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山の小杉と五本の老杉

作者: 猫ノ あずき

「また、枯れてしもうた………」


 けわしい山でのこと、冬の寒さに耐えられず、杉の子どもが枯れてしまいました。

 杉の子どものまわりには、五本の大きな杉が輪になって立っています。

 五本の大杉は、折れた杉の子が強い風にさらわれ、谷のかなたへ飛んでいくのをむなしく見つめながら

「あんなに、元気だったのに」

ふもとに生まれていたら、大きくなっただろう。こんな険しい場所に生まれたばかりに、かわいそうじゃ」

 などと、力なくつぶやくのでした。


 五本の大杉は、きれいな森や小さな村を見下ろす、急な斜面に立っていました。

 大杉たちより上は、岩がむきだしのけわしい山で、がけ崩れや雪崩がおきますが、大杉達はそんな災害から、ふもとに広がる森や村を守っているのです。


 ただ、この5本の大杉には大きな悩みがありました。

 それは、何度も杉の子が芽をだすのですが、けわしい山なので吹きつける風は強く冷たく、雪も多いため、子どもの杉はすぐ枯れてしまうのです。

 大杉たちは生まれてきた杉の子を、雪や雨からまもるため枝をのばしたり、はげましたりしましたが、杉の子は次々に枯れてしまうのでした。

 

 ◇

 それから、数十年がたちました。

 5本の大杉も年老いた老杉となり、枝は落ち、幹や根も弱くなり、このさき何年も立っていられないことを感じています。

「なんとか、自分たちに代わって森をまもる大杉が育たないものか」

 しかも、ここ数年は杉の芽すらでないのです。


 そんな、老杉たちがあきらめていた時、細くて小さい杉の子が一本生えてきました。

「おおー、杉の子が芽をだしたぞ! 」

「何年ぶりかのう。でも、前は元気な子杉が何本も生えてきたのに、こんな細い子杉が一本だけとは」

「一本でもよいではないか、もうこの子が最後の望みじゃ」

 老杉たちには、この子杉が本当に最後の望みなのです。


 その年から数年はめずらしく雪も雨も少ない年でした。

 何度か枯れそうになりながらも、5本の老杉は弱々しい子杉を一生懸命に守り、杉の子は人の腰ほどにのびました。

 子杉は老杉たちに山の話を聞き、鹿や猿が山を駆けめぐり、犬ワシが狩をする姿を眺めながら、育っていきます。


 ◇

 そんなある年の冬、たいそうな大雪となりました。

 老杉たちは子杉に雪がかからないよう懸命に枝を伸ばしていましたが、雪はようしゃなく降り続き、子杉にもどんどん降り積もります。

 子杉も耐えていましたが、雪は子杉に山のように積もり、枝が一本、また一本と折れていきました。

「寒いよう、いたいよう」

 子杉は泣いていました。

 とうとう子杉の枝は、わずか二三本になりました。


「がんばれ!」

「もう少しの辛抱じゃ」

 老杉たちは、はげますことしかできません。

 雪はさらに強くなり、子杉の幹が雪の重みで、ぐにゃりと曲がり、今にも根元から折れそうです。

「もうだめ………老杉のおじいちゃん……助けて……」

 その声もしだいに力がなくなってきました。


 そのときです。

 5本の老杉のうちの一本が「ギギギーー! 」と音をたてると、子杉の上に覆いかぶさるように、たおれてきました。

 まだ子杉は小さいので、たおれた杉の枝の間にすっぽりと覆われると、子杉に積もった雪は払われ、降る雪も直接かからないようになりました。

「どうじゃ、もう大丈夫だろ」

「うん、でも、おじいちゃんは」

「わしは、もう寿命じゃ、わしの代わりに大きくなってくれ」


 その冬のあいだ子杉をまもった老杉は枯れてしまい、雪どけとともに深い谷の底にゆっくりとすべり落ちていきました。


 ◇

 さらに数年がたちました。

 そんなある年は大風が何度もふき、ふもとでは、たくさんの木が倒れ始めました。

 子杉は残った4本の老杉に守られ、風をうけませんでしたが、年老いた老杉はたいへんでした。

 特に子杉の風上で風がまともにあたる一本は、たっているのがやっとです。


「ああ! 倒れそうじゃ、このままだとわしは子杉の方にたおれてしまう。子杉も大きくなったから、前みたいに枝の隙間には収まらない、子杉を押しつぶしてしまう。なんとか違う方向にたおれるわけに、いかんものか」

