第6話 隼人
「…?」
如月隼人は首を傾げた。
今日は隼人の誕生日だ。
当然、速水からのメールが送られてきた。
「趣旨変えか?サク?」
キラキラデコメ、こんなのは初めてだ…。
「ん?隼人、それ誰からだ?あっ!もしかしても、もしかなくても彼女だな!うお彼女?マジ彼女!?お前にか!?よかったな!」
メールを覗き込んで、隣で同僚が喋る。今隼人は休憩中だ。
「違うよ、友達だけど…?」
ここはオーストラリア、メルボルン。
その中のとあるカフェだった。
隼人は今、ここでバリスタとして、さらなる修行をしている。
日本語を話すこの同僚は、日本育ちのパティシエだった。
「何だ男か。けどソレにしちゃ、キラキラしてるな。俺も負けてらんね!よっしゃデコメ技術磨くぜ!おおおおおーーー!!」
そう言って騒がしくデコメを打ち出した。彼は今勤務中だ。
「はは。ほどほどにね」
隼人は笑った。そして彼らしくないメールを見る。やっぱり、趣旨変えか?
メールが来たのだから、電話も通じるだろう――。
久しぶりに速水に電話する事にした。
「…サク?」
が、呼び出し音が鳴るだけで、出る気配は無かった。
■ ■ ■
「なあ、マック、お前、知ってるか」
NYのとあるスポーツメーカー、その広報担当室。
そこへ入って来た一人の白人男性が、入ってすぐの席にいた、もう一人の同僚に話かけた。
昼休みに手に入れた特ダネを、今すぐ誰かと分かち合いたいのだ。
今日は天気が良く、全面ガラスの外は青い空だ。
広い部屋が六つほどのパーテーションで区切られ、こちらのブースにいるのはこの男と、マックだけだった。
他は別の会議や用事で出払っている。
少し向こう、パーテーションから外れた窓際の席に一応上司に当たるディーンが居るが…コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
つまり、世間話にはもってこいの状況なのだ。
「何だ?アレク」
「ほら、あのスポンサード契約に来なかった、ブレイクダンサー…覚えてるか?」
「え?…ああ。確か二代目ジャックだったか?」
マックは思い出す。
「あの彼、今、業界じゃ、『引かれた』って話だぜ?」
声を潜めてアレクが言った。
「…引かれた?干されたって事か?」
マックは首を傾げた。
それに反応したのは、窓を背に座り、すっかりくつろいでいたディーンだった。
椅子から立ち上がる。
「…アレク!それ、本当か?」
「ディーン?」
いきなり立ち上がった男、ディーンにマックは首を傾げた。
ディーンは、ジャックを広告塔にと強く推薦した人物だった。
「引かれたって?どう言う事です?」
「どうって、あ、そうか。元開発じゃ知らないのか」
アレクは首を傾げたマックの様子に驚く。
アレクがマックに説明する。
「この業界のちょっとした、伝説みたいなモノなんだが…。若いダンサーとか、有望な歌手とか、いきなり消える事があるんだ。で、それを、主に引かれた、とか呼ばれたとか言うんだよ。もちろん、カラクリがあって、ちょっと地下で幅を効かせてるやつらが金に物を言わせて買い取ってるんだ―」
「どこで聞いた?」
ディーンが、アレクのブースに来て尋ねた。
「…俺、エポック社に知り合いが居るんです。昼連絡があって。あっちも今日予定してた収録をメール一本ですっぽかされたって。で、午前のうちに違約金が振り込まれたって。俺、今からちょっと調べて、本当だったら一応社長に報告します」
首をすくめ、アレクはパソコンを開いた。
「ああ、頼む」
「やつら…?」
マックが首を傾げた。ディーンがマックの肩を叩く。
「良いかマック、この業界でやつら、とか『ネットワーク』とかって言う言葉が出たら、なるべく関わるな」
「マジだったら、戻って来ますかね。でも俺、少し信じられないな…。だって日本人ですよね?アメリカ人ならともかく」
アレクは言った。
「…それだけ買われたんだろう。彼はジャックの肝入りだしな――」
マックがアレクのPCを覗き込んだ。
会員制の、動画の販売サイトのようだ。背景は黒色。シンプルだ。
