23.嫌な違和感
夜、ハヤト達が私の部屋に来た。
最近何をしたとか、訓練で何ができるようになったとか。そういうことをお話ししようってミカが言い出して、それから何度かこうして集まっている。
集まるのは、これで四回目。
最近は訓練が本格的になってきて、あまり時間を取れなかったのもあって、こうして集まるのは久しぶりだ。
「へぇー、レアちゃんは魔法具をお勉強したのね」
「ん、そっちは?」
「こっちはずーっと王国の歴史ばかりだよ。俺達もレアみたいに、もっと別のものを学びたいのに……」
ハヤト達を担当している先生の人は、王国でも有名な家庭教師らしくて、そのせいか一つのことを徹底的に教え込まれているみたい。
ハヤト達はこの国の歴史なんかに興味はないから、すごく退屈しているんだって。
その上、なぜか第二王女がハヤトに懐いているみたいで、いつもいつもお勉強の場所に混ざってくるせいで余計に難しい知識を学ぶことになっているとか……。
でも、そこで文句を言えないのが辛いところ。
私みたいに意見をズバッと言えるようになりたいって、その言葉が最近のミカの口癖になりつつある。
「でも、そうか。魔法具か……」
「ん、ハヤトは魔法具……興味あるの?」
「俺は魔法が得意じゃないからさ。でも、この二人は御構い無しに色々な魔法を使いこなしているだろう? そのせいで魔法に憧れがあるんだ。魔法具があれば俺も似たようなことができるのかな……って思っただけ」
「ハヤトは変なところで不器用だものね。……一人じゃパソコンすら満足して操作できなかったっけ」
「不器用というより機械音痴だよね。そんなハヤトが魔法具を扱えるのかなぁ」
「ちょ、流石に酷いよ!?」
ハヤトが悲痛に叫んで、ミカとユウナがくすくすと笑う。
そんな三人を見ているだけで、私も……楽しい。
「────、……?」
そんな時、私は不意に感じた違和感に首を傾げた。
なんだろう。体に嫌な魔力が纏わりつくような、ハヤト達以外の誰かに見られているような……。
──気持ち悪い。
「レアちゃん? どうしたの?」
「何かありました?」
他の三人は、まだ気づいていないのかな。
魔法の訓練を受けているミカとユウナなら気付くかなと思ったけれど、二人の様子は一切変わっていない。
言ったほうがいいのかな。
……ううん。これは言っちゃダメだ。理由は分からないけれど、嫌な予感がする。
「……眠く、なっちゃった」
「あ、ごめん。随分長く話し込んじゃったね。今日はもうお開きにしようか」
「…………ん、ごめんなさい」
「仕方ないよ。俺達も明日早いからもう寝なきゃ」
じゃあね。また集まろうねって言って、私達は解散する。
さっきまでの変な魔力は、もう感じない。
ハヤト達が部屋を出て行ったのと同時に、綺麗に消えちゃった。
……なんだったんだろう。
ちょっと気になる。
このまま眠ってもいいんだけど、さっき感じた嫌な違和感が……頭に残る。
「ん、しょ……」
ハヤト達から貰った車椅子に乗って、私は部屋を出る。
とても広くて長い廊下は一切の音が聞こえなくて、少し不気味だ。
それに最低限の明かりしかないせいで暗い。人間だと手持ちの照明を持たなきゃ満足に歩けないくらいで、当然だけど歩いている人の気配は感じない。
でも、私は吸血鬼だから夜でも問題なく見える。
私は迷うことなく、さっきの魔力が漂ってきた方角に向かって車椅子を動かしていくと…………。
「──! ──、────!」
遠くの方から、誰かの話し声が聞こえてきた。
魔力が流れてきたのと同じ方向。気になって近づいてみると、そこには他の部屋よりも豪華な部屋があって、話し声はその中から聞こえてくる。そして、さっきの話し声は女の人の怒鳴り声だってことも分かった。
でも、防音がちゃんとしているのか上手く聞き取れない。
扉の前まで行きたいけれど、これ以上近づいたら中の人に気付かれちゃうかも……。
そう思って悩んでいると、その部屋の扉が内側から開かれた。
「また伺いますわ。どうか、間違いのない選択をしていただけることを期待しています」
……あの人、知ってる。
魔法師団団長の、えぇと……マグ……なんだっけ。
マグさんは不機嫌そうに鼻を鳴らして、私のいる位置とは逆の方向に歩いて行った。
どうしてあの人がいるんだろう。
あの部屋の人に、何か用でもあったのかな。
でも、それにしては嫌な雰囲気だった。……喧嘩かな。
「…………うーん、分からないや」
嫌な魔力はもう感じない。
これ以上進んだら誰かに会いそうだし、戻るのが面倒になる。
調査は終わり。
私はおとなしく部屋に戻って、明日のお勉強のために寝ることにした。