異世界の少女
――だったら、シミュレーションロイド?
シミュレーションロイドは、人工的に生み出された人間。
その特徴は栗色の髪に青い瞳のはずだが、目の前の少年はシムと同じ茶色の瞳をしていた。
――突然変異かな?
シムは、思わず自分と瓜二つの少年を見ていた。
目の前の瓜二つの少年も、シムと同じようにシムを見ている。
「ね? シーザーにそっくりでしょ?」
と、黒髪の女の子が言う。
そのそばに、ペットらしき爬虫類もいる。
ふと、周囲に目を配ると、隠れてこちらを見ている人物に気づいた。
こちらに害を及ぼすでもなさそうなので、気にしないことにした。
「えーっと……? 僕の事、呼んだ?」
異世界から、特定の人物を指名するなんて、かなり高度の魔術だ。
いわゆる召喚術とも言うが、そんな高度な魔術を駆使して呼び出されるほどの存在でもないと、シムは自覚していた。だからこそ不思議だった。
「ゲートを開けようとしてたんだけど?」
そう説明する女の子に見覚えがあった。
「あ! きみ、エルフの女の子!」
「そう、覚えててくれたの?」
エルフの女の子――スティナはぱっと笑顔になる。
「うん。猫ちゃんは元気?」
「元気にしてる」
思いもかけぬ吉報がシムは嬉しかった。
さっきまでの殺伐とした状況が嘘のようだ。
「ゲートなら開きかけてたよ」
シムは、カゴを持ち上げる。
「この子の魔力のようだけど。……て、ことはきみが僕を呼んだの?」
シムは爬虫類に問いかけた。
爬虫類が答えるわけないだろ、というツッコみ待ちだったが誰もシムにツッコまなかった。
改めて考えなおす。
よくよく思い返すと、スティナは薬草をくれた後、走り去ってしまった。
シムはスティナに名前を教えてないのだ。
つまり、この場にいる全員、シムの名前を知るはずがない。
「自己紹介してなかったよね? なんで、僕の名前、知ってるの?」