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第16話 明かされる秘密


 定期報告の時間を間近に控え、調査隊とスイヨーの7人がロケットのコックピットに終結する。


 ワイルドな風貌とは裏腹に可愛い動物が大好きなスイヨーは、ねこキューブのみゃ〜ちゃんとジェニファーとも早々に馴染み、惑星Zの重力に調整されたロケット内では暴れる心配もないという判断から、手錠を外された「来賓扱い」へと地位が向上した。


 「ホワーン、定期報告の間、スイヨーを食堂に案内してやってくれ。"俺達のシナリオ"では、まだスイヨーは逃げ回っているという設定だからな」


 小屋での軽い尋問の後、主にママードの提案による、ドーデッシュ社長の本性を探る為のトリック映像を撮影したパッチ隊長とホワーンが、アイコンタクトで意思疎通を済ませる。


 「……何か喰わせてくれるのか?ありがてえ。不摂生もいい所な30年だからな!」


 「食事より先に、熱いシャワーを浴びてもらいませんと、わたくしの鼻が曲がりますわ!」


 スイヨーの減らず口をベッピーンが一蹴し、コックピットは笑いに包まれていた。



 「おはようございます。アン・チクショーです。こちらはコンパニマル社の社長、ダンゴー・ドーデッシュ氏となります」


 通信時間短縮による経費削減が目的か、今日は最初からチクショー女史とドーデッシュ社長の揃い踏みである。

 これは2度手間が省けたと言わんばかりに、ママードは嬉々として映像公開の準備を整え、大和は開幕したサッカーZリーグの話題を振りながら古巣の戦いぶりを聞き出し、適当に時間を作っている。


 「昨日の映像をお届けします。まずは撫子隊員達による野生動物データです。リスはすっかり彼女に馴染んだ様子ですね。個体数も十分で絶滅の不安は無さそうですので、ペットとしては早急なターゲットでは無いと言えるでしょう。続いてこちらは……大和隊員がバイソンに追われている映像ですね。何か変なちょっかいでも出したのでしょう。この動物は大型故に、我々がペットにする事は不可能であると言えます」


 ママードは続いて映像を教会に切り替え、大和が撮影した人間に慣れているたぬきの様子を暫し流した後、映像を一時停止した。


 「ご覧になった通り、たぬきはかなり人間に慣れています。この後、撫子隊員が彼等の本来の棲み家であった川の上流付近の森を訪れた所、残念ながら地震や大雨で森の入り口が崩されてしまい、彼等は群れで教会や民家を転々としながら、安住の地を探している様子だったそうです。隊員の報告によれば、一堂に会したたぬきの総数も数十匹しかいないらしく、彼等を絶滅の危機から救う為にも、まずは数匹を惑星Zに送り届ける方針を固めました。如何でしょう?」


 ママードはドーデッシュ社長に調査隊の方針を伝え、ドーデッシュ社長も深く頷きながら返信を始める。


 「私も、たぬきは我々の未来のパートナーに相応しい動物だと考えている。我々の力が及ばない危険性もあるが、クローン技術の活用で惑星Zで種族を維持させる事は十分可能だ。まずは雄と雌のサンプルが欲しい。彼等をリスクに晒す訳には行かないので、まずはサンプルを数日間調査する。その上で惑星Zに適応出来ない場合、或いは彼等が故郷を離れる事に激しく抵抗する様であれば、我々は地球で彼等の運命を見守る事にしよう」


 (そう……私達に出来る事はこれだけ……)


 撫子は神妙な表情で、ドーデッシュ社長の方針に頷くしか無かった。


 「それではドーデッシュ社長、ちょっとこの映像をご覧になって下さい」


 ママードは一時停止していた映像を再開し、スイヨーとの対面シーンを巧みに編集した映像をドーデッシュ社長に公開する。


 撫子が教会のカーテンから隠し録りしたスイヨー登場の瞬間、撫子が彼を問い詰める為に顔面をアップで撮影した瞬間、そして彼がベッピーンに体当たりして逃走した瞬間が、彼の声だけをカットした見事な映像に編集されていた。


 「……これは……?これは私の兄、スイヨー・ドーデッシュだ!間違いない、幼い頃に出来た額の小さなあざも確認出来る!やっぱり生きていたのか……!」


 常に生死を気にしていたとは言え、いざ実際に動く姿を見たドーデッシュ社長のこの反応からは、嘘を感じる事は無かった。


 「……我々も彼の身元を問い詰めたのですが、彼は返答せず、そのまま行方を眩ませてしまいました。その後は彼も警戒したのか、教会にも、湖畔の小屋にも姿を現してはいませんね」


 ママードは淡々と虚実入り混じる報告を遂行し、最後に湖畔の小屋の映像を映し出す。


 「……こ、これは……?」


 ドーデッシュ社長が驚嘆する湖畔の小屋の内部は、この映像の撮影の為に少々手が加えられていた。

 

