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第13話 アニマルパラダイス


 湖畔の小屋へと歩みを進める、パッチ隊長とメカニックのホワーン。

 銃を構えて不審者や大型動物を警戒する姿も板に付いている2人は、ともに惑星Zにおける軍隊の位置付けである「防衛隊」出身で、パッチ隊長はホワーンの上官として彼を指導してきた間柄であった。


 「隊長が環境調査隊に派遣されると聞いた時はショックでした。自分がまた、いじめられっ子に戻ってしまうんじゃないかと……」


 ホワーンは大柄で穏やかな見た目に違わぬ「気は優しくて力持ち」の典型で、高齢者や子どもには人気があったものの、気の弱さとスローな動作が災いして同世代からはいじめられる事が多かった。


 そんな彼が高校卒業後に選んだ道は、まさかの防衛隊志願。

 理由は気の弱い自分を変えたかった事と、軍隊なら新入り皆が上官にいじめられるので、仲間も探せると思った事らしい。


 「ホワーン、軍隊の癖が出てるぞ。一人称は"自分"じゃなくていい。お前が入隊してきた頃の俺は、教官としては新米だったし、丁度結婚して娘も生まれたばかりだったからな。そんなに鬼じゃなかっただろ?」


 当時を回想したパッチ隊長はおもわず苦笑いを浮かべる。

 悪党を撃ち殺せるから防衛隊に志願したかつての暴れん坊が家庭を持ち、変わっていく様子を信じられないと振り返りながら……。


 「隊長は厳しかったですけど、奥さんや娘さんの写真を見てデレデレしたりする所も俺等に見せていましたからね……そういう所だけでも見せるの、大事ですよ。調査隊にスカウトしてくれた時は嬉しかったです」


 ホワーンの話を聞いていたパッチ隊長が、視界に入ってきた小屋の周りを凝視し、突然相棒の背中を掴んで地面に伏せさせた。


 「痛っ……!どうしたんです隊長?」


 突然の事に状況が飲み込めていないホワーンを尻目に、パッチ隊長は無言で小屋を指差す。


 そこには、1頭の熊がいた。

 岩に取り付けた監視カメラにギリギリ映らない辺りの位置に陣取り、何やら地面に顔を擦りつけている。


 「……何でしょう?獲物はいないみたいですし、草でも食べているんでしょうか……?」


 「ホワーン、熊は基本肉食だ。湖はすぐそこだし、あの熊が身体にハンディがある様には見えない。魚を獲る事に優先して草を食べるなんて、普通あり得ないんじゃないか?」


 ホワーンはパッチ隊長とのやり取りの中で調査の必要性を感じ、地面に伏せた体勢のまま仰向けになり、自らの軌道を外れた位置の大空へ向けて銃を1発発射した。


 パアアァン……


 銃声を聞いた熊は慌ててその場から逃げ出し、やや離れた場所で草を食べていた鹿やバイソンも、その異変を敏感に察知して走り去る。


 「よし、行くか!」


 パッチ隊長とホワーンは大型動物の姿が消えた事を確認して立ち上がり、一気に小屋へと駆け出して行った。



 「よしよし……可愛い〜!」


 その頃撫子達は、教会へ向かう途中の林へ立ち寄り、リスに餌を与えながら映像と音声を記録していた。


 人間と接するのは2回目、撫子の顔を見るのは3回目とあって、彼女にすっかり懐いたリスは餌をおねだりする様な仕草から胡桃をゲットする。

 ちなみに胡桃は、ロケット内の備品庫を物色していたベッピーンが見付けてきた缶詰であり、本来ならば隊員用の非常食なのかも知れない。


 「そんなに甘やかしてると、今に自分で胡桃の殻を割れなくなるぞ〜」


 なかなか自分に懐いてくれないリスに嫉妬したのか、大和は缶詰から胡桃を取り出してつまみ食いし始める。


 「……?待って!あれは何でしょう?」


 大和をたしなめる為に振り向いたはずのベッピーンであったが、彼の遥か後ろでのんびりと草を食べている大型動物の姿を発見して驚いた。


 「あれは……バイソンじゃない?」


 撫子は子どもの頃から夢中になって読んでいた「地球の動物図鑑」の中に、『人類の環境破壊のせいでヨーロッパでは絶滅が危惧されていたバイソンにとって、人類の他惑星移住は朗報なのかも知れない』という一文があった事を思い出し、山間部から湖畔へと生活範囲を広げて逞しく生きるその姿に深い感銘を受ける。


