理不尽な愛憎 0
『オカルト』それはわかりやすい非日常の一つだ。
ちょっとしたロマン、危険性、ロマンスなんかもあると最高で、ちょっとした矛盾だとかは気にしてはいけない。
非科学的だとか、そういう頭のいい批判はあまりにもお門違いの批判だ。
誰もそんなものを求めてないし、目的は史実としての歴史考証などではなく、一娯楽としての消費だけなのだ。
そういう意味で言うのであれば、今日もどこか疲れた雰囲気を残している目の前の彼はとても面白い相手だ。
彼は眠たそうな眼をじっと目の前の画面に向けて無気力に指を動かしている。この動きはきっとSNSの投稿を流し読みしているのだろう。
特出してあげるべき事柄もない一生徒。それが彼の外見だ。しいて言うのならばやや平均よりもがっちりとした体躯やまだ入学してから一年も経過していないのにやや傷のある制服なんかもあげるべきかもしれないが、その程度の誤差は特出すべき個としては非常に弱い。
そんな彼を呼び表すべき別名を考えるとすれば、『オオカミ少年』というのが彼にぴったりだろう。
彼にまつわるエピソードで私が最も好きなものが一つある。
――あれはそう。確か半年ほど前の話だった。
彼、犬飼君は突然一人の女子生徒を人気のない体育館裏に呼び出していったのだという。
伝聞系なのは、残念ながら私がそこにいなかったからだ。知っていればそこに行っていたかといえばそういうわけではないだろう。今そんな話を聞けば見に行っただろうが、この時点で私と彼は知り合いですらなかったのだから。
話を戻そう。犬飼君が呼び出した女生徒はかなりの有名人だった。当時彼女のことをよく知らない私でもいい意味で知っていたほどである。
才色兼備、品行方正……そういった言葉で言い表される美少女というのはどこのフィクションにでも出てくるだろう。まさに彼女はフィクションでもネームドキャラとして描かれるにふさわしい個を持つ人物だった。
そんな彼女を人気のない場所に呼び出したというのだから、普通の感性であれば想像するのは一つだろう。告白。ただそれだけである。
ある生徒は野次馬根性で、ある生徒は同士の健闘を称えに、ある生徒にとっては単純な敵情視察程度の意味だったかもしれない。何はともあれその場を覗き見る人間は少なくはあったがいないわけではなかった。
しかし、そんな生徒たちがそこで耳にしたのは熱く甘く若さを感じさせる告白ではなく、非日常を予期させるような暴行などでもなく、はっきり言ってしまえば告白するはずだった彼に近づくことをためらうような忠告だった。
曰く、ひどくあなたに恨みを持った人に襲われてしまうから、気をつけろ。
曰く、恨みは忘れていない。覚えていろ。
曰く、俺の思いを無駄にするなら呪ってやる。
どれもうわさから聞いた話でしかない。今目の前にいる彼に直接聞けばきっと本当に伝えたセリフを聞けるかもしれないが、きっと彼の記憶力ではなんといったかをはっきりとは覚えていないだろう。
だからこれは私の勝手な予想に過ぎないのだが、きっと彼はこういったのだ。
「君は悪霊にひどく恨まれている。近いうちに変なことが起きてしまうかもしれない。もしそうなったら迷わずお祓いに行った方がいい。呪ってやる呪ってやるって聞こえてくるんだ。」
ひと段落付くまでは毎日更新する予定です。