アンドロイド
小さな光の奥にその人物がいた。
シムはが暗視モードをオフにする。その瞬間に襲い掛かって来た。
殴られ、後ろに吹っ飛ぶ。
生身の人間のスピードと力ではない。
それまで暗闇だった空間に一斉に明かるくなる。
蛍光灯のようだ。
――アンドロイドかな。
そんなことを考えながら、シムは逃げ出した。
もしかしたら、シムの方が相手のテリトリーに無断で踏み込んで怒りを買ったのかもしれない。
そう考えれば、部外者のシムの方が去るほうが自然だと思ったからだ。
だが、相手は追いかけてきた。
――戦う気なのか。
そう判断し、シムは振り返る。
殴ってきた相手の拳をつかむ。
シムはアンドロイドの手を確認する。
このアンドロイドには両手しっかりついていた。
あの落ちていた手の持ち主というわけではなさそうだ――シムはそんなことを考えていた。
「こんにちは。平和的に解決したいんだけど?」
とはいえ、これだけの死体のある場所に、たった一人(一体?)でいた相手だ。
たぶん、平和とは程遠い状況なのだろう。
「侵入者、排除する。侵入者、排除する」
「きみは人間じゃないんだね?」
シムが尋ねる。
「侵入者、排除する。侵入者、排除する」
――アンドロイド?
シムはじっくり相手を観察する。
壊れているのか、単調なプログラムなのか同じ言葉を繰り返している。
「ここにある死体は、きみがやったの?」
「侵入者、排除する。侵入者、排除する」
シムは目の前にいるのは、壊れたアンドロイドだと判断した。
この地に住んでいる者を侵入者だと認識し、その結果が大量殺戮ということになったのだろう。
「侵入者、排除する。侵入者、排除する」
――直す方法は?
時間をかければあるかもしれないが、時間をかければ新たな犠牲者を生む可能性の方が高い。
そう判断したシムは、目の前のアンドロイドを破壊することにした。