第10話 黒幕は誰か?
今年最後の更新です。
めっちゃ長くなったな……。でも会議シーンは1話で終わらせたかったし、途中に切る場所が見当たらなかったのでゴリ押しした。すいません。
「はぁ……」
ギルドマスターのため息が静かになった部屋に響く。
今、ギルドの会議室では、ギルド職員達に緊張が走っている。
それは、つい先ほどBランク冒険者達が逃げ帰って来た事に由来する。
それだけでも充分問題になるのは簡単なのだが、1番の問題は、その冒険者達が報告した調査結果によるものだった。
「30体程の上位種が徒党を組んで襲ってきた……か」
「会敵前に通常種と何度も遭遇したそうだから、通常種は囮、もしくは斥候か何かか………」
「どちらにしろ、ゴブリン達は30体もの上位種を一回の戦いで消費してもいいレベルの軍団を築いている訳だ」
「バカな!母体はどこから調達するのだ!?食料問題もある!!仲間の死体すら食べるグールなどとは違うのだぞ!?」
「そもそも、依頼を出した時点で当初の被害は周辺の村全体に及んでいた。彼女達が会敵した30体の上位種がゴブリン達の本隊と判断するのは早計だろう」
「領主からいきなりゴブリンの調査が依頼された事に最初は訝しんだものだが……」
「ギルマスも嫌な予感がすると言っていたし……」
会議は進まず、無駄な現状確認だけが長々と続いていく。
無理もない。これが本当なら、この領地周辺の村全てにゴブリンの上位種が徒党を組んで迫る態勢が整っている事になる。それはつまり、ゴブリン達が軍隊規模の編成を持っている事を意味し、それら全てがどこかの村の近くに今回の様な大規模な戦力を隠し持っている可能性があるのだ。
必ず何処かに、ゴブリンの王がいる。
「おい……確か、周辺の村全てにゴブリンの被害報告があったよな……?」
「そうだが……はっ、まさか!?」
そして、そのゴブリンの王は精強な軍団を持ち、それを辺境の村一つ一つに分けて配置している。
つまり、今回の上位種30体は、村に派遣された一派に過ぎず、周辺の村全てに先程調査を依頼した村と同じ兆候が見られる以上、他の村にも同じ規模のゴブリンの軍隊が居る可能性も認められるのだ。
加えて、これほどの侵攻態勢を誰にも悟らせずに整えたゴブリンの王が慎重でない訳がない。
確実に、自身の周りにはもっと強大な軍団を護衛に置いているだろう。つまり、本隊は別にある。
しかし、それは本隊を倒せば終わりという訳ではない。ゴブリンに遠隔通信の技術が無い以上、各隊の指揮系統は独立していると見るべきだ。つまり、本隊を叩いても村に派遣された一派が退けられる訳では無い。
「確か、被害報告があった村は4件だったか」
「同じ規模のゴブリンが潜んでいると見ると、100匹は下らんな……」
「通常種も含めると、千匹以上に及ぶ可能性もある……」
「嘘だろう……どうやって、そんな数の理性なき存在を飢えさせずに隠して運用していたというんだ……?」
「ゴブリンロード………それもかなり格上だな……」
ゴブリンの上位種が徒党を組んでいた、というだけでここまで想定するのはビビリすぎに見えるし、普通ならあり得ないと思うだろう。実際、このギルドのマスターが無能なら今回現れたホブゴブリン達を倒して終わりにした筈だ。
だが、周辺の村全てに同じ位被害が出ている以上、調査した村だけが特別だと楽観できなかったのもあり、今回の規模のゴブリンの軍隊は被害のある村全てに存在すると判断するしかなかった。
そして、そう判断すれば、独立した数々の軍隊を指揮する存在が居るはずという結論に辿り着く。
そうして気付いた王の存在が、どうやってかは分からずとも誰にも悟らせずに大規模の部隊を集めた手腕と、個別の指揮系統を用意して自分が居なくなっても部隊が回るように計らい全ての村に独立した侵攻態勢を敷かれた事実に戦慄する。
「しかし、いったいどうやって………」
しかし、同時に彼らは知っている。ゴブリンがどんなに卑劣で残忍でも、強者に媚び、徒党を組むしか生き延びる事のできない非力で脆弱な存在だと。加えて、それほど非力でありながら、ゴブリンは基本的に自身が第一だ。
たまに現れるゴブリンの上位種も、強くなったと勘違いして一人で群れを離れ、冒険者に狩られるまでがセットだ。
つまるところ彼等は自分が一番じゃないと嫌なのだ。
だが、それだと弱者である自分達は生き残れないから、生来の卑怯さでもって強者に必死に媚びる。だからこそ上位種になれば、強者になったと勘違いして途端に強気になる。
そんなゴブリンが一つの意思の元に徒党を組んでいるのが信じられない。ゴブリンの群れ自体は結構あるが、彼が一体のリーダーを立てる事はあまり多くない。
それは、ゴブリンロードであっても同じだ。ロードに指揮されたとしても、それは強者のお零れに預かる為に言うことを聞いているだけで、決してゴブリンロードを尊敬している訳ではないのだ。
「母体や食料事情は置いておいても、ちょっと頭が良すぎるな………」
加えて言うなら、今回のゴブリン達は全て隠れて部隊を編成していた。
ほんの少しの武器を扱う程度の知恵を持つだけで、人間からしてみればとても賢いと言えないゴブリンが、まるで有能な指揮官の下で、戦争の準備をしているかの様に、耐え忍んでいる。
