洞窟
シムは、しばらくじっとしていた。
気配らしいものは感じない。
暗闇の中で、自分の中にあるはずの感触がないことに気づいていた。
さっき拾った機械の手。
シムが違う空間に放り出された時に、途中で落としてしまったようだ。
そこは洞窟のような場所――?
シムは、機械の目の暗視モードをオンにした。
そこは洞窟のようだ。
シムの後ろにはゲートがあった。
ゲートは閉じられていた。
ゲートの端末を確認すると、場所はドワーフの谷というところ。
確か以前、竜の大地にたどり着いたエルフの少女スティナも同じ世界の住人だ。
一説によれば、エルフとドワーフは仲が悪いんだとか?
進んでみれば、ドワーフには出会えるのだろうか?
真っ暗な洞窟を歩きながら、ドワーフに関する知識を頭から引っ張り出してみる。
ドワーフは洞窟に籠って生活しているとか、手先が器用とかそんな情報があった。
魔導メカの原型を作ったのもドワーフとされている。
シムにしてみれば、シミュレーションドールの祖先を作った感謝すべき存在でもある。
そういえば、あの機械の手はドワーフが作ったものだろうか?
洞窟を進んで行くと、臭いに気づいた。
――この感じは……
シムは自分の予想が外れればいいと思った。
だがその臭いは強くなる。シムは確信した。
そして、シムは見た。
たくさんの死体だった。
――人間?
惨殺されたであろう死体は、人間かドワーフか区別がつかない。
シムが感じた臭いは、血のような腐敗したような、いわゆる死臭というものだった。
そんな時、それに遭遇した。