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第14羽 MD ⑥ラストステージ(前編)おまけ ターヘレフ

五月十日、トルコ共和国。

イアンの妹、ターヘレフは自室のソファーに座り、テーブルに広げた雑誌を読んでいた。


ターヘレフは絶世の美女だった。

年の頃は十七、八。褐色の肌に、ゆるやかなウェーブのかかった長い黒髪に、エメラルドグリーンの双眸。これ以上ないほど整った顔立ち。緩やかな服の上からもわかる、非の打ち所のないプロポーション。


「……」

彼女は眉間に皺を寄せ、若干、不機嫌そうだ。

彼女は今、ある記事を読んでいるのだが……そこに一番あって欲しい名前がない。

『彼』がアンダーを出てから、全くと言って良いほど情報が無い。

敬愛する兄、ムスタファの通り名――イアン、がないのも残念だ。


天井の低い部屋――それでも十分高い――白い柱に、赤色の絨毯。

年代物のソファーに沢山のクッション、天蓋付きのベッドがあり、部屋の戸は開け放たれている。


彼女とその家族、少数の使用人は、現在、サロンのエンペラー、ニーク氏の計らいでこの狭い屋敷にいる。

父の意向もありターヘレフは滅多に外には出ないが、以前いた国に比べれば、ここの規則はあってないようなものだ。


足音が聞こえ、ターヘレフは顔を上げた。

「ターフ?ターフ!」

いきなり部屋に入ってきた母親が愛称を呼んだ。


「お母さん?何か用?そんなに急いで……」

「ターフ、お客様が来てるの!それが、あの貴方が好きなダンサーの、レオナルドさんって方なのよ!!信じられない!ムスタファが連れて来たのよ!!ムスタファが帰って来たの!!」

母親は頰を紅潮させて言った。

「――えっ?本当!!?」

いきなりの事にターヘレフは驚き、戸惑った。

「本当よ!今お父様と居間で話してるわ。のぞきに行きましょうよ!」

母娘は連れ立ち、居間へと向かった。

と言っても、彼女達は隣室の四角い穴から覗くだけで、直接会話に参加するわけでは無い。

使用人達や親類の息女達がきゃあきゃあと声を抑えて覗き穴をのぞいている。


順番を待つ間、ターヘレフは突然の邂逅に心躍らせた。


親類の女性と入れ替わり、彼女は覗き穴の向こうを見た。


憧れのダンサーがそこにいた。

――レオンさんだ!本当に、本当に?――


ちょうどその時、兄と話していたレオンが顔を上げた。

ふと、目が合った気がして、心臓が跳ねた。

レオンはすぐに兄に向き直ったが、ターヘレフはひたすらレオンを見つめていた。


父が内線を取り、こちらの内線が鳴り、母が出た。

「はい?あなた?」

『ターフは隣にいるか?他は外してくれ。お前もだ。ムスタファが行く』

「はい」


「ムスタファはターフに用があるみたい。……どうしたのかしら?」

内容を伝え、母が言った。

「さあ……とりあえず、皆さんに外して貰ったら?」

ターヘレフは母に言った。

「そうね。皆、ターフ、また後で話しましょう」


一人になりターヘレフは身構えた。用件がわかる気がしたのだ。


■ ■ ■


レオンは広間の内装を見て呆れていた。

イアンの感覚では寂れた貧乏生活らしいが――確かに石油王にしてみればこの邸宅は狭いのだろうが――それでも十分過ぎるほど広い。

刺繍の入ったカーテン。所々にソファーやラグ、モザイクの大きい花瓶がある。いかにもトルコ、といった感じだ。

レオンの感覚では豪邸の部類に入る。この家は元は誰かの別荘だったらしい。


……レオンはため息をついた。どうしてこうなったのかというと。


数日前、レオンはイアンに、アンダーで速水がしたとされる『治療』の内容を詳しく尋ねた。

サロンのエンペラー、ニーク氏の死亡が確認された今、イアンの身分は宙ぶらりんで、こちらの協力者という感じになっている。

それでいいのか?と思ったが、イアンが言うには、自分はニーク氏のサロンに所属していて、サロンはなくなった。再建される気配もない。されたとしてもニーク氏以外に従う気はない。

ネットワークにも支払いはした。契約内容にはこれからも従うが、俺がどこにいて何を話していようと全く関係ない、とのことだ。

イアンは『あまり内実を話したら消されるかもしれないが』とつぶやいた。


その上でイアンはレオンに、俺は以前話した以上のことを知らない、おそらく速水はもっと何も知らないだろう、と話した。

『妹のことがあったからな。俺はサロンの中でもプロジェクトに詳しい方だ』

イアンの言葉にレオンは頷いた。

『イアン。彼女は治療の内容を覚えてるんじゃないか?』

レオンが言うと、イアンは表情を曇らせた。


イアン曰く、ベッドから起き上がったターヘレフが「覚えているけど、兄さんはきっと信じないでしょう。とにかく、治ったのよ」と笑顔で言って、イアンは感涙して、それきりだったらしい。

ターヘレフの回復はかなり早く、今は退院して家族と元気に過ごしている。


イアンも疑問は感じていた、と言った。


『やはり気になるな。……俺と母さんは、危ない方法じゃない、奇跡だったんだ、と信じて喜んでいたが……。父さんは何か知っているかもしれないが……それも、俺と同じ程度だろうし。――』

そこでどういう作用が起きたのか、イアンが顔を上げて、レオンを見た。


『そうだ。じゃあ、俺の家に来るか?君がいればターフも喜ぶ』


『は?』

そうして、レオンはこの国に来た。

……絶縁していた父と息子が会うダシにされた格好だ。


「――レオン。今、妹も見てるはずだ。あ、あれだ」

イアンが言った。レオンは見たが、窓はとても小さいし、皆が頭に布を巻いていてよく分からない。かろうじてエメラルド色の目が見える。あれがそうだろうか?

