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第11話 やめてくれ、そのワードは俺に効く。

久しぶりですね。



『冒険者ギルド各員に通達します!至急、Cランク以上の冒険者は会議室に集まって下さい!緊急事態です!』



ありゃま。マスターもばっちり範囲内ですね。ギルドに併設されている酒場兼レストランの様な場所で依頼の後の休憩に食事をしていたマスター達がいきなりギルド中に響いた声に反応する。



「どうする?エルティ」


「行くしか、ないんじゃないかな〜?」


「そうですね……」



カエデ氏がどうするか聞いてきたが、ファルル氏が拒否権は存在していないと語る。

マスターは未だ食事中な為、対応は上の空だ。



「エルティ、そのグラタン食べ終わったら会議室行こうな」


「ふぁ!?………ああ、そうでふね。わふぁりまひた」


「ついでに《豪炎》さんに話しかけてみる〜?今日、ここに来てるらしいから、会議室にも来るわよ〜」


「んぐんぐ…………はい、それもいいですね。名高きAランクの高み………気になりますし」



食事に集中しているマスターに気づいたのか、カエデ氏が会話を切り上げる。それに話を聞いてなかったと気づいたマスターが慌てて反応し、ファルル氏に食べながら話すのを咎められていた。


そんな光景を、私はマスターの腰に括り付けられた鉄扇から見ていた。武器と同化するならどうせなら殺傷力の高い武器が良かったかも……とか思いながら。


それにしても、緊急事態です、と言われても今さっき危機から脱して休憩中のマスター達には体力的にキツイものがあるのではないか?


…………いや、そのBランク冒険者パーティが危機に陥ったという事実が問題なのだろうか?マスター達はこのギルドでもかなりの実力者らしいし。


でも、Bランクってそこまで強いのかな?……いや、未だFとかEランクで燻ってる私が言える事じゃないが。





食事を終えた3人は、後片付けをしてから重い足取りで会議室に向かっていった。


私は無言でそれを見つめていた。











◆◇◆◇◆◇◆◇







「それで、緊急事態とはなんでしょう?」



椅子に座って話が始まるのを待つ者、立って話を聞く者、緊張感を高めながらギルマスを見つめる最近Cランクになった新人、壁に背を預けて腕を組んで興味なさげに周りを見ているなんか強そうな男。


いろんな人達がいる場所で先陣を切ってギルマスに話しかけたのは、金髪の青年だった。

話す時間も惜しいとばかりに急いでいる、しかし話を聞かなければできるものもできないので、一応話を聞く、と言った手柄を焦る新人にありがちな態度(ファルル氏曰く)のこの男は、人が全員集まったと確信した途端、直ぐに口を開いた。



「うむ。今日集まってもらったのは、先の調査依頼で判明した事じゃ」



しかし、その態度を注意する意味も余裕もないのか、ギルドマスターは話を始める。

しかし、まさかの私達が逃げ帰ってきたあの調査依頼が原因か…………何か危険なことでもあったのだろうか?


そう皆んなが怪しんでいると、ギルドマスターの口からは予想外の言葉が飛び出てきた。




「今回の調査依頼で、このギルド周辺の四つの村にゴブリンの軍勢が襲撃体制が万全な状態で潜伏している事がわかった。最低でもゴブリンロードの存在は確実。……………そしてーーーーー何者かがゴブリン達(・・・・・・・・・)を動かしている(・・・・・・・)


「なっ………!」


「それは、人間が魔物を嗾けている……と?!」


「バカな………」



ギルドマスターの言葉は余程あり得ない事だったらしく、辺りが騒がしくなる。

何人かは頭を抱えているようだ。魔物使いなどの概念はこの世界には無いのかな?かなりの動揺が伝わってくる。

中には、微動だにしてない人も一人だけいるが、あれは単純に自信の表れだろう。事実、その平然としている男は壁に背を預けたままだが、それでもかなりの力が伝わってくる。今の動揺している普通の人の反応がコレなのだ。恐らく。

私はこの世界に詳しくないので、よく脅威の意味がわからないが、マスター達が口に手を当てて驚いているから、これはかなりの脅威、或いは珍事なのだろう。



「軍勢は東西南北四箇所に配置されており、そのうち東側は《豪炎》の成果によって殲滅されたが、その時の討伐数から、敵の数は千以上………場合によれば万に及ぶ。 そこに人の知性による助力があると思えば、これは戦争と何も変わらん。

ーーーそれでも、協力してくれるかね? 言っておくが、辞退してくれても責めたりはせん。これはそれ程の大事じゃ」



「数万のゴブリン!?どこからそんなに………」


「東は《豪炎》が駆除したらしいが……」



確かに、人間の知恵に魔物の力が備われば、鬼に金棒というものだろう。いや、敵はゴブリンだし、小鬼に金棒?………どっちにしろ、戦争と変わらないというのは納得だ。ゴブリンが人の武器を使ってくる可能性が高い上に、ゴブリンロードという指揮官もある。軍隊規模の数の暴力もある。これを冒険者だけで対処しろというのは無理があるのではないだろうか?


