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とある冒険者たちのありふれた日常  作者: 案山子
第一章 登録番号・FL22667-D2 ガナット・レティー 21才 9年目 男 ヒューマン
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ガナット・レティー 12

「もっと効率よく採掘ができればいいんですが」

「だねぇ、そういう魔道具とかないのかな?」

「確かに、そういうのがあるといいですね」


 そうやって、ナチとバドが腕を組み難しい顔をしていると、オルトがしれっと「あるぞ」と答えた。


「よく土木工事で使ってる、見たことないか?」

「え? あー、はいはい。なんか攻城兵器みたいなやつでしょ? いいじゃん、今度はみんなでアレ持ってこようよ!」

「ですね、それなら大分楽になりますよ!」


 これぞ名案とばかりに二人が盛り上がっていると、その様子を冷めた目で見ながらオルトがため息をつく。


「馬鹿かお前ら、あんなもん用意したら余裕で足が出るぞ。そもそも、あんなでかいのここまで運んでこられねぇだろ」

「あぁ、そりゃそうかぁ……」


 オルトの無慈悲な返答に、ナチがまたガクッとうなだれる。その様子を横目に、俺は過去の記憶を呼び起こしていた。


「大きな魔道具を持ち込めない現場用に、魔導が付与された金槌とかつるはしもあるぞ」


 俺がまだ新人だった頃、依頼で土木業者の手伝いをしたことがある。その時そういった魔道具を渡されたのだ。

 固い岩を軽い力でがつがつ掘れて、感動しながら悔しくなったのを覚えている。


 冒険者なのにこんな仕事を――と情けなくもなったが、あの依頼は勉強になることが多かった。

 あの時の知識は今でも役に立っているし、その現場を仕切ってた先輩は、今でも俺が思い描く理想のリーダー像だ。


 俺がそんな思い出に浸っていると、ナチがむくれた顔を向けてくる。


「そんなのあるの? もっと早く言ってよぉ」

「いや、言ったらどうしてたんだよ?」

「持ってきたに決まってるでしょ!」


 その返答が本気なのか分からず、俺はナチの顔をまじまじと見てしまう。

 するとナチは純粋無垢な表情で、不思議そうに首を傾げてみせた。どうやら本気で言っているらしい。


 その表情に、俺は小さくため息をついてから言った。


「あのな、つるはしっていっても魔道具なんだぞ?」

「は? 分かってるよ、だから欲しいんじゃん」


 分かってない。ナチはなんにも分かってない。


 俺はもう一度ため息をつくと、首を傾げるナチに向き直り、できるだけ分かりやすくため息の理由を説明しようと試みる。


「いいか、簡単な造りで魔道具としては安い方だけど、それでも5万オラク(1オラク=1円)以上はするからな? 三本揃えたら15万だぞ?」

「うぬ……、でもそれくらいなら」

「鉱石採取の依頼ばっかり受けるなら買ってもいいけど、俺たちは受けても年に数回程度だろ? そのために15万もだせるかよ」


 いま俺たちが受けている明水露鉱石採取の依頼は、達成報酬が40万オラクだ。

 俺たちのパーティーの場合はそれを四等分するので一人10万だが、過去に受けた時は追加報酬で一人あたり30万ほどになっていた。


 これはDランクの依頼単発としてはなかなかの高額で、手間や危険度を考えるとかなり割りがいい部類に入る。


 そこまでじゃないにしても、採取系依頼は総じて追加報酬が付きやすく、うまくすれば大きな稼ぎになる。だが、そういった依頼は競争が激しく、いつでも受けられるわけじゃない。


 Dランクの冒険者が稼ぎだす報酬は、平均して毎月30万から40万オラク前後だろう。

 普通に生活する分には全く問題ないが、冒険者はそこから武具の整備費や、依頼をこなすための費用がでていくのだ。


 Dランクに上がると一気に報酬が増えるが、その分一つの依頼にかかる期間が長くなる。

 そうなると月にこなせる依頼の数が減るうえ、一つの依頼にかかる費用は多くなってしまう。


 さらにEやFランクの時には受けられた、ギルドからの新人支援がなくなってしまうのだ。


 それでもEランクの頃に比べれは生活は楽になったが、Dランクになると依頼の危険度も一気に上がる。

 怪我でもすれば収入が0になってしまうし、たまにしか使わない道具に十万以上もかける余裕などないのだ――と、まずは金銭面について言及したものの、魔道具つるはしの購入を渋る最大の理由はそこじゃなかったりする。


「それに、つるはしだから魔道具って扱いだけど、あれほとんど魔導武具と同じだからな。初めて買う魔導武具がつるはしでいいのか?」


 俺の問いに、ナチの表情が明らかに曇った。


「そ、それは嫌かも…」

「だろ? 俺も絶対に嫌だ」


 魔道具と魔導武具は、用途と呼び名が違うだけで構造に明確な違いはない。

 大都市で生きていれば少なからず魔道具に触れる機会はあるし、中流程度の家庭なら日常的に魔道具を使用している。


 しかし、それはそれとして、多くの若手冒険者が自分専用の魔導武具には憧れを持っているのだ。

 特に初めて自分で購入する魔導武具となれば、しっかりと吟味を重ねて納得できる物を選びたい。


 バドはすでに装甲強化の付与がされた大楯を、オルトなんて胸当てとグローブの二つも魔導武具を持っている。


 一方で、俺とナチはまだ一つも持っていない。


 よくみんなで理想の魔導武具について語り合うが、その選択肢につるはしなんて物は含まれていないのだ。

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