「あ、…うわ、オークションに出てる!マジだった」
「――いち、じゅう、百…、げっ、何だよこの値段!ジョークか?」
そこにあったのはマックの年収を優に超えた金額だった。
「いや。ジョークじゃ無い。つなげたままの、一回再生でこれだ。…とても買えないな。しかし本当高いな」
ディーンが言って、彼ものぞき込む。
SAKU HAYAMI 2011・10・21
KRUMP
SAKU HAYAMI 2011・10・30
KRUMP
「――KRUMPで出てるのか?」
ディーンは呟いた。
「ブレイクもたまにありますね…。報告して来ます」
アレク席を立った。
「仕方無い。出て来るのを待とう…。…無理かもしれんな…」
ディーンは肩を落とした。
「若いのに、可愛そうに」
アレクもそう言った。そして彼は去って行った。
サク・ハヤミ。
伝説のブレイクダンサー『ジャック』と共に、いきなりステージに立った少年。
大会出場記録は無し。黒髪で日本人。
ディーンはあの世界大会に社を代表して行っていた。
優秀なダンサーとの契約は早い者勝ちだからだ。
あのジャックが、誰かと組んだ!?しかも、相手は十六歳?
周囲は、ディーンもその事実に面食らった。
思わず同業者同士で顔を見合わせた。
――が。
絶句するしかなっかった。そして、手がちぎれるほど拍手をし、ブラボー!!と賞賛した。こんな才能が、いままで何処に。
なぜ気がつかなかった?
ジャックとまるで相反するようで、全く同じようでもある、絶妙の組み合わせだった。
おそらく―ジャックが彼を選んだのだ。
なぜなら彼は。インタビューで。
『ジャック、よかったな』
そう、他人事のように言っていたのだから――。
「サク・ハヤミでしたよね。でも確か、あの後、ジャックが…」
アレクが出て行った後、マックが言った。
その話は聞いた事がある。もちろんディーンからだが。
「ああ…。誰もが耳を疑ったさ」
ディーンは煙草に火を付け、窓の外を眺めた。
『ジャック、死亡』
そのニュースを知って、愕然とした。おいまさかそんな、だって、ほんの先日、一週間前、優勝したんだぞ!?嘘だろ!?ディーンは関係者に連絡を取った。
分かったのは、痛々しい状況だった。
舞台上で、パートナー、ハヤミの目の前で。天井が崩落し死亡…おそらく即死。
おいなぜ、こんな事があるのだ!!とディーンは叫んだ。
舞台にいたハヤミも巻き込まれて、腕や頭に怪我をしたが――命に別状は無し。
ネットの一文に、心底ほっとした。
二人とも死んだら、もうこの業界を去るしかない。
ディーンとってはそれほどの衝撃だった。
そしてこれからどうなるのだろう、と思った。
その年、業界全体が…特にブレイク、ダンス関係は、ずっと葬式状態だった。
むしろ葬式に明け暮れていた。ジャックと親交のあったダンサー達は追悼大会を行い、アーティスト達は楽曲を捧げ、天国へ届くようにとライブを開催した。
その場で、どの会場でも皆が泣いていた。
身内びいきのジャック――。
ジャックこと、ジョン・ホーキングはそう言われた男だった。
大層面倒見の良い男で、良くして貰っていた者も多い。
彼を失った事は、ダンス業界にとって…あまりに大きすぎる損失だった。
そして、もうジャックのいない大会が近づく。
皆が発憤して、有望な若者も何人かいたが――ディーンは今年は行く気にならなかった。
そこに。
「おい。ハヤミ、ハヤミが出るって!!あの子供だ!」
大会運営をする知り合いから、連絡が入った。
「ハヤミ…?…、あっ!」
ディーンは、それまですっかり忘れていた。残された、子供。
彼は締め切りギリギリで、エントリーしたらしい。
大会開始前、だれかが尋ねたらしい。マスコミを避けたんですか?と。
「別に、練習してて」
彼はそう言ったと言われている。が定かでは無い。
彼は泣いていなかった。
そして泣かなかった。
素晴らしい踊りだった。
ディーンはダンスをしたことは無いが、自分もこんな風に踊りたい、そう思うような――。
羨望、憧れ、ファン心理。そう言う物を抱かせる、強烈すぎるインパクト。
彼はこれほど力のあるダンサーだったのか!!