 整然と並べられた武器はそのままに、コカインが収納されていた金庫はしっかりと閉じられ、その周辺にはスイヨーが所有していた古い地球の紙幣と硬貨を、意図的に散乱させておいたのである。


 「これは湖畔の小屋の内部の映像です。武器は整然と並べられており、調理器具等も比較的清潔なので、スイヨー氏がこの小屋を生活の拠点としている可能性は高いと思われます。彼が教会の神父の衣装を着ていた様に、必要な物資は無人のミコワイキの街から調達していたのでしょう」


 「密輸の為に揃えていた武器が、ハンティングに使われていた、という事なのですね」


 チクショー女史はZ星人第1世代で、地球の記憶は持っていない。

 自らの想像力の及ばない未知の世界に、クールな瞳の奥から知的興奮が見え隠れしていた。


 「ドーデッシュ社長、ひとつお訊きしたい事があります。この小屋の金庫には熊の爪跡が残されていましたが、金庫自体はびくともせずに閉ざされています。この金庫の中に何が隠されているのか、ご想像出来ますか?」


 ママードはドーデッシュ社長の今後のスタンスを決定する、重要な質問を浴びせる。


 ドーデッシュ社長は暫しの間映像を凝視し、やがて覚悟を決めたのか、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。


 「金庫の中身は、恐らく金だ。言いにくい話なのだが、私はかつて兄に、地下経済の莫大な収入を得た時はまず資金洗浄……マネーロンダリングが必要だと教えた事がある。当時で言えば、スイスやベルギーの銀行でマネーロンダリングを請け負ってくれるパートナーが見つかるまでは、金を隠しておくべきだとアドバイスしたんだ」


 苦渋に満ちた表情で過去を語るドーデッシュ社長。

 だが、金庫の中身はコカインだった。

 ドーデッシュ社長は自らの潔さをセルフプロデュースする為に、自らの罪を過小申告している……調査隊メンバーにはそう映っていたのである。


 「ドーデッシュ社長、地球での罪はもう時効扱いとなります。しかし、先程の発言が事実であれば、一度政府関係者や顧客に対する謝罪の場が必要となります。そこに異論は御座いませんか?」


 「……ああ、構わないよ」


 チクショー女史の問いかけに了承の意を示すドーデッシュ社長。これで過去の罪はほぼ清算される。


 (……上手く逃げたな。だが、そう簡単に涼しい顔はさせないぞ)


 ママードはドーデッシュ社長の弁明を苦々しく聞いていた。

 だが、現在調査隊の手にはコカインが溢れ返る金庫の映像と、それに伴うスイヨーの証言が握られているのだ。


 「チクショー女史、ドーデッシュ社長、ご協力ありがとうございました。明日は調査隊全員でスイヨー氏の捜索を行い、彼が見つからなかった場合はたぬきのサンプルを連れて惑星Zに一時帰還するつもりです。宜しいですか?」


 ママードから通信権を引き継いだパッチ隊長は、ドーデッシュ社長の出方を伺う意味合いも含んだ行動計画を公表する。


 「分かった。私も早くたぬきを調べたいからな。兄が見つからなかった場合は、近々我が社からも捜索ロケットを出そうかと考えている。別の地域から合流したたぬきの数が増えている可能性も無いとは限らんし……」


 ドーデッシュ社長のこの言葉に、ママードはモニターに映らない様に背後を振り向いて確信の笑みを浮かべていた。


 社長の第1の目的は、たぬきや兄を気遣う振りをしながらも自らの黒歴史である、湖畔の小屋を地球から抹消する事であると判明したからである。


 「それではまた明日、出発直前には定期報告をお願いします」


 チクショー女史の言葉を最後に通信は切れ、そのタイミングを待ち切れなかったかの様な勢いでスイヨーがコックピットに乱入してきた。


 「あの野郎、嘘で塗り固めたろくでなしだよ!」


 スイヨーの姿をよく見ると綺麗に髭が剃られており、洗髪された長い白髪をポニーテールの様に結ったスタイルは、ドーデッシュ社長の兄ならではの整った顔立ちと相まって、ちょいワルイケメンおやじとして十分に通用するレベルであった。


 「まあ!生まれ変わりましたわね!」


 セレブな家庭に育つも兄弟がいなく、ややファザコン気質が否めないベッピーンには、現在のスイヨーのルックスはストライクゾーンに入っている。


 「……よし、次はお前の番だ、スイヨー。全てを話して、生まれ変わって貰うぞ」


 パッチ隊長はスイヨーに詰め寄り、調査隊全員が彼を取り囲む。

 30年間の秘密を解き明かす覚悟を、皆がスイヨーに要求していた。

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