21.プレゼント
ハヤトと話した翌日、私は勇者の三人から「訓練場に来てほしい」って呼び出された。
今日は何もない日。
授業も訓練も、お休みの日だ。
でも、侍女さんを通じて呼び出されたから、仕方なく私は指定された時間に移動を開始した。
「……なんだろう」
「さぁ、なんでしょうね」
荷台で私を運んでくれているのは、フィル先生。
もう専属と言っていいくらい、先生は私の身の回りのお世話をしてくれる。
前に住んでいた屋敷で働く、ミランダ達を含む使用人と変わらない手際だから、不自由だとは思わない。
でも、王国のお姫様にこんなことさせていいのかなって、たまに思う。王族だから忙しいだろうに、フィル先生は「気にしないでください」って優しく言ってくれるから、ついつい甘えちゃうんだ。
改めて、私って誰かに頼らなきゃダメなんだなぁって思った。
そう理解しても、それを直したいとは思わない。
やっぱり私はどこまでも堕落していて、自分の願いを最優先に考えちゃうから。……だから私は、これから先も誰かに頼り続けるんだろう。
だからその分、私は感謝の気持ちを忘れないようにしたい。
私を大切に思ってくれる人達のことを、私も大切にしたいって……そう思う。
「レア様、着きましたよ」
と、色々と考え事をしていたら訓練場に着いたみたい。
中に入ると先にハヤト達が待ってくれていて、三人の側には見覚えのない物体が一つ置かれていた。
あれは椅子……?
でも、ただの椅子じゃないみたい。その両脇には馬車の車輪みたいなのが付いているし、背面には荷台みたいな手で押すところがある。
なんだろう。
私の知らない椅子なのかな。
「やぁ、急に呼び出してごめんね」
私の姿を見つけたハヤトは、キラキラした笑顔で迎えてくれた。
深夜の時に見えた悩ましげな表情は、もう感じない。
「ん、大丈夫。どうしたの?」
「レアにプレゼントがあるんだ。そのために呼び出させてもらった」
……プレゼント?
それって、そこの椅子と何か関係があるのかな。
「レアちゃん。良ければこれを使って」
ミカはそう言って、変な椅子を側まで押し運んでくれた。
「これは車椅子と言って、足の不自由な人のために作られた移動式の椅子なんです」
車椅子……やっぱり聞いたことがない。
フィル先生も首を傾げているから、もしかしたらハヤト達の世界にあった物なのかな?
足の不自由な人専用の椅子。
移動できる椅子って、なんか凄そう……。
「さ、座ってみて?」
「……ん」
言われた通り、車椅子に座る。
座り心地はすごく良い。私の座布団を敷けば、もっと良くなると思う。
「この車輪を手で動かすことで、自分で車椅子を操作できるのよ。もちろん、今まで通り誰かに押してもらうこともできるけれど、常に誰か近くにいる訳じゃないでしょう?」
「もっと自由に動けるかなと思い、国の職人に特別発注したんです。……気に入っていただけると嬉しいのですが」
車輪を手で押してみる。
あまり力を入れていないのに、ちゃんと前に進んだ。意外と小回りも利くみたいで、その場でくるくる回ることもできた。
馬車とはちょっと違う車輪のおかげなのかな。荷台より振動が少なくて、すっごく快適。
これで何かしたくなった時、いちいち誰かを呼ばなくても動き回れる。
こんな便利なものが、ハヤト達の世界にあるんだ。
異世界のことは何も知らないけれど、もしかしたら凄く発展した世界なのかも。
「どうかな? 俺達のプレゼントは」
「……ん、すごく嬉しい。ハヤト、ミカ、ユウナ……ありがとう」
ただ動きたくないだけだから、足が不自由なふりをしてるだけ。
みんなを騙していることに、胸がチクッてなるけれど……三人の気持ちは嬉しい。
街に帰ったら、これは使わなくなると思う。
でも、絶対に大切にする。
初めてのお友達から貰った、プレゼントだから。