ディーンは彼へのオファーを決めた。絶対取ると意気込んだ。
しかし順位は、二位。
…ディーンは彼がわざとそうしたのでは、とさえ思った。
壇上に上がる。
と思いきや、なんと、段が用意されなかった。
後で聞いたが、そんな物は無粋だと優勝者が言ったらしい。
前回――彼はジャックの後ろに控えていた。
一緒に乗れと進められたが、小さく手を振って断った。
それで、ただ嬉しそうにジャックを見ていたのだ。まるで影のように。
その彼が今、光の中に現れた。
その存在感ときたら。
めまいがした。
…優勝者がまるで気の毒だが、これはもう仕方無い。今はこの新たなダンサーの誕生を祝おう。
優勝した当人も苦笑して、それでも心底嬉しそうに彼を褒め称えている。
優勝者はジャックのライバルで、長年の友人でもあったからだ。
彼はと言えば。
MCにマイクを向けられ。会場が静まる中。
まったくいつも通り。
『俺はダンスを続けます。ジャックの代わりにはなれないけれど』
「ジャック…」
ディーンは呟いた。
そうか…彼は、ジャックだったのだ。
ジャックは、ジャックを見つけたのだ!!
会場は大歓声に包まれ、同時にジャックコールで満たされた。
そんな中、当のジャックは少々あっけにとられていた――。
アレクが副社長へ報告に行き。
ディーンは仕事をしながら、珈琲を飲んだ。
が、思考はその後の事を勝手に思い出す。
表彰式の後、皆が彼のバックヤードへ押しかけた。
しかしその時彼はもういなかった。
スタッフによると、――インタビューが終わり舞台を降りた直後、あっと言う間に仲間と去ったと言う。荷物はすでに纏めていたらしい。
そして結局彼は見つからなかった。
会場に残されたジャックの知り合い―おそらく逃げ遅れた―もしくは押しつけられた―は、どうすれば良い?と皆に問い詰められていた。
ジャックには、まだマネージャーがいないのだ。
『ハヤミ――ジャックは、シャイだから直接行くなよ。手紙にしとけ。あいつ知らない奴からのメールは無視してるから』
困ったような表情で、悲鳴のように言った。
『住所は!?』
『おいおい!家に送る気か?非公開だし、家族とは交流無いって言ってたから…。ライブハウス宛てなら――彼のファンはそうしてる。あと贈り物はノー』
彼に、自社の商品を身に付けて貰いたい。
その一心で、ディーンは彼に手紙を書いた。
―内容は、ほとんどファンレターだった。
が、自分の行動は少々軽率だったかも知れない。
返事を待つ内に、そう思うようになっていた。
彼は手紙を読んでいるのだろうか―。
そして数ヶ月後。社宛ての郵便物に混じり、返事が来た。
代筆?――綺麗な筆記体だった。
『手紙、読ませて頂きました。自分なりに色々考えた結果、貴方の会社と契約を結びたいと思います。けれど専属では無く、私は他にエポック社と、オールドバランス社とも契約します。活動の制限は一切受けつけません。それで良ろしければ、こちらにご連絡下さい。サク・ハヤミ』
手紙にはおそらく私的な、フリーメールアドレスが書かれていた。
そうして連絡を取り合い―。
彼の英語は完璧だった。知り合いが訳しているのかと思ったが…。レスポンスの速さからそれは無いと感じた。確かに、大会でも彼は英語を話していた。
社長達を説得し、プロジェクトを立ち上げ。
8月19日。
しかし、彼は来なかった。
何よりディーンが信じられなかった。
その日の朝、たった一文。
『急な予定が入りました。しばらく延期にしていただけませんか』
それ以後、連絡が途絶えた。
オールドバランス社は、確かフランスだったが、そちらはどうなのだろう?
