第一章2 幸せは永遠ではない
ーーー何分か歩いて学校についた。
1年1組28番、1番後ろが俺の席だ。
「なに考えているんですか?」
いきなりかけられた声に少し驚きながら後ろを振り返るとそこには1ヶ月前から付き合っている彼女の凛が面白がりながら立っていた。
「びっくりさせないでくれよ、凛」
「怜くんが気をつけないのがいけないんですよ!」
天音 凛 (あまね りん)は高校に入ってからできた初めての彼女で幼馴染のノアとは真逆の印象の人で長い黒髪をなびかせながら俺に笑いかけてくる。なんでこんな人が俺を好きになってくれたのかわからないが別に悪い印象でもなかったので付き合うことにした。
なんて凛の顔を見ながら考えていると、
「私の顔になんかついてますか?」
なんて慌てて聞いてくる。ところで、凛の家、つまり天音家は有名な資産家で凛もお嬢様な振る舞いが多い。
「ん?なんもついてないけど」
「良かったです!今日は怜君の家で手料理をご馳走してみたいのですが…よろしいですか?」
なんて、上目遣いで聞いてくる。かなりあざといが本人は無意識でやっているのがまたなんというか、ほっとけないというか。
「あぁ、わかったよ」
「ありがとうございます!あ、乃愛さんも誘っておいてくださいね!」
「お、おう」
ーーーー学校が終わり夜6時、テーブルには乃愛が待ちきれないような眼差しで。台所では凛が鼻歌を歌いながら夜ご飯を作っている。こんな光景をいつまでも眺めていたいと思ったその時
「できましたよー!」
そんなどこか上機嫌な凛の声と共にとても美味しそうなカレーが出てきた。
「うわぁすごーい!」
「これはうまそうだな、凛がこんな料理が上手だったなんて知らなかったぞ」
「美味しいかどうかは味を見てから言ってください!さぁどうぞ!」
いつもの凛からは想像できないほどの勧めかたで食べるよう促してくる…その時の凛の表情はいつもとは違く、どこか狂気じみた顔をしていたことにこの時は気づかなかった。
「「いただきまーす」」
俺と乃愛が声を揃えて言い一口目を口にしたとき
バタンッ
何事かと乃愛のほうをみると乃愛が床に倒れている。
ーーなにがおきているのか理解できなかった。
乃愛が倒れている。カレーが原因だと思い凛に確認しようとした瞬間自分の体に力が入らず自分も床に倒れたことがわかった。
ーー痛い…とても痛い…
眼前に見えるのは倒れている乃愛とそしてそれを面白そうにみている凛の姿だった。
「どーお?くるしーぃ?」
いつもの凛からは想像できない声を出しながら笑っている。
「な……に…を…」
もう死ぬかもしれない。怜はそう感じていた。せめて最後になにをされたのか聞きたい一心で言葉を振り絞った。
「毒をもったんだよーぉ。苦しいでしょー。」
あぁ…そうか…俺は安心しきっていたんだ。幸せはいつまでも続くわけではないことを知っていたのに。
ーーもう死ぬんだな…
怜は最後にそう思い目を閉じた。
「怜くん、私も後からいくからね…」
怜は薄れていく意識の中で最後にそう聞こえた気がした。
次の瞬間 柊 怜の命は尽きてしまった…