第18話 いざ、新たな故郷へ!
「みゃう〜」
夕食を食べ、シャワーを浴び、就寝前の穏やかな一時。
隊員達の寝室だけは、常に惑星Zの重力レベルに調整してあり、安心してみゃ〜ちゃんと戯れる撫子は、いつもの様にねこキューブに愛情を注ぎながらも、動物に対して複雑な想いを巡らせていた。
ねこがペットとして惑星Zに連れて来られた当時、彼等は重力の違いから高い身体能力を活かせなくなり、そのストレスからなのか、肉体的には異常の無いまま寿命が短くなる傾向が生まれる。
そして、惑星Zの重力下で生まれた子猫には体型の変化も見られる様になった。
ずんぐりとしたキューブ体型のねこはその見た目で愛されたが、それが彼等にとって本来の姿ではない事は明らかで、有能なビジネスマンである以上に動物好きであったコンパニマル社のダンゴー・ドーデッシュ社長は、キューブ体型のねこの遺伝子を利用した新しいクローン種、「ねこキューブ」の育成に取り組む。
惑星Zの重力に適応したキューブ体型をデフォルトとし、身体に負担を掛けない筋組織の追求等、大半をクローン技術で賄う様になった現在も、健康寿命の面で改良が続けられていた。
撫子の両親は3年前の交通事故で重体となり、闘病の末、彼女の大学合格と大和のZリーグ優勝を見る事無くこの世を去るが、彼等の境遇を懸念した大和の所属クラブ、レッドベアーズが稀少な天然ねこキューブ、みゃ〜ちゃんを兄弟にプレゼントする。
セレブの財力を武器にベッピーンのパートナーに収められたジェニファーも、稀少な天然黒ねこキューブという点で、両者が瞬く間に意気投合した現実にも頷けると言うものだ。
(たぬき達が惑星Zの重力でも特に不自由無く生活出来れば、天敵のいない暮らしは快適かも知れないけど、商品としてのキューブ化は可哀想だと思う……。やっぱり、サンプルとして連れてくるたぬきは最小限にして、惑星Zのたぬキューブと、地球のたぬきを区別しなきゃ……)
撫子はたぬきの未来にとって、何が最適な行動であるかを考える。
ミコワイキのたぬきにとっての理想は、本来の棲み家である上流部の森林に戻って生活出来る事であるはずだが、その作業は調査隊とスイヨーの7人でこなせるレベルではない。
また、たかがたぬきの為だけに惑星Zのプロジェクトに盛り込むべき作業でもないはずだ。
「……ふみゃあぁ〜」
遊び疲れて飼い主の腕の中で眠りに就こうとするみゃ〜ちゃんを、撫子は優しくベッドの隅に寄せ、みゃ〜ちゃん専用シーツを掛けた後、自らも深い眠りに就く。
翌朝、準備を整えた調査隊とスイヨーは湖畔の小屋を訪れ、今後に備えてあらゆる角度からの写真を撮影し、武器と参考資料を押収した。
調理器具等の生活用品はそのままに、コカインは一袋だけを金庫に残し、出入り口にはホワーンが新たに用意した鍵を内側から取り付ける。
ホワーンの用意したスイッチを押せば内側からの施錠が可能となり、外から見れば「小屋に誰かがいる状況」を作り出せるのだ。
「……どうしてコカインを一袋残すんですの?また熊が近寄るかも知れませんわよ?」
ベッピーンは、スイヨーや大和が小屋を訪れた時の危険性に言及したが、ママードはその言葉を聞いて、逆にしてやったりと不敵な笑みを浮かべている。
「ベッピーン、この小屋に用があるのは、スイヨーや大和だけだと思うか?」
「……あっ!」
ママードの言葉にベッピーンも状況を理解した。
ドーデッシュ社長の命令で、黒歴史に満ちたこの小屋を破壊に、最悪スイヨーの命も狙う刺客が訪れる可能性があるのだ。
「残りのたぬきを救出する」「大和を連れて惑星Zに帰還する」という選択肢が、調査隊側から意図的に提供されているのであれば尚更である。
「……恐らく、野生の熊の実力も知らない様な若いハンターが送られてくるぞ……」
恍惚とした表情を浮かべるママードの態度は、やや不謹慎と言えなくも無いが、常に最悪の状況を想定するのは騙し合いのセオリーなのだ。
「よし、一旦ロケットに引き揚げる。午後からはベッピーンをロケットに残して、各自シェルターを持って教会へ行くぞ!」
「……ちょっと!どうしてわたくしが留守番なんですの?」
パッチ隊長の命令を遮る様に、ベッピーンの不満が轟く。
「……お嬢様には、たぬきの入ったシェルターは重すぎるだろ」
「うむ……留守番は順番に回さないと不公平だからな……」
ママードとパッチ隊長にたしなめられ、ベッピーンは渋々留守番を了承する事となった。
味気ない宇宙食の昼食後、ベッピーンを除く調査隊とスイヨーの6名は、それぞれ1個ずつのシェルターを手にミコワイキの教会へと足を踏み入れる。
昨日とほぼ同じ数のたぬきが、奥の聖堂で規律正しい共同生活をしており、備蓄されていた木の実や果物もまだ残されていた。
「きゅう〜」
