表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/175

21.プレゼント


 ハヤトと話した翌日、私は勇者の三人から「訓練場に来てほしい」って呼び出された。


 今日は何もない日。

 授業も訓練も、お休みの日だ。


 でも、侍女さんを通じて呼び出されたから、仕方なく私は指定された時間に移動を開始した。


「……なんだろう」

「さぁ、なんでしょうね」


 荷台で私を運んでくれているのは、フィル先生。

 もう専属と言っていいくらい、先生は私の身の回りのお世話をしてくれる。


 前に住んでいた屋敷で働く、ミランダ達を含む使用人と変わらない手際だから、不自由だとは思わない。

 でも、王国のお姫様にこんなことさせていいのかなって、たまに思う。王族だから忙しいだろうに、フィル先生は「気にしないでください」って優しく言ってくれるから、ついつい甘えちゃうんだ。


 改めて、私って誰かに頼らなきゃダメなんだなぁって思った。


 そう理解しても、それを直したいとは思わない。

 やっぱり私はどこまでも堕落していて、自分の願いを最優先に考えちゃうから。……だから私は、これから先も誰かに頼り続けるんだろう。


 だからその分、私は感謝の気持ちを忘れないようにしたい。

 私を大切に思ってくれる人達のことを、私も大切にしたいって……そう思う。


「レア様、着きましたよ」


 と、色々と考え事をしていたら訓練場に着いたみたい。

 中に入ると先にハヤト達が待ってくれていて、三人の側には見覚えのない物体が一つ置かれていた。


 あれは椅子……?

 でも、ただの椅子じゃないみたい。その両脇には馬車の車輪みたいなのが付いているし、背面には荷台みたいな手で押すところがある。


 なんだろう。

 私の知らない椅子なのかな。


「やぁ、急に呼び出してごめんね」


 私の姿を見つけたハヤトは、キラキラした笑顔で迎えてくれた。

 深夜の時に見えた悩ましげな表情は、もう感じない。


「ん、大丈夫。どうしたの?」

「レアにプレゼントがあるんだ。そのために呼び出させてもらった」


 ……プレゼント?

 それって、そこの椅子と何か関係があるのかな。


「レアちゃん。良ければこれを使って」


 ミカはそう言って、変な椅子を側まで押し運んでくれた。


「これは車椅子と言って、足の不自由な人のために作られた移動式の椅子なんです」


 車椅子……やっぱり聞いたことがない。

 フィル先生も首を傾げているから、もしかしたらハヤト達の世界にあった物なのかな?


 足の不自由な人専用の椅子。

 移動できる椅子って、なんか凄そう……。


「さ、座ってみて?」

「……ん」


 言われた通り、車椅子に座る。

 座り心地はすごく良い。私の座布団を敷けば、もっと良くなると思う。


「この車輪を手で動かすことで、自分で車椅子を操作できるのよ。もちろん、今まで通り誰かに押してもらうこともできるけれど、常に誰か近くにいる訳じゃないでしょう?」

「もっと自由に動けるかなと思い、国の職人に特別発注したんです。……気に入っていただけると嬉しいのですが」


 車輪を手で押してみる。

 あまり力を入れていないのに、ちゃんと前に進んだ。意外と小回りも利くみたいで、その場でくるくる回ることもできた。

 馬車とはちょっと違う車輪のおかげなのかな。荷台より振動が少なくて、すっごく快適。


 これで何かしたくなった時、いちいち誰かを呼ばなくても動き回れる。

 こんな便利なものが、ハヤト達の世界にあるんだ。


 異世界のことは何も知らないけれど、もしかしたら凄く発展した世界なのかも。


「どうかな? 俺達のプレゼントは」

「……ん、すごく嬉しい。ハヤト、ミカ、ユウナ……ありがとう」


 ただ動きたくないだけだから、足が不自由なふりをしてるだけ。

 みんなを騙していることに、胸がチクッてなるけれど……三人の気持ちは嬉しい。


 街に帰ったら、これは使わなくなると思う。

 でも、絶対に大切にする。


 初めてのお友達から貰った、プレゼントだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 契約済み荷台くん「…………!!?」 契約して早々、仕事を車椅子に奪われてお役御免となった荷台くんは、泣いて良いと思う。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