それを思ったのは私だけではないようで、ちらほらと冒険者からそんな声が上がる。


曰く、「俺たちだけじゃ無理だ」と。


その言葉はギルドマスターも承知していたようで、返事はすぐに帰ってきた。



「当然、そう言われる事は分かっていた。だから至急急ぎで王都に事態を書いた文を送っておいた。かなり詳細に書いたから、余程の無能が読まない限り援軍は期待できるじゃろう。儂らは、援軍が来るまでの間、ゴブリンの被害が出ないように敵を少しでも駆逐しながら持ち堪えればいい」


「おおっ………!」


「さすがギルマス!」



その言葉に少しだけ冒険者達の気分が楽になったのか、依頼を受ける流れができ始める。

それを見ていた私は思わず訪ねてしまった。



『疑問。それで、ゴブリンの上位種が徒党を組んでいる現状はどうするので?Bランク冒険者でも逃げるしかなかった以上、またゴブリンを駆逐しても、この前の調査依頼と同じ状況になるのが関の山かと存じ上げます』


「なっ……どこから声が……!」


「だれですか!?」


「………ふむ」


「…………」



私がいきなり声を上げたからか、周りでは姿の見えない声に動揺が走る。しかしそれは、ゴブリンの軍隊の情報を前に平然としていた《豪炎》と思しき男と、ギルドマスターの視線がマスターの腰に挿さる私に向けられた事から鎮静する。

だれもが、声の発生原と思われる鉄扇を見ていた。



「………はっ!………ちょ、ちょっとエーテル!いきなり何を……!?」



それに遅れて気づいたマスターが鉄扇を抜き、顔の前に持ってきて嵌められた宝玉ーーつまり私に抗議する。



「ふむ、魔石か………。エルティ君、それは君の?」


「はっ、はい!………還らずの街道で見つけた魔石です。ギルマスには前に見せましたが………」


「ちょっとどういうつもりだよ、エーテル!こんな時に水を指して!」



ギルドマスターがマスターに問うと、マスターがそれに妙に畏まりながら返事をする。確かに私は一度ギルドマスターに会っている。武器に加工する前の話だから気づかなかったのだろう。


そして、カエデ氏が私に何故今声を上げたのか聞いてくる。不思議なことを問うものだ。

確かに、今の雰囲気なら多くの冒険者が参加する流れだった。それに水を指すのは確かに悪手だ。普通に考えて援軍が到着するまでに(・・・・・・・・・・)誰かが死ぬのは確定(・・・・・・・・・)な以上、手勢は多い方がいい。

だが、それを言うなら____



『____マスターの身に危険があるのですから当然のコトでは?

ホブゴブリン30体に勝てないというデータは以前戦ってわかりました。敵がそれより多いなら尚更です。

援軍が一日二日で到着する訳ないのですから、それまでにマスターが死んでしまう可能性もある…………最低限私の主を安全が保障されない限り、作戦に参加するのは反対です』


「そりゃ……そうだけど………」


「ふむ」


「エーテル、私は自分の命が惜しくて冒険者はできませんよ。それは、ここにいる人たちも同じです。ここまで来た以上………いや、冒険者になったその日から、死ぬ覚悟はできている筈ですから」


『否定。人間はそこまで気高く在る事には耐えられません。必ず、死を恐怖する者があらわれます』



マスターはこう言うが、人間は予想以上に愚かな生き物だ。自分が危険に晒されると考えると自然と足が止まるものなのである。実際、ここにいる何人かは辞退の意思を見せ始めた。私の言葉で、援軍到着までにかかる時間が不明瞭であり、それまでに犠牲がでかねない事。そして、その犠牲が自分である可能性に気がついたのだろう。


私の作戦は基本、自分の進化が絡まない限り「いのちだいじに」である。今回のは大量の敵がいて経験値は美味しいが、死の危険がある以上、進化できるかもわからないのに楽観して参加して壊滅とか洒落にならない。

加えて私は武器なのだ。鉄の身体とはいえ、敵を何匹も一度に相手すれば破壊される可能性がある。鉄扇と同化している現在、本体の宝石が無事でも鉄扇が破壊されれば何らかの影響が無いとは言い切れない。


