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第23話 さよなら……たぬき!


 バッシャアアァッ……


 「……来た!」


 凄まじい水飛沫を上げる湖面。

 

 環境調査隊ロケットの到着を待ちわびた大和とスイヨー、そして教会のたぬき達。


 ギゼーン副社長達を追い返した後、大和とスイヨーは爆薬を使用した「森の入り口開通作戦」のプランを綿密に練り上げ、後は爆薬の配置の検討を残すのみ。


 爆薬に関しては、安全性の確保にパッチ隊長かホワーンの知識が、入り口以外の破壊を防ぐ効率の良い配置にママードの計算が必要であると判断した大和とスイヨーは、朝から天気が良く、雨風も無い今日中の決行に備えていたのだ。


 ビビーッ!ビビーッ!


 「通信だ!」


 大和は通信機を取り、懐かしい顔ぶれとの再会に心を弾ませる。


 「……大和か?パッチだ!流石にここまで来たら通信は届くな。お前らも気付いただろうが、今シニャルドビイ湖に着水した。スイヨーとたぬきは無事か?」


 大和は隣で見守るスイヨーに親指を立て、通信が環境調査隊からのものであると示して見せた。


 「無事です!今は教会にいます!刺客から湖畔の小屋も守りましたよ!小屋の前に倒れている白い人型兵器は、コンパニマル社のパワードスーツです。ホワーンなら詳細が分かると思いますから、回収しましょう!」


 大和とスイヨーの活躍に、通信機の奥から隊員達の歓声も聞こえてくる。全員揃っているらしい。


 「2人とも、良くやったぞ!今から教会に向かう。ホワーンはパワードスーツの調査に当たらせる」


 スイヨーは計画の事を早く話せと、しきりに棚に隠した爆薬を指差して大和を急かす。

 

 「隊長!実は爆薬を入手しまして、これで上流の森の障害物を吹き飛ばせば、たぬき達を森に戻せるんじゃないかと考えています!皆の協力が必要なので、計算用のタブレットを持ってきて下さい!」


 「了解した!」


 通信を終えて一息ついた大和は窓の外を除き込み、この地での自分達の使命が間もなく終わりつつある事に感慨を深めていた。


 「お兄ちゃん、ただいま!」


 調査隊メンバーの先陣を切って撫子は大和と抱擁をかわし、パワードスーツの調査に当たっているホワーンを除く隊員達が揃い踏みする。


 ベッピーンはかつてサンドイッチを与えたバイソンに懐かれて困惑しており、やむ無く今日の昼食も彼に与えてその場を立ち去って貰っていた。


 

 「……障害物を爆破するなんて、森や川が崩れてしまわないんですの?」

 

 「だからこいつに計算して貰ってるんだよ」

 

 ベッピーンの素朴な疑問に答える為、大和はママードの肩を叩いてアピールする。


 「……大和、手描きで難しいとは思うが、もう少し図は上手く描け。折角スキャンしても軸が合ってない」


 ママードは苛立ちを呟きながら、タブレットを操作して大和の図をブラッシュアップさせていた。


 「……よし、説明するぞ。大和とスイヨーの調査によると、ここから北に8分程歩くと左手に蛇行する前の段階の河川が現れる。河川の流れはそこそこ速く、水深約1メートル50センチ。川幅は約10メートルと、ここをたぬきが渡るのは厳しい。その河川を挟む様な形で森が存在しているが、地震や大雨で土砂と瓦礫が崩れ、3メートル程の防波堤の様な壁が続いている」


 ママードの説明に、自らの目で現場を確認している撫子は大いに頷く。


 「大和とスイヨーは、湖畔の小屋を爆破しようとしたコンパニマル社からの刺客から爆薬を奪う事に成功した。爆破担当のハンターが予備を用意していたらしく、小屋を2つ爆破出来るだけの威力は十分にあると見るのが妥当だ」


 爆薬の説明をするのはパッチ隊長。

 ママードの計算に横から指示を出し、軍隊経験者としての予測を追加していた。


 「……結論から言えば、障害物を破壊してたぬき達を森に帰す事は可能だ。だが、土砂の水分含有率にもよるが、綺麗さっぱり爆破とは行かない。小屋の寸法に近い間隔で爆薬を仕掛け、爆破の後に落ちて広がる土砂の具合を確認して、低めの壁を乗り越える形になるはずだ。恐らくたぬき達が自力で乗り越える高さになるとは思うが、非常時に備えて俺達が土砂を食い止める覚悟が必要だ。危険もあるだろう。やるか?」


