22.魔法具
ハヤト達から車椅子という物を貰ってから、私は色々と行動しやすくなった。
何かしたい時にわざわざ誰かを呼ばなくてもいいし、迷惑をかけることもない。
……まぁ、だからと言って意味なく動こうとも思わないけど。
「では、今日は魔法具について学びましょう」
今日はフィル先生とのお勉強の日。
お勉強をするのは私の部屋だから、移動は必要ない。
車椅子を貰ったからって、案外使う場面ってないのかも……?
「レア様は魔法具について、どれくらい知っていますか?」
「…………? 何それ?」
魔法具。聞いたことがないや。
『魔法』って名前が付いているくらいだから、それに関係する何かだとは思うけれど……。
「魔法付与がされている道具のことを、魔法具と言います。一見するとただの物なのですが、そこに魔力を流すことで火を起こしたり、水を生み出したりできます。魔石を組み込むことによって、魔法を使えない人も魔法具を扱うことも可能です」
夜に光りだす街灯がそうだと、先生は言う。
「それなら、知ってるかも」
私の屋敷にも、そういう不思議な道具は沢山あった。
物心ついた時にはそれを使うのが普通だと思っていたから、便利な物もあるんだなぁって思っていたけど……あれが魔法具だったんだ。
屋敷にあった魔法具のことを話すと、フィル先生は首を傾げる。
「魔法具は特殊な魔法付与が必要で、そのどれもが高価なのですが……もしかして、レア様は裕福な家庭の者だったのですか?」
「……ん? ……んー、多分」
パパは吸血鬼の代表だった。
だから一番大きな屋敷に住んでいたし、望んだものは何でも用意してくれた。
吸血鬼領は森の奥深くにあったし、他種族との交流がなかったせいで自給自足の必要があったから、人間の王族ほど豪華な暮らしではなかったけれど……裕福ではあったと思う。
「魔法付与はドワーフが持つ特殊技術です。今ではもうドワーフの数も減少し、王国ですら協力者の数は心許ない。そのため魔法具の価値は年々、上昇しています」
ドワーフが持つ技術。
それなら、ガッドさん達も同じことができるのかな。
「それって大変なの?」
「え? ……ええ、簡単な魔法を付与するだけでも、かなりの集中力と技術力が必要だと聞きます。ドワーフの中でも指折りの職人のみが、その技術を取得しているとか」
「…………そう、なんだ」
簡単な魔法でも、大変……。
魔法具があれば街での生活がもっと楽になるかと思ったんだけど、フィル先生の話を聞いた後だと、すごく大変だって知っていながらお願いするのは……申し訳ない気持ちになる。
魔法付与……あれ? そういえば魔法付与がされているのって他にもあったような……。
「収納袋も、魔法具なの?」
「あれをご存知なのですか?」
「……ん。仲間の冒険者の人達が持ってた」
収納袋はとても貴重で、盗もうと企む人もいるほど高価だって、ミルドさんが言っていた。
だから、あれも同じ魔法具なのかなって思った。
「あれも同じ魔法具ですが、少し特殊です。あらかじめ袋の中に魔法式を描き、触れた物を異空間に収納する……というものですね。使用者の魔力も魔石も必要がないこともあり、他の魔法具よりも価値が高く取引されています」
魔力も魔石もいらない。
確かに、人間達が何かしている様子はなかった。
普通に物をしまって、普通に物を取り出しているみたいだったから、本当に便利そうだなぁって見ていた。
「収納許容量によっては貴族さえも購入を渋るほどですから、冒険者はもっと難しいと聞いています。それを購入するだけでも、その者は凄腕の冒険者と認められるようです」
「……そうなんだ」
「ええ。なので、レア様のお仲間である冒険者の方々は、きっと素晴らしい実力をお持ちなのでしょう」
みんなのことを褒められると、こっちも嬉しくなる。
「ん、みんな……すごい人達」
「もしかしたら名を馳せている方々かもしれません。その冒険者の方のお名前は?」
そう聞かれて、言葉に詰まる。
ミルドさんは元ギルドマスターだし、ゴールドさん達もそれなりに有名な冒険者だったと聞いている。
もしかしたら名前を知っているかもしれないから、ここで正直に名前を教えると……最悪、変に思われちゃうかもしれない。
「あ、申し訳ありません……。お名前は個人情報ですので、言いたくないのであれば言わなくても大丈夫ですよ」
「ん、ごめんなさい」
「いいえ。……ですが、レア様のご友人です。いつか会ってみたいですね」
いつか会ってみたい、か……。
それができるといいなって思う。でも、それが難しいことを私は知っている。
だから私は、曖昧に頷くことしかできなかった。