けれど社外秘だろう――。
「あ、言ってきました。社長、なんか…噂は知ってたみたいですね。オールドバランス社に問い合わせたって言ってました。向こうさんも、すっぽかされたらしいです。で、違約金だけが…。もうこれはそうに違いないって。…全く、酷い話ですよね」
アレクは溜息を付いた。
この業界ではネットワークの悪行は有名だった。
良いダンサーは、彼等が根こそぎ攫って――、買ってしまうのだ。
…その手口は犯罪まがいらしい。
そして、金持ちの見世物にする為に、地下に落とす。
警察も相手が大きすぎ、下手に手が出せないらしい…。
ディーンはやりきれない思いだった。
「ああ…考えてみれば、先代ジャックも一時、下にいたって噂があった…。となると彼はもともと、目を付けられてたんだろうな。クソッ…」
ショウビズ全般は、ネットワークが仕切っていると言っても良い。
巷で見かける、売れに売れているダンサーや歌手。ミュージシャン。
そのほとんどが、ネットワーク出身だ。
消えたダンサーで、再び日の当たる場所に戻って来た者は、少ない。
先代ジャックは…希な例外だったのだろうか?
皆…死んだ訳では無いようだが、買われて、そして出て来た誰もが『もうやめる』と言うらしい。
そして具体的に何が行われていたのか、言わないのだ。
――言えないのかも知れない。
「戻って来ますかね、彼」
ぽつりと…アレクが言った。
「俺は、何と言うか―、彼が今の世界を変えてくれる、そう思ったんだが…」
ディーンはこの業界に、世界に。閉塞感を感じていた。
「は?」
ディーンのつぶやきに、アレクとマックも首を傾げた。
ディーンは珈琲の二杯目を注ぐ。
「ショウビズの世界を、在るべき姿に――。笑ってくれ、今じゃただのファンなのさ」
彼に送った手紙を思い出す。
はっきり言って、ファンレターだった。
そこにこう書いたのだ。
『出来れば貴方に、我が社のウェアを是非身に付けてもらいたい!きっと気に入って貰えると思う!』
会社の事を思い出したのは、最後の一文だったが、それが良かったのだろうか?
ジャックから了解の返事が来た、と言ったら知り合いは驚いていた。
もっと大きい所が幾つもオファーを送り、そして全て断られた…。
「信じて待とう、彼が出て来るのを――」
■ ■ ■
その年の暮れ、一枚のCDが発売された。
そのPVには日本人のダンサーが起用され話題を呼んだ。
もちろん隼人も、そのPVを見た。
が、本人とは連絡が取れない。
サク、お前、どこにいるんだ…?
「ええ、友人と連絡が取れないんです。もう三ヶ月ほど…」
隼人は一時帰国し、速水のアパートを訪ねた。
大家に頼み、中を見せて貰った。
まさか中で倒れたり、自殺しているなんて事…。
しかし、そこにあったのはだれもいない部屋。
そのことにホッとした。
だが、手紙の整理がやりかけだった。
彼はこうした事には几帳面で、手紙もきちんと読んで箱にしまっていた。
これではそのうち置く場所が無くなる…と頭を悩ませていたが。それでも捨てる気は無い様子だった。
隼人は思い出す。
サクはあの時、最後の電話で、何と言っていた?