 「……私はやります!」


 ママードの提起に真っ先に意思表示したのは、たぬきの未来を誰よりも真剣に考えていた撫子。


 「やりたくなければ提案なんてしねえよ!」


 スイヨーと大和も声を上げ、ベッピーンも深く頷いてみせた。


 「……よし、今は雨風も無い。早速行くか!俺とママード、ベッピーンは現地の準備を。たぬきが懐いている撫子と大和、スイヨーは彼等を先導して後から森の入り口付近まで連れて行ってくれ!」


 「了解!」


 パッチ隊長の号令に一致団結したメンバーは、それぞれの想いを抱えながら最後の任務に挑む。



 「……凄いな!こんな兵器がテスト段階で終わっていたなんて……」


 静かな湖畔の森の陰から、メカに興味津々な上に軍隊経験者でもあるホワーンは、すっかりパワードスーツに魅せられていた。


 ギゼーン副社長があっさり断念させられていただけに、まだまだバッテリーは十分に充電されており、大きな傷や破損箇所もない。


 「……なになに……パワードスーツ着用の身長条件、握力条件、筋力条件……全部クリア出来ているぞ、俺……」


 パワードスーツ背面部の簡易マニュアルを読み終えた時、ホワーンの瞳は少年の様に輝いていた。



 「……よし!皆準備はいいか?」


 「オッケー!」


 パッチ隊長の点呼を終え、調査隊メンバーとスイヨー、そしてたぬき達は森の入り口から離れ、身体を伏せて爆破に備える。


 瓦礫や土砂が河川を塞ぐ事を避ける為、河川周辺の壁には手を付けず、やや遠回りの通路を切り開く事となったが、やむを得まい。


 この河川は野生動物達の生命線なのだ。


 「スイヨー、あんたがやりな」


 大和は爆破スイッチのリモコンをスイヨーに渡す。

 彼はその命がある限り、今後もこの地域を見つめ続ける役目を担うのである。


 「分かった……行くぞっ!」


 ドゴオオオォッ……


 凄まじい爆音が瓦礫と土砂を巻き上げて響き渡り、降り積もる土砂で遮られていた視界が晴れるに従って、高く積み上げられていた森の入り口の壁が崩壊。

 

 そして遂に、森の奥を見渡せる半円型に抉れた通路が開通した。


 「……やったぞ!!」


 大和は沸き上がる喜びからか、現役選手時代のゴールパフォーマンスを無意識の内に決めている。


 「良かった……さあ、スイヨーさん、お兄ちゃん!」


 撫子はスイヨー、大和とともにたぬき達をけしかけ、彼等が通路を渡って森に帰る様に追い立てた。

 

 スイヨーに懐いた数匹のたぬきはまだ彼の元を離れられなかったものの、他のたぬき達は少しずつ故郷の森へと帰って行く。


 「……良かったですわ、本当に……」


 ベッピーンは森へと帰るたぬき達を見つめながら、観光目的で自らを環境調査隊に売り込んだ頃の傲慢を恥じる余りに涙を浮かべ、感極まってその場に立ち尽くしていた。


 ゴゴゴゴッ……


 「……!!何だ?地震か?」


 突如訪れた強い揺れに、驚きを隠せない調査隊メンバー。

 

