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とある冒険者たちのありふれた日常  作者: 案山子
第一章 登録番号・FL22667-D2 ガナット・レティー 21才 9年目 男 ヒューマン
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ガナット・レティー 6

 いや、そんな誓いを立てている場合じゃない。


 大切なことではあるけど、その誓いを果たす前に俺の頭が掘削される。

 こんなことで人生終了なんてたまったもんじゃない、いま優先すべきはどうにかしてナチを落ち着かせることだ。

 

 俺は照れと殺意を同居させるナチから距離を取ると、瞬時に思考を巡らせ最善手をはじきだす。


「いいから早く準備しろって、取り合えずつるはしは下ろせ」


 俺はナチからすっと視線をそらすと、できるだけ平静を装って事務的に指示をだした。

 ナチの性格上、こっちが下手に慌てたりすると逆効果なのだ。余計に炎上して手が付けられなくなってしまう。


 俺は内心ビクビクしながら、なんでもないように準備を再開した。するとこちらの狙い通り、ナチはジトっとした目で俺を睨みながらも、振り上げていたつるはしをゆっくりと下ろした。


「……あーもう、馬鹿なんじゃないの」


 どうにか怒りを鎮めたナチが準備を再開すると、バドは弱々しくため息をつき疲れた顔で肩を落とす。パーティー内では一番の重装備で固めた屈強な肉体が、またまた縮こまって小さく見えてしまう。


 バドの装備は俺の軽くて通気性のいい装備や、比較的軽装寄りなナチの装備とは正反対だ。頭から足先までの七割近くを、金属系素材のプレートアーマーで覆っている。

 兜はすっぽりとかぶるバケツのような形状になっていて、目の部分に覗き穴があるだけで開閉はできず、バルクスという大型草食獣(バイソンに似た魔物)の角があしらってある。

 首から下は太股や上腕の裏など開いている個所も結構多いが、プレートアーマーの下にはさらに、分厚いレザーアーマーを着込んでいる。

 

 分厚い革の上に鉄板を付けているのだから、熱が全く逃げないし相当蒸れる。さらに腰にはバルクス毛皮を使用したフォールズを巻き、厚い布のマントまで羽織っているのだからその暑さは尋常じゃないだろう。


 全身をプレートアーマーで覆ってしまえば、わざわざレザーアーマーを着込む必要はないと思われるかもしれない。


 確かに国所属の兵士ならそれでもいいが、冒険者はそうもいかないのだ。


 とくに俺たちのパーティーは素材の採取や魔物討伐の依頼を中心に受けていて、静かに行動することを余儀なくされる場面が多い。ゆえに、歩くたびにガチャガチャ音をたてるわけにはいかないのだ。


 金属系素材の強度を活かしつつ、できるだけ音が出ない作りにする。そのためわざと金属の部分を減らし、レザーアーマーで補っているというわけだ。


 それに金属鎧は切る攻撃には強いが、メイスなどの打撃に対しては衝撃がもろに伝わってしまい意外と弱い。しかしレザーアーマーを下に着込むことで、緩衝材の役割も果たしてくれる。

 さらに金属で覆う部分を減らす代わりに、必要な個所を厚くして効率よく強度を上げることもできるわけだ。尋常じゃなく蒸れるということに目を瞑れば、実に理に適っているといえる。


 もっとも、夏場はそのデメリットがきつ過ぎてぶっ倒れるやつもいるから、あまり好まれる組み合わせじゃなかったりする。

 俺も一時期この組み合わせにしていたことがあったけど、ひと夏も超えることができずに断念した経験がある。


 兜とマント、そしてフォールズは外していたとはいえ、バドはこんな装備でずっとつるはしを振っているのだからきつさは俺とナチの比じゃないだろう。


 本当に精神力が強い男だ、年下で冒険者歴も俺より浅いが素直に尊敬してしまう。


「よし、全員大丈夫だな? 行こう」

「おー、やっとか。早く行こうぜ」


 俺たちが命がけの冗談を交えながら装備を整えると、オルトは待てましたとばかりに光の差す方へ向かって歩き始めた。


 洞窟の入り口近くまで戻ってきた俺は、強い日差しを浴び目を細める。


 明水露鉱石の成分を多く含んだ岩壁は、陽光を反射してキラキラと美しく輝く。周囲は青白い光が乱反射して幻想的な光景になっていた。何度見ても息を呑む光景だが、今は見とれている場合じゃない。


 俺は左手でメンバーを制すると、チラリとオルトに視線を送った。


「どうだ?」

 

 洞窟の入り口付近では、待ち伏せをする魔物が多くいる。ようやく洞窟を出られるという安堵感は油断に繋がり、もろに強襲を受ける要因になってしまうのだ。


 ゆえに洞窟が絡む依頼の時には、この瞬間こそもっとも注意しなくてはいけない場面の一つといえる。 

 

「ん、……大丈夫だ、何もいない」


 その言葉に頷きつつ洞窟をでると、俺はオルトにサーチを解除させ索敵をナチに交代させる。


 それと同時に、俺も周囲の警戒を強めたのだった。

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