19.夜のお散歩
「………………」
満月が照らす…………お外。
こういう場合、何か詩的ないい言葉を使うんだろうけど、私にそういう才能はないから『お外』ってだけ伝える。
私は、お城の外の石畳? みたいなところにいる。
ちょっと目が覚めちゃって、また眠くなるまで暇だからお散歩を始めたんだけど、適当に移動していたらいつの間にか、こんな所に来ていた。
今は移動するのも面倒くさくなっちゃって、お月様を眺めている。
移動はどうやったの、って?
王様がくれた荷台と『血の契約』をして、私の思い通りに動いてくれるようにしたの。
他人に見られたら危険だけど、今は深夜で誰も起きていないから大丈夫。
もし誰かが近づいてきても、魔力の流れですぐに分かるから、それも大丈夫。
「…………はぁ……」
溜め息が出た。
こうして一人になると、必ず思い出すことがある。
それは、街にいるみんなのこと。
みんなは元気かな。
私がいなくても大丈夫かな。
いつも、いつも……そのことばかりを考える。
「みんなに会いたい、な」
分かってる。
私が無理に帰ろうとしても、無駄だってことは。
もしかしたら、すれ違いになっちゃうかもしれない。
そうなるともっと大変なことになるから、私はここで……みんなが迎えに来てくれるまで待つことにしたんだ。
…………。
……………………でも、さみしいよ。
そう思って俯いた、その時──
「……ん?」
私が広げていた魔力に触れる反応が一つ。
誰かがこっちに、近づいてくる。
敵意はない。
でもちょっと……変な感じ?
「あれ? レア?」
「…………ん、ハヤトだ」
それは異世界からやって来た勇者、ハヤトだった。
「どうして、ここに?」
「それはこっちの台詞だよ。……あれ、一人?」
あ、そうだ。
私は歩けない設定だったから、ここで会うと面倒なことになっちゃう。
「えっと……お散歩、してたの」
「散歩? 他の人はどうしたの?」
「一人になりたいから、帰ってもらった」
「ああ、そうなんだ……って、帰りはどうするつもりだったんだ?」
──あ、
「………………考えてなかった」
「ふっ、ははっ。レアはおっちょこちょいだな」
「ん、失敗した」
本当は違うんだけど、うまく誤魔化せた……かな?
「ハヤトは?」
「え?」
「ハヤトは、どうしてここに?」
今は、深夜。
いい子はみんな寝ている時間のはず。
「……あー、えっと……目が覚めちゃったんだよ。それで適当に夜風に当たろうと思って」
「……そうなんだ」
多分、嘘だ。
目が覚めたっていう様子じゃない。
むしろ、もっと別の何かがあって……それで悩んでいるような顔だ。
誤魔化された。
でも、私はそれに気づかないふりをする。
面倒なことに巻き込まれるのは嫌だし、誤魔化したのは私も同じだから、今は何も聞かない。
「ハヤト、こっち」
隣を、ポンポンって叩く。
ずっと一人でいると寂しいだけだから、今は誰かとお話ししていたい。
「俺がご一緒して、いいの?」
「ん、ハヤトならいいよ」
「…………悪いことは言わないから、その言葉はあまり使わないほうがいいと思う」
ハヤトはちょっとだけ、顔を赤くさせてそう言った。
「どういうこと?」
「あ、いや……なんでもない」
「……?」
そっぽを向かれた。
私、何か言っちゃったのかな?