撫子が聖堂に顔を出した瞬間、昨日の恩を覚えていたのか、3匹のたぬきが彼女の足元に歩み寄ってくる。
撫子はこれからの彼等の運命を決めてしまう責任の重さを痛感しながらも、迷いを振り切った表情でシェルターを開け、自らの意思でシェルターに入る事を彼等が選択するかどうか、調査隊メンバーらとともに息を潜めて静かに見守っていた。
「きゅきゅ〜」
シェルター内の重力は地球に合わせており、適度な空調で埃臭さも感じない環境が快適だったのか、3匹はすんなりとシェルター内に居着いてしまった。3匹確定である。
「……よし、バランス的に考えて、俺はこいつを預ける。宜しく頼むぜ」
スイヨーは自らに一番懐いていた、やや毛並みの薄いグレーのたぬきをシェルターに招き入れる。これで4匹目。雄と雌2匹ずつである。
「ほ〜ら、3ヶ月前までプロの選手だったお兄さんと遊ばないか〜?」
大和は自らのシェルターの前で、サッカーボールを転がしながらたぬきを勧誘したが、ガン無視された。
「……4匹で決まりだな。仲間が入ったシェルターに興味を示さないたぬきは、苦しくても地球で生きていくと決めたんだ。行こうか」
ママードは誰よりも惑星Zのクローン技術の高さを理解していた。
健康なサンプルが4匹もいれば、惑星Zに適応した新種のたぬきは生み出せると確信しているのである。
「大和、スイヨー、暫くここを頼んだぞ!」
パッチ隊長は2人に歩み寄って固い漢の握手を交わし、次々と他の隊員も握手と激励を重ねていった。
「……お兄ちゃん、言っても無駄かも知れないけど、無理しないでね……」
感極まって泣きそうな顔になっている割には言葉に毒がある撫子の抱擁を受け、流石の脳筋男、大和にも熱いものが込み上げている。
「……うっ……えぐっ……い、いい知らせ……待ってるからな!」
スイヨーは涙より鼻水のパーセンテージが高い大和から微妙に距離を置き、ちょっと嫌そうにハンカチを差し出した。
ベッピーンの待つロケットに到着した隊員達は、大和に手渡した通信機で大和に最後の連絡を取り、ベッピーンが暫しの別れを惜しむ激励の言葉を残した時点で通信を絶つ。
定期報告ではスイヨーが見付からなかったという虚偽申告を行った後、たぬきのサンプルを雄雌2匹ずつ入手した事、大和がミコワイキの教会でたぬきを守っている事を伝え、彼を迎えに行く為に惑星Z到着後のロケットの整備を早める要望を提出した。
「……よし、間もなくロケットが離陸するぞ!ホワーン、ロケット各所異常は無いか?撫子、ねこキューブ、たぬきに異常は無いか?」
「ありません!」
2人の声が同時に聞こえる程のチームワークの高まりを受け、パッチ隊長はカウントダウンを聞きながら満足気に大空を見上げる。
『……ファイブ、フォー、スリー、トゥー、ワーン……テイクオフ!』
激しい轟音と水飛沫がシニャルドビイ湖を包み込み、環境調査隊ロケットは上空へと飛び立った。
「……社長、スイヨー氏の捜索、如何致しましょう……?」
定期報告を終えて会社に戻る、黒塗りの高級車の後部座席に陣取るコンパニマル社の副社長、ナカヨック・ギゼーン氏は、神妙な表情で隣に鎮座するドーデッシュ社長に恐る恐る訊ねる。
「……大和隊員1人を危険に晒す訳には行かないからな……。ギゼーン、調査隊が戻るより先に地球に行ってくれるか?野生動物への対策として、ウチの下請けから運転手1名と若いハンターを2名雇おう。まずは湖畔の小屋の爆破が優先だな。兄がいれば説得はするが、地球に残ると言い張れば殺しても構わん」
「や、やはり爆破を……」
元来小心者であるギゼーン副社長が緊張の色を隠せずにいると、ドーデッシュ社長は柔和な笑みを浮かべてギゼーン副社長の肩を叩き、丁寧に言葉を紡いで語りかけた。
「……私もそろそろ定年だしな……。今回は事と場合によっては、私も無傷ではいられないだろう。私の最後の仕事として、たぬキューブだけは絶対形にして見せる。その後はお前に任せたいんだ、ギゼーン……!」
「あ……ありがとうございます!」
ギゼーン副社長は車内である事も忘れてドーデッシュ社長に土下座して感謝の意を示し、その光景を横目に煙草を取り出したドーデッシュ社長は苦味走った表情で火を灯しながら、到着した会社の入り口で整備されている、ねこキューブを模した無駄に可愛いロケットを眺めてほくそ笑んでいた。
さあ、いよいよ盛り上がって来ましたね!
しかしながら、ここで少しお休みをいただきます。
コロナウイルスに加えて、私の住む北海道は車が走れない程の大雪に見舞われてしまいまして、明日の仕事に行けるか、明日食べ物が買えるかレベルの危機です!
幸い気温は上がっていますので、雪が解けてきたら復活しますね(笑)。
雪をも溶かす熱い感想や評価をお待ちしています!




