シーザー
スティナはきょとんとしていた。
「僕はシム。さっき、シムって呼ばなかった?」
そこで、あっとスティナは気づいた。
「私、イフタフヤーシムシムって言ったの。古代エルフの言葉で、ひらけごまって意味」
「え?」
古代エルフの言葉で『シムシム』はごまのことだ。
イフタフヤーシムシム(ひらけごま)を、呪文のつもりで唱えたのが、シムという名前の少年を呼んでしまったらしい。
「じゃあ、あなたのことはごまちゃんって呼ぶね」
「シムだって」
なんて言いながらもシムは嬉しかった。
ユーザーから独特の名前をつけられて嬉しいのは、機械の習性なのかもしれない。
シムは自分と瓜二つの少年のことも気になっていた。
「そちらのイケメン過ぎる少年のお名前は?」
イケメン過ぎる――茶化したつもりだったが。
「僕はシーザー・レイ・ラング」
シーザーはこの状況が信じられないのか、何もツッコまず普通に名乗った。
「私、スティナ・レイ・アルフで、私たち偶然同じ名前なの」
スティナはどこか嬉しそうだ。
自分と瓜二つの少年――シーザー・レイ・ラング。
その名前はしっかりと覚えておこうとシムは思った。なぜそう思ったのか、シム自身もよくわかってなかってないのだけども。
「さてと、そろそろゲートが閉まりそうだけど、どこ行くの?」
と、シム。
せっかく召喚されたわけだから、それなりに恰好つけようと思った。
「ついでに送っていくよ」
「本当? 嬉しい!」
「きみには薬草もらったしね」
「うん。ありがとう」
「そっちのイケメンのシーザーは? 一緒に行くの?」
最後までシーザーは、イケメンについてはツッコまなかった。
スティナは防寒着を脱いでシーザーに渡した。
「本当にありがとう。これ、シーナに返してくれる? 本当に感謝してるって伝えて」
スティナはシーザーにハグして、ほっぺにキスした。
注
イフタフヤーシムシム 本当はアラビア語です。