25.高笑いは耳が痛い
「オーホッホッホッ!」
訓練場に、耳障りな高笑いが響き渡る。
その声の主人は第二王女様。名前は忘れた。
見学に来たのかな?
なんか沢山の貴族っぽい人達を引き連れながら急に現れて、強引に参加し始めた。
正直に言っちゃっていいなら、ただの迷惑。
沢山の貴族の人達がいるから訓練場は狭くなったし、そこに魔法を打ち込んじゃったら大問題になるから、気軽に魔法の練習もできない。
それに────
「あれが亜人の勇者か」
「本当に勇者なのか? 怪しいだろう」
「見て。あの魔力……気味が悪い」
第二王女は亜人否定派だって聞いた。
なら、その人に付き従っている貴族も当然、否定派だ。
「…………むぅ……」
ずっと見られているせいで居心地が悪い。
私は吸血鬼で人間よりも五感が発達しているから、意識すれば遠くのヒソヒソ話でも普通に聞こえる。訓練場くらいの範囲なら真正面で話している時くらい鮮明に聞こえるから、逆に意識していなくても聞こえちゃうのが不便……。
でも、ここで文句を言ったら怒られそうだし……どうしたらいいんだろう。
「むぅ……」
だから、私は唸ることしかできない。
色々な人に見られて、魔法の練習ができなくて、やることがないせいで眠くて……あ、瞼が重く…………。
「集中できませんか?」
と、フィル先生の声が降ってきた。
「ん、ごめんなさい……」
「レア様が謝ることではありませんよ。悪いのはむしろ、あの人達ですから」
それでも、忙しいフィル先生の時間を無駄にしているのは本当のことだから、申し訳ないなって気持ちはある。
「レア様が我慢できないようであれば、私が出て行くように注意しましょうか?」
「……んーん。そこまでしなくても大丈夫」
目障りで耳障りなのは本当だけど、そこまでは望んでいない。
ここでフィル先生を頼って余計に亀裂が生じるのは嫌だし、そのせいで先生にまで迷惑がかかるのはもっと嫌だ。
それに不幸中の幸いで、第二王女はずっとハヤトにベタベタしてるから、本人はこっちに興味すら示さない。
暇している同じ否定派の貴族達が、私のことを話しているだけ。
今のところ邪魔はされてない。
だから、余計に関わりたくないというのが私の本音。
「それなら今日はお部屋に戻り、作戦会議としましょうか」
「? 作戦会議?」
「ええ。そろそろレア様の魔弾をかいぞ──強化したいと思っていたので、どのように強化するかの作戦会議をしたほうがいいかと」
「今、改造って言いかけた?」
「気のせいです」
「え、でも、」
「気のせいです。忘れてください」
「……う、うん」
フィル先生の笑顔に、圧を感じた。
シュリが怒った時の様子に似ていたから、ああこれは指摘したらダメなやつだと思って、黙ることにした。
「とまぁ、ここは否定派が多く居心地も悪いでしょうから、場所を変えて気分転換にお話ししましょう。途中で眠くなればすぐに眠れますし、邪魔もされることはない。良い提案だと思いますよ?」
フィル先生の提案は、すごく良いと思う。
でも、放置されているとは言え今は訓練の時間だ。勝手に抜け出しちゃっていいのかな。
そう聞くと、フィル先生は問題ないと答えてくれた。
「それで文句を言ってくるようであれば、私が直接、訓練の現状を陛下に報告するだけです。勇者の教育を怠っているどころか放置していると知られれば、マグノリアの立場は危うい。それを理解できないほどの馬鹿ではありません」
レア様を放置している時点で救いようがありませんが……と、最後に一言だけ本音がポロッて漏れちゃったフィル先生。
「と、いうわけで……レア様」
手を差し出される。
私は迷うことなく、その手を握り返した。
「ん、お部屋に戻る」
「はい。そうしましょう」
フィル先生に手伝ってもらいながら車椅子に座る。
そのまま訓練場から出る一瞬、チラッと見えたのは──憎悪に染まった魔法師団長の顔だった。
最近、本当に眠すぎて永遠に眠れます。
作者までもを堕落させてしまうクレア様、恐ろしい子……。