 あの程度の爆発で、地球の地殻に影響がある訳が無い。

 これは自然現象としての地震だ。


 「……危ない!土砂が崩れかけている!」


 たぬき達の通路として開けた上部の土砂が崩れ始め、このままではたぬき達が生き埋めにされてしまう危険性を、撫子が大声で警告する。


 「……させるかっ!」


 通路の一番近くにいたママードは身体を張って土砂の崩壊を阻止し、既に走り出していた撫子、そして大和も後に続く。


 「……ママード!離れて!私とお兄ちゃんでやる!」


 ママードは、ずんぐりむっくりな体型のZ星人の男性の中でも小柄で細身である為、下手をすれば彼も生き埋めになりかねない。

 長身の神国兄妹がすかさずサポートに駆け付けたが、既にママードの身体は半分近く土砂に埋まっていた。


 「……気にするな。どうせ俺は、ただの遺伝子組み合わせで作られた人間なんだ。壊れたらまた、作ればいいんだよ……」


 「バカああぁっ……!」


 撫子はママードの自暴自棄な態度に涙を浮かべ、強烈なフィジカルぶちかましで彼を土砂崩れから救出する。


 「……お前ら……どうして……?」


 ママードは自分の身代わりに土砂に身体を沈めた撫子と大和を見つめて、その場に崩れ落ちる。


 「貴方はいつも言っていた。人間が終わっているって……そんな事ない!!私達も、スイヨーさんも、たぬきの為に出来る事を探していた。ドーデッシュ社長だって、ビジネスの為に動物の権利を無視する様な人ではなかった!貴方は……生きなくてはダメ!私達だって、ここでは死なない!絶対死なない!」


 撫子には、今の自分の頬を伝う涙の意味は分からなかった。

 だが、何か運命の様なものに突き動かされながら、大和とともに崩れ落ちる土砂を支えていた。


 「撫子!大和!たぬき達が渡り終わった!こっちに飛び出して来い!」


 パッチ隊長が必死に手を伸ばし、撫子を抱き締める大和の手を掴もうとするも、土砂は最後の勢いを増し、2人を飲み込まんと襲いかかる。


 「……隊長……ヤバいです。今までありがとう……」


 ガシイイィッ……!


 大和が諦めかけて別れのセリフを口走ったその瞬間、パッチ隊長を押し退けた白く図太い両腕が神国兄妹を担ぎ上げ、一気に土砂から引き抜いた。


 「間に合ったな!凄いパワーだぜ!」


 パワードスーツを着用したホワーンが、地震を受けて全速力で駆け付けていたのである。


 

 全てが終わり、森の入り口を前に疲労と達成感から座り込む隊員達とスイヨー。


 慣れないパワードスーツで奮闘したホワーンは筋肉痛をほぐし、安堵感で泣き崩れたママードは子どもの様に撫子から頭を撫でられていた。


 「……良かった……。でもスイヨー、寂しくなるな」


 大和は肩で息を吐き、独り言の様に呟く。


 大和はスイヨーと別れる事、スイヨーはたぬきと別れる事。

 どちらも多分、一生の別れになるのだろう。


 「……仕方ねえさ。俺なら平気だぜ。林に行けばリスもいるし、人間の食べ物が好きなバイソンもいるみてえだからな」


 スイヨーのその言葉に、大和とベッピーンは苦笑いを浮かべるしか無いという様子であった。


 「……さあ、教会で荷物をまとめて帰るか!ホワーン、しんどいだろうが、パワードスーツを着てロケットに持って行ってくれ。後から皆行く」


 パッチ隊長の号令に従って立ち上がった一同は、教会へと歩みを進める。

 まだ正午前だ。このペースなら夕方には地球を出発出来る。


 

 「……!どうしたんだ、お前達……?」


 教会で彼等を待っていたのは、スイヨーから離れる事を拒んで姿を隠していた2匹のたぬき達だった。


 「きゅう〜」


 大切な友達の帰還に喜んで駆け付けた、小さな相棒2匹を前にスイヨーは泣き崩れ、喜びを噛み締める様に肩を震わせる。


 「……スイヨー、元気でな」


 泣き崩れるスイヨーに声をかけ辛い調査隊メンバーは、大和のひとことを最初で最後の別れの挨拶とし、静かに教会から去って行くのであった。


 

 この後、たぬキューブの研究開始により環境調査隊とコンパニマル社との契約が満了した為、マズーリ湖水地方に調査隊ロケットが着水する事は無かった。


 従って、その後のスイヨーの運命を知る者は誰ひとりとして存在しない。


 だが、彼は残された余生をたぬきを始めとする野生動物と有意義に過ごし、彼が教会で天に召された後は、煮ても焼いても喰らえないオヤジたぬきとして新しい生命を得ているだろう……と、環境調査隊メンバーの誰もが思っていた。

次回はいよいよ最終回!


さあ、いつ評価するの?いつブクマするの?いつ感想書くの?



……次回でしょ。

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