主の身の安全とか言ってるが、ぶっちゃけると、この作戦における自分への影響が怖いだけである。



「クク………おもしれーヤツが居るな………」


「………本来、魔石は倒された魔物の恨みが詰まっている。ここまで主人の身を案じる事など無い筈なのだが…………君の生前は聖騎士の従魔か何かなのかな?」


『否定。私の生前はゴーレムのようなものですので、特定の相手と懇意にする事はありませんでした』


「なるほど、無機物なら怨みも抱かない、か……」



《豪炎》さんが私を見て口を吊り上げている。ギルドマスターのとなりにいる白衣の青年が私に疑問を投じて来たが、それは適当に異世界風にアレンジして返した。

実際アンドロイドもゴーレムの一種みたいなものだろ。科学的か魔術的か、人間的造形か魔物的造形か、の違いなだけで。




「それでは君は、逃げるのかね(・・・・・・)?」


『疑問。今なんと?』



その時、ギルドマスターの口から信じられない言葉が聞こえてきた。

残念ながら、そういう(・・・・)意味で言ったのなら取り消した方がいい。それは私の中の境界に触れる。



「____逃げるのか?と、言ったのだよ。

守護が本分たるゴーレムが、あまつさえゴブリン相手に、ただ危険だからというだけで逃げるのか?

元より死ぬ覚悟も無い臆病者をこの作戦に投入する訳にはいかない。そういう意味では君の言葉も聞いてやらない訳ではないがの。だが、他の者達が死を覚悟して尚、気高くも生き残ろうとしている中、この場で最も死を理解している君が逃げるというのなら…………」



しかし、構わずギルドマスターは口を開き続ける。


やめろよ。傷を抉るのは。私はあの醜い世界で生き残って来たんだぞ?人と人が蹴落とし、蹴落とされ続けて成り上がっていく狂気の世界で、本当の意味で『生きていた』という自負があるんだ。


私は他の『人間』とは違う。


他人を不幸にして幸福を勝ち取ろうなどとしていない。自分を大事にして平凡で怠惰な日常を暮らしていた…………〝誰も不幸にしていない〟存在なんだ。

醜い人間とは違うんだ。ましてや、ここの冒険者などより劣ってるなど…………。


しかし、どれだけ怒りを覚えてもギルドマスターの言葉は止まらない。


____そして、決定的な言葉が紡がれた。



「____逃げてもいいのじゃよ?伽藍堂の人形(ゴーレム)君」



それは、私にとっての触れてはならない部分だ。


伽藍堂。中身のない、人形みたいな人形。


私を見て誰もが言う言葉。心は燃え滾っているのに、どうしても外にその情熱を表せなかった私が、アンドロイドであるという事実と一緒に揶揄されるように、いつしか言われる様になった言葉。


それを聞かされたら黙っていられない。何の因果か、異世界なんて所に来た以上、前のままはゴメンだ。何より、ここで逃げたら前の世界の『人間』共と同じになってしまう。



『………っっっ!!…………いいでしょう。なら、私も全力を尽くしてあげましょう………ここまでコケにされては黙ってられません。人生幕引き直前の老人に華々しい舞台を用意してあげます。

____いいですね?マスター』


「えっ……えっ?……あ、うん。最初からそのつもりですけど………」


『では、成立です!私は魔力温存の為休眠します。戦闘になったら起こしてください』


そうして、私はマスターの戸惑いながらの了承を聞いて直ぐにスリープモードになった。

これは、石ころに転生した後、いつのまにか寝てた時があったので調べた所、普通に活動するにも魔力が必要な事に気付き、その魔力消費を抑える為に自前で編み出した技術である。

意識を完全に絶って、『活動』と呼べるものを全て放棄する事で、消費する魔力をゼロにする。後は自然回復で魔力が貯まるだけ、という事だ。

欠点は、睡眠のようなものの為、一気に知覚能力が無くなる事と、意識を絶つと魔力の流れが大人しくなるのか、起きてから魔法を使えるようになるまで時間が掛かるという事だ。

しかし、その代わり、起きた瞬間は常に万全である。


魔力の自然回復量が活動消費量を上回れば無用の長物なのだろうが、今はこれをしないで起き続ければそのうち魔力切れで気絶するので最高のパフォーマンスを見せるべき所である今この状況は眠るのが最善なのだ。



____じゃ、おやすみ。






「売り言葉に買い言葉、というか………」


「こいつ、最後には自分が一番作戦に乗り気だった事に気付いてんのかな?」



マスターとカエデ氏のこんな言葉なんて聞こえてないですからね!

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