 「すげ〜!超カッコいい!」


 強固な2本の角に代表されるその風貌を始め、ワイルドな威厳を醸し出すアニマルに弱い大和は、お互いに初対面である事も忘れてバイソンに近付こうと忍び足で前進していた。


 「撫子さん、大和がバイソンに近付いてますわ!大丈夫ですの?」


 ベッピーンは大和のフィーリングのままに行動するメンタリティーに不安を隠せず、撫子にバイソンの生態や気質を訊ねる。

 慌てて自らのタブレットを取り出した撫子は、保管してある動物データを急いでスクロールする。


 「……バイソンは、その厳つい見た目に反して普段は大人しく、無闇やたらと接近しなければ暴れたりする事は……えええ!?」


 撫子とベッピーンは自分の目を疑った。


 無闇やたらとバイソンに接近してしまった大和が追いかけられ、こちらへ走って来るのだ。


 「何なのよ〜お兄ちゃん!」


 バイソンに追われるまま走り続ける大和を遭難させない為、撫子とベッピーンは彼を誘導する様に教会の方向へ急いで逃げ出す。


 全速力でミコワイキの街に到着してしまった3人であったが、横に転倒してしまった大和を飛び越える様に、勢い余ったバイソンが手近な建物の前に撫子とベッピーンを追い詰めてしまっていた。


 「……ダメ!この建物、開きませんわ!」


 建物の入り口の前でバイソンに睨まれて硬直する撫子とベッピーン。


 この光景を目の当たりにして慌てて飛び起きた大和は、自分のリュックからサッカーボールを取り出した。


 「お兄ちゃん!何でそんな物持って来てんのよ!」


 「……いや、たぬきがいたら一緒に遊ぼうと思って……」


 危機一髪の妹からの罵倒すら冷静にかわした大和は、彼女達を救う為ーぶっちゃけお前のせいなのだがーサッカーボールを地面にセットする。


 (バイソンにぶつけた所で、怒りの矛先が俺に戻るだけだ。取りあえずあいつを地面に倒して、その間に教会に逃げ込むしかない……巻いて落として、頭と角直撃だ!)


 大和は短い助走を取り、撫子とベッピーンからの活字に出来ない罵声と恨めしい視線に耐えながら集中力を高める。


 彼はその長身のせいで、現役時代はヘディングの鬼と言われていたが、元来フリーキックも蹴れるだけのテクニックを持っていた。

 だが、彼の所属クラブ、Z(ズィー)リーグ、レッドベアーズには不動のナンバー10、リカルド・アルバレスがいた為に、公式戦ではフリーキックを蹴らせて貰えなかっただけなのである。


 「でえええぇ〜い!」


 右足首インサイドで擦り上げたボールは高く弧を描きつつ、バイソンの手前で急降下して彼の角を挟む様に頭部を直撃した。


 「むおおぉ……」


 ボールの勢いはそれ程では無いものの、自らの角と額の間で回転するボールの摩擦熱に悶えたバイソンは堪らず地面に倒れ込み、転がって戻って来たボールをリュックに仕舞い込んだ大和は撫子とベッピーンを救出する。


 「……ありがとうとか言わないからね!」


 すっかり機嫌を損ねてしまった妹に平謝りする大和を尻目に、飛んだとばっちりを受けたバイソンを憐れんだベッピーンは、自らのリュックから昼食用に作ってきたレタスサンドイッチをひとつ取り出し、大和の愚行に地面に顔を埋めて悔しさを滲ませるバイソンに分け与えた。


 「むほお〜!」


 ベッピーンの味付けはバイソンの心を捉えたらしく、彼は尻尾を振りながらご機嫌にサンドイッチを完食し、のんびりと林へと去って行く。


 「ベッピーン様〜、ありがとうございますぅ〜!」


 撫子のみならず、ベッピーンにも平謝りせざるを得なくなった大和を見下しながら、ベッピーンは豪快に見得を切った。


 「今日のお昼ご飯は、惑星Zに帰ったら100倍にして帰して貰いますわ!」

 


 

ようやくコメディらしくなって来たでしょうか。


こういったシーンも描きたかったですからね。


とは言え、なかなか的確に当てはまるジャンル分けが出来ない作品ばかり書きますね、私は……。


そう言えば、「なろう」の評価が全ての部分で出来る様になったみたいですね!

私の作品「バンドー」みたいな、1話1話が超長い作品にとっては朗報です(笑)。


また、この作品の小説情報を見ると分かりますが、ポイントを感想の数が上回りそうという、世にも不思議な現象が起きているんですよね。


もっと高いレベルでポイントと感想数が競り合う景色を見てみたいので、感想や意見、評価等、更にお待ちしています!

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― 新着の感想 ―
[一言] 大和君はトラブルメーカーですね。 今の地球は動物天国みたいですし、 人間は帰れ!といったところでしょうか(笑)
2020/03/03 19:26 退会済み
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