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羊の皮を被った何とやら

盗賊達を一箇所に集め、誓約の儀。

契約の紋章紙に、二度とエルフの村を襲わない事、奴隷狩りをしない事、罪を償う事、賠償金を払う事・・・抜けなく羅列してあるが・・・これが履行される事はないらしい。

本来ならあり得ないのだが・・・契約の文様魔法、そのものを乱すのだろう、とリーンは説明してくれた。

殺してしまえば、流石に次は攻めて来られないが・・・王国に目を付けられると、王国精鋭軍が動くとの事で・・・紋章機や紋章獣を動員できている事自体、後ろに王国軍が居るのは明らかなのだけど。


「王女様」


「はい?」


俺が呼びかけると、リーンがきょとん、として首を傾げる。


「ブラフをかけておこうと思う。俺が羊を出し、その羊が体に潜り込み、誓約を反故にするとその体を食い尽くす、と」


「・・・そんな魔法があるの?」


リーンが驚いて尋ねる。


「ない。ただ羊を出して、宣言しておけば・・・抑止力の補助の補助くらいにはなるかな、と」


我ながら情けない。

レベルドレインでも出来れば良いのだろうけど。

そのイメージは湧かない。


「ん・・・やらないよりはマシだと思う」


リーンも頷く。


色欲増魔(デウスブースト)3回掛け・・・来い、それっぽい羊!


ぽふ。


ごく普通の、あまり怖くない羊が来てしまった。


「・・・ねえ・・・その羊なんだけど」


「なんや姉ちゃん、どないしはりました?」


羊が小首を傾げる。


「いや、待って、喋ったんだけど」


「そりゃ、羊だって喋りますがな」


羊が困ったように言う。

喋らないんじゃないか?


「というか、キミ、羊じゃないよね」


「姉ちゃん・・・喋ったからって羊じゃないなんて言わはるの、酷いわ」


羊が悲しそうに言う。


「・・・いや・・・その・・・背中のチャックと、その二本のツノ、何?」


「何って・・・羊やがな」


「えっと・・・」


そっとリーンの後ろに回り、どさまぎで前に手をまわしつつ、


「リーン落ち着いて。話が先に進まない」


「せやで、契約守らせたいんやろ?せやったら、わいら羊に任したってや。そういうの得意やねん」


言いつつ、何か勝手に文言を書き足していく羊。

なになに・・・


この誓約に違反した場合は、同士、命令した者等も含め、******のもとで一生隷属します。


うん、確かに破りたくなくなるね。

一定の効果はあるんじゃないかな。

・・・勝手に付け足して、元の誓約の効果がなくならないか心配だけど。

あと、悪筆過ぎて一部読めないって言う。


「・・・これで効果があると良いけど・・・」


羊は、にぃっと笑うと、


「じゃあ姉ちゃん、さっさと誓約の儀終わらせたってや。わいがしっかりこの契約預からせて貰うさかい」


「う・・・うん」


効果あるといいなあ・・・


盗賊達は、舐めた態度で、流れ作業で署名する。

その後は、規定に従い、王国へと帰っていった。


効果なさそうだなあ・・・

すぐ破るんだろうな。


「どうにかしたいんだけどね・・・でも、今回はみんなを助けられたから良かった!」


リーンが微笑む。


「大丈夫やで、姉ちゃん。実はわい、羊ちゃうねん」


えっ。


「・・・キミが羊じゃないのは気付いてたけど、大丈夫な要素はないかな」


「・・・実はな・・・わい・・・山羊やねん」


・・・山羊だと大丈夫なんだろうか?


「・・・あ、うん、角あるしね」


リーンが頷く。


「せやろ、せやろ。羊の皮を被った何とやら、って奴ですわ。奴等はもう来れへんよ。安心し」


山羊がニコニコ笑う。


「契約、ゆうたら山羊や。わいら、そういうの得意やねん」


何でやねん。

さっきは羊が得意だとか言ってたと思うが・・・


「あ、兄ちゃん。また契約する時は呼んだってや?書き込んどいたさかいな」


そういうと、山羊が溶けるように消えていく。

色欲増魔(デウスブースト)を使いすぎたせいか、変なのが出たなあ。

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