 いったい、どれだけ書くつもりなんだろう。


 先生のやる気はすごく伝わってくる。

 魔弾を使う本人を押しのけて気合が入っているから、自然と私も頑張らなきゃって気合が入る。


「ふっふっふっ……その話、聞かせてもらったぁ!」


 どこからともなく聞こえてきた声。

 ──バァンと部屋の扉が開かれて、入ってきたのはミカとユウナ、訓練場で魔法を習っていたはずの二人だった。


 これには私もフィル先生も驚いて、しばらく二人を凝視する。


「ミカ、ユウナ……?」

「お二人とも、訓練はどうされたのですか?」

「切り上げてきたわ。第二王女とその他ったら、人が頑張っている横でワーワーギャーギャーうるさくて……」

「挙句には暇になったのかその場で世間話をし始めたので、集中できないからと帰ってきちゃいました」


 ああ、なんか容易に想像できるな……。


「ハヤトは?」

「第二王女が張り付いていたから置いてきたわ」

「置いて行かないでと視線で訴えられましたが、流石に第二王女様まで連れてくる訳にはいきませんからね」


 つまりハヤトは、あの人達を食い止める犠牲になったんだ。

 私は第二王女に嫌われているみたいだし、ハヤトと一緒に来ちゃったら本末転倒だったから、それは素直にありがたいと思う。


 でも、置き去りにされたハヤトがちょっとだけ可哀想。

 …………なむなむ。


「それで、レアちゃんのところに遊びに行こうと思ったら、なんか中から面白そうな話が聞こえてくるじゃないの」

「ぜひ私達も力になれたらと思って、お話に参加してもいいですか?」


 断る理由はない。

 ミカもユウナも、私に良くしてくれる。

 それに二人は異世界から来た人間だから、私とフィル先生じゃ考えもつかないような発想を思いついてくれるかもしれない。


「ん、手伝ってくれると、嬉しい」

「勿論よ! それで、どういう内容なの? 意見の食い違いがあったら怖いから、とりあえず詳しい説明をお願いしたいのだけれど……」

「それなら私から説明いたします」


 フィル先生が立ち上がって、こほんと咳払いを一つ。


 ああ、これは来るな。

 私は深呼吸を一つ、覚悟を決めた。


「今回の議題はレア様独自の魔法──魔弾についてです。威力は中級程度で無詠唱。素晴らしい魔法なのにも関わらず実はただ魔力を撃ち出しているだけなのです。それはつまり伸び代があるということ。まだまだ改良の余地があると思った私は、魔弾の更なる進化のために話し合おうと考えました。例えば────と、そのように────ですので、私は──────しかし────これで──────────」


 永遠と続くフィル先生の魔法理論。

 私はもう慣れたけれど、急な弾幕口調にミカとユウナは目を白黒させていた。


 多分、二人の中では、フィル先生はお淑やかで物静かな印象があったんだと思う。

 それが今は一切感じられない。むしろ部屋の温度が上がったんじゃないかって思えるくらい、先生の周囲が燃え上がっているようにも見える。


 だって、おかしいもん。


 フィル先生は魔法を使っていないのに、その背後に赤色の何かが揺らめいている。

 これを他人にまで視認させちゃうフィル先生の魔法好きなところは、本当にすごいと思う。


「────────私────で、────────────」


 ここまで来たら、先生は満足するまで止まらない。

 だから適当なもので遊びながら、その演説が終わるまで待つ。


 …………話?

 ほとんどを聞き流しているけど、なにかある?


先生、再び暴走。

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