敵に知られない様に軍隊を拡張し、相手の様子を伺いながら攻めるべきタイミングを見極める。
そこら辺は、まるで人間が侵略戦争をする時の様だ。
人間ならば、後は大義名分があれば侵略できるだろう。
「だが、これらは全て『上位種が徒党を組んでいる』という状況証拠から見出した最悪の事態に過ぎない。そんなに、慌てる事ではないのでは………?」
「たしかに、些か発想が飛躍し過ぎた気はするが……」
「報告します!カレス村、カリル村、カナル村の調査依頼を受けていた冒険者が帰ってきました!」
そうして、彼等が希望を持とうとした所に、慌ただしく足音を立てて受付の女性が会議室に入ってくる。
他の三つの村に行った調査隊が帰ってきたとの、報告だった。
「……報告を聞かせよ」
どうかこの最悪の想像が杞憂であって欲しいと願うかの様に静かになった職員達を見回し、会議室に入って来た受付嬢にギルドマスターが報告を促す。
「はっ、カレス村では通常種ゴブリン凡そ40体と戦闘後、まるで図ったかのように上位種ホブゴブリンが26体程、徒党を組んで現れた模様。その後、120体程の通常種ゴブリンに包囲されながらも、手に負えないと判断し一点突破で包囲を突破し逃げてきたとの事です」
「報告します。カリル村では、ゴブリン20体以上と戦闘後、10体以上のホブゴブリンに遭遇、こちらの疲労を待つかの様に一匹ずつ戦線投入されていくホブゴブリン達相手に三体程討ち取るも、重症を負い離脱したとの事。冒険者は仲間の怪我に錯乱していたのと、ゴブリン達が出し惜しみをするかの様に戦闘していたようで、正確な数がわかりません」
「続いて報告します。カナル村では、109体のゴブリンと遭遇、殲滅した後、ホブゴブリン59体と戦闘、殲滅したとの事。その後、周辺調査を継続し、ゴブリンを326体殲滅した後、ゴブリンの影が見えなくなった事から帰還したとの事です」
最初の報告に顔を青ざめ、2回目の報告で最悪の事態が現実味を帯び、3回目の報告で少し安堵する職員達。
しかし、考えてみれば、3回目の時のゴブリン達は殲滅したとは言え、他の場所より多い。しかし、もし、他の場所のゴブリン指揮官が冒険者の力量に対応した軍勢を送っていたとしたら………?他のゴブリンの数が3回目の報告より少ないのは冒険者の力量に合わせただけで、本当はどこの場所でも同じ数のゴブリンが居たとすれば?
そんな想像をしてしまった職員の一人は、恐る恐る報告をした3人の受付嬢に聞く。自分のしてしまった想像を否定する為に。
「………因みに、三つの村それぞれに対応した冒険者は誰だい?」
「カレス村は、Cランク冒険者チーム《旅人の靴》が調査しました。Bランク目前の注目のチームです」
「カリル村は、Dランク冒険者チーム《青色の瞳》です。現在ギルドで治療中です」
「カナル村は、Aランク冒険者チーム《豪炎》が対処しました。丁度このギルドに来ていたのでクエストを紹介した次第です」
しかし、その返答は逆に彼の嫌な想像を現実のものとしてしまう。
Bランク冒険者チームである、《黒兎》のチームが30体。
Cランク冒険者チームである、《旅人の靴》が26体。
Dランク冒険者チームである、《青色の瞳》が10体。
まさか来ているとは思わなかったが、放浪型冒険者であるAランクチームの《豪炎》が59体。
Aランクは人外の領域。その冒険者がゴブリン如きに倒される筈もない。ゴブリンも手加減などする暇は無い筈。
つまり59のホブゴブリンと1体の指揮官が各村の(上位種のみで計算するとだが)戦力だと仮定すると………確実に冒険者の力量に合わせて確実に勝てる戦力を出している。
まるで冒険者を熟知しているかのような行動。
Aランクの《豪炎》は流石にゴブリン達も予想外で全力で迎撃したとしても、この冒険者を知り尽くしているかの様な巧妙な戦力配分は人間にしかできない事だ。
「決まりじゃな………」
ギルドマスターの重々しい言葉が響く。当然だ。彼等からしてみれば、最悪の想像をして震えていたら、最悪よりも最悪の事態が返ってきたようなモノだ。
「敵はゴブリンロード。Cランク以上の冒険者に緊急招集をかけよ!………これは戦争じゃ」
「「「わかりました!」」」
報告しに来た受付嬢が敬礼して会議室を出て行く。
会議室に沈黙が落ちる。
誰も言葉を発せない中、ギルドマスターが重々しく口を開く。
「………そちらの彼が予想した通り、相手は冒険者を熟知している。ゴブリンロード、などという上級下位程度の魔物には出来ん事じゃ」
「「「……………」」」
誰も反論しない。何故なら、その事態を想像してしまったからだ。
彼等からすれば、ゴブリンロードが通常よりも手勢を多く率いている、位が最悪だった。だってさっきまでその事態に怯えていたのだから。
だが、事態は彼等の予想以上に最悪だった。
___そう、ゴブリンが冒険者を熟知している。この一点につき見逃すことは出来ないのだ。
冒険者を知っている…………つまり人間が関与しているという事だからだ。
「何が目的かは知らんが………『奴ら』がまた、動き出しておる」
その言葉は、静かな会議室に響いたのだった。
ゴブリンスレイヤーに影響されたかな………。
因みに、『奴ら』って誰だよ!!って作者自身思ってます。