 すると、となりの老杉が

「わしは、お前の下側にいるから、お前を引っかけて倒れれば子杉は大丈夫じゃ」

 こうしている間も、ビュービューと容赦なく強い風が吹き付けてきます。


 倒れかけている老杉は

「もうわしはだめじゃ、早くしてくれ」

「わかった! 」

 そう言うと下の老杉は枝をのばし、たおれそうな老杉に枝を絡ませると、2本の老杉は根元から谷の方へ剥がれ落ちはじめました。

「おじいちゃん!」

子杉が泣きながら叫びます。

 落ちていく老杉は、子杉に向かって

「森をまもる大杉になれ」

「まけるんじゃねーぞ! 」

 そう言いながら2本の老杉は土煙を上げ、谷の底へ落ちていきました。

 二本の杉が倒れて、子杉は風をまともに受けるようになりましたが、落ちていった老杉を思って必死に風にたえました。


 ◇

 五本あった老杉は二本になってしまいました。

 ある年は大雨が続き山の上から、大きな石や土がくずれてきました。

 子杉の上にはひときわ大きな老杉が立っているので、子杉に石はあたりませんでしたが、落ちてくる大きな石は弱くなった老杉の幹をえぐります。


「おじいちゃん大丈夫……」

 子杉は不安そうです。

「ああー心配するな、こんな程度。ここで子杉に何かあったら、前に倒れた杉たちに申しわけないからな」

 老杉はふらふらになってきましたが、この大雨がおさまるまでと思い、がんばるのでした。


 数日後に雨はやみ、山くずれもおさまりました。

 なんとか子杉を守ったものの、ボロボロになった老杉は

「昔はこのくらい、へっちゃらだったが、もう歳じゃ。子杉もだいぶ大きくなった、もうすぐお前も一人前だ」

 最後は嬉しそうに言うと、老杉は石にあたってえぐれたところから折れ、先に落ちていった老杉たちの所に落ちていきました。


 森の上には子杉と、一本だけ残った最後の老杉だけになってしまいました。


 ◇

 さらに何年かたったある年、これまでにない大雪と大雨と大風が、一度に襲って来たのです。

 それは、数百年生きてきた老杉もはじめての、ひどいものでした。

 まわりの山はいたるところで崩れ、大風は木々をなぎ倒し、降り積もる雪はいくつもの大きな木をつぶしていました。

 残った老杉と子杉にも、容赦なくおそってきます。


 しかし、大きくなった子杉はもう大丈夫。


 大雪にたえ、大雨や大風にもびくともしません。しっかりと地面に根をはり山が崩れるのもふせいでいました。


 ところが、残った老杉にはつらい年でした。

 やがてその年の嵐もおさまり、春がくると、最後に残った老杉は言いました。

「わしらが子どものときも大きな杉がわたしたちを守ってくれて、大きくなった。そして、下の森や村を守ってきた」

 最後の老杉もたっているのがやっとで、すこしずつ傾いています。

「これからは、ぼくが、おじいちゃんを守ってあげるよ、しっかりして! 」

 今度は、子杉が励ましています。

「たのもしいぞ! それを聞いて安心した、先にたおれた老杉たちも喜んでいるだろう」

「おじいちゃん、がばって! ぼくひとりになる、さみしいよ! 」

 倒れ始めた老杉は

「子杉よ、ここで倒れた杉はみんな下の谷に落ちて腐っていくが、そこにコケや草が生えて美しい谷となる。前に倒れた老杉たちも、ほかの生き物の家になっているんだ。これからは谷の底からお前の姿をながめることにするよ」

 そして、最後の老杉は桜の満開した谷の中に、ゆっくりと落ちていきました。


 ◇

 子杉はひとりぼっちになりました。


 でも、5本の老杉が谷の底から見ているような気がします。

 それに、たくさんの動物たちが枝の間を走り回り、山の景色は季節ごとに姿を変え、なにより新しい杉の子がたくさん生まれてきたのです。

 子杉は5本の老杉を全部合わせたほどの、山一番の大杉になりました。

 どんな雨や風や雪にもびくともしない山の一番杉として、何百年も立ち続けています。


 <おしまい>


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