たしか『明後日に出発するけど、それまでに片付くかな』そう言っていた。
ならこの残り具合はおかしい…が、携帯やスーツケース、パスポートなどは無い。
「…良かったです、ありがとうございます。あの、家賃は払われてますか?」
そして大家にひとまず礼を言い、そして聞いた。
「ええ。引き落としで、滞ったことは無いですよ。更新は再来年ですし。…けど見つからないようなら警察に届けてみては?」
大家は言った。
「…ええ、そうします」
その後、隼人は速水の知人達に片っ端から連絡をした。
『え?いやごめん知らない。でもPVは見たよ。元気でやってるんじゃ無いか?』
『そういえば、会ってないけど…海外じゃないかな?PVかなり良かったし、急に忙しくなったんじゃ?』
元々隼人は、速水のダンス関係の知人をあまり知らなかった。
…つい先日CDは発売され、売り上げも好調。
疑えと言う方が無理な状況だ。
だが、何かがおかしいのだ。
隼人は速水のアパートの近くの喫茶店で考えた。
ここは速水と良く利用していた。
こうなったら、足取りを追うか…。そう考えていると。
その時。携帯が鳴った。
『着信 速水朔』
…!!
隼人はすぐに出た。
「サク!」
『隼人?良かった』
「サク、今どこにいるんだ?心配したぞ!」
『悪い!携帯壊したんだ、この前』
速水はそう言った。
「…無事なら良い、よかった。ああ、PV見たよ。凄く格好良かった」
ホッとして隼人はそう言った。
『PV?…ああ、あれか』
「で、今どこだい?やっぱり居場所くらい連絡欲しいな。…何かあったら困るしね」
隼人は忘れずに聞いた。
どうやら周囲に人がいるようだ。それに移動している?
『…えっと、…ちょっと待て』
暫く間があった。
『今NYだけど、明日にはヨーロッパに行く。スイスと、その後デンマークとか。…そう言うお前はそこどこだよ?』
「へえ。忙しいね。僕は今日本に帰ってきたところだ。君が心配で一時帰国。変なメールだった」
『…ああ。あれか。ちょっと知り合いがイタズラして…』
電話の向こうで、速水は苦笑しているようだ。
「趣旨替えじゃ無くて良かったよ」
隼人はホッと笑った。
『一時、…じゃあ、また修業先に戻るのか?』
「うん、あ、そうだ向こうで面白いパティシエと知り合ったよ。また紹介したいけど、彼もせわしないから…」
『ふぅん。隼人に面白いって言われたら終わりだよな…。あ、ゴメンそろそろステージ行かないと』
速水は笑った。そして言った。
「あれ、今から?」
そう言えば喧噪が大きくなって来た。どうやらバックヤードを移動していたようだ。
『一応。悪い、またメールとか連絡する。携帯って壊れやすいよな。あと電話は、国際ローミングでも通話料高いからやめろ。…たまにメールも送れないし、上手く届かないんだ。WEBメールとか、アドレス知ってるだろ?そっちに送ってくれ』
「ああ、その手があったか。分かった。じゃあ、また待ってるよ。体に気を付けて。…カラスが鳴いたら帰っておいで」
『…ああ。隼人も元気そうで良かった。じゃあ、またな──』
そうして電話は切れた。
隼人は、心底ホッとした。
今からステージで、次はヨーロッパか。彼も忙しいんだな。
またWEBメールを送ろう…。
■ ■ ■
速水朔は、電話を切った。
そしてそれを、ガスマスクの男に渡す。
「…」
隼人の声が聞けて良かった。
心配してくれる人が居て良かった。
ゴメン、隼人、まだ当分帰れそうに無い──。
「どうだった」
レオンが聞いた。
「ああ。元気そうだったよ。…エリック、今度パソコン用意してくれ。ごまかせたと思うけど、隼人はあれで結構鋭いから──」
速水はエリックに言った。
ノアが周囲のざわつきに耳を澄ます。
ヤジ、下品なスラングの嵐だった。
「チッ…俺、ここのギャラリーって嫌いだ。あいつら、暇すぎ」
ノアの声に、ありありと侮蔑が籠もっている。
「そうね。同意見」
ベスも嘆息気味にそう言った。
速水は隼人に連絡できて、久しぶりに気分が高揚していた。
「よし、行くぞ。今日も勝ってさっさと出る!」
レオンがおなじみのかけ声を懸け。
四人はバックヤードから、暗いステージへと飛び出した。
〈おわり〉