「直接彼女とは話せないんだよな?」

レオンは言った。


「ああ。――父さん、すまないけど。母さんと使用人達に外すように言って貰えないか。俺とレオンさんはターフに用があるんだ」

イアンが英語で言ってその後、母国語で自分の父親に話しかけた。

レオンには言葉が解らなかったが、なんとなく内容は察せられた。人払いだろう。


「この方が用?娘に?」

イアンの父親が怪訝そうな顔をした。

イアンの父は褐色の肌にターバン、クーフィーヤ、髭、という一般的なアラブスタイルだ。体型はややがっしりしている。


「レオンさんには実は難病の兄がいて、その件で尋ねたい事があるそうだ」

イアンが何か言うと、父親は表情を変えた。

レオンには、どちらかと言えば態度が堅くなったように見えた。


「――彼も会員なのか?」

イアンの父が言った。

「ああ。アンダーから出たとき、加入したんだそうだ。彼がサク・ハヤミのチームメイトだったのは父さんも知ってるか?」


「そうだったな。……それよりお前はそろそろ反省して帰る気になったのか?」

父の言葉にイアンは首をかしげた。

「いや……俺が一生をかけてネットワークに恩を返す、それはもう決まったことだ。そういう条件だっただろう」

「……」

父親は、ふう、と唸った。

「だが、だからと言って。……お前、お祈りはきちんとやっているのか?」

「……」

イアンは黙り込んだ。


レオンはとりあえず黙っていた。会話は分からないし、イアンの事情に口をはさむ理由も無い。

飛行機の中で聞いたが、イアンの父はどうやらイアンの趣旨替え、つまり改宗を認めていないらしい。

イアンはその件でもめるかもしれない、と言っていた。早速もめるのだろう。


「さぼっているのか?」「――ちがう、そうじゃない」

父親が何か言ってイアンが否定した。

「――しかしお前は現に、そんな格好で」

「いや、だから、俺が聞いているのは……」

「せめて家を継ぐ事は――」

「いや、だからそれも……――そもそも、今は本当に何も無いんだ。それより今は」

「それは駄目だ。確かに財産は没収されたが、金はお前とターフがいれば何とでもなる」

「それは確かにそうだが、いいや、そうじゃない」


……内容は分からないが、イアンと父親の会話はかみ合っていない気がする。

レオンは、これはそろそろ喧嘩になるぞ、と思ったら案の条。

「何を言う。そもそもダンスなど===のやる事だ」

イアンの父がイアンの勘に障る事を言ったらしい。

イアンがさっと表情を変えた。


「おい。用件を忘れるな。俺が話すから通訳してくれ」

さすがにレオンは間に入った。

「……ああ。父さん、もうレオンと話してくれ。通訳する」


そうしてレオンが平和的に交渉した結果、イアンが別室のターヘレフとしっかり話すという事になった。

イアンの後ろ姿を見ながらレオンは、初めからそうしてくれと思った。


■ ■ ■


イアンが部屋に入ると、ターヘレフが駆け寄ってきた。

「ターフ!久しぶりだな」

「ああ兄さん、お帰りなさい!本当にレオンさんを連れて来たのね!ああ、嬉しい!!夢みたい!」

ターヘレフは飛び跳ねながら喜んでいる。レオンと知り合ったという事はもちろん手紙で伝えていた。


「どのくらい居られるの?どのくらい居てくれるの?」

「悪いが、またすぐ戻らなきゃいけないんだ。夜には発つ予定だ」

「そうなの……?!でも、まさかレオナルドさんに会えるなんて!お母さんもすごく喜んでたのよ、後でサイン書いてもらっていい!?友達の分もいいかしら!?」

「ああ。もちろんだ。レオンも光栄に思うだろう」

イアンは言った。

「本当に嬉しいわ。兄さん、大好き!」

ターヘレフは感激して涙ぐんでいる。

「ところでターフ。聞きたい事があるんだ」

「……?」

イアンはターヘレフに地下での治療に関して尋ねた。


「あ……その事ね。やっぱり私の勘違いだと思うの。あの時は混乱していたし、急に具合が良くなって、びっくりしていたの。わざわざ来て貰ったのに、ごめんなさい……。ただの勘違いなの」

「――」

イアンはあやまる妹を見た。ターヘレフは妹ながら、相変わらず美しかった。

そして考えた。


ターヘレフはこう言っているが、どうも何か隠しているように思える。

実際、病気が治った直後、イアンが尋ねた時は、詳細は言えないから言わない、兄であるイアンには少し打ち明けた、というような態度を取っていたのだ。

両親には安全な治療だったと言ったくらいで、さらに何も話していないようだし。


「サク・ハヤミに会ったのは覚えているか?」

イアンは質問を変えてみた。

「……ハヤミ?ああ、ジャック。ザ・セカンドの事?――いいえ?会ってない……いえ、もしかしたら会ったのかもしれないけど、その時私は寝ていたと思うの」

ターヘレフは思い出すような仕草をした。心当たりがないらしい。

あるいはシラを切るつもりなのか。

「……そうか」

イアンはらちが空かないと思い、溜息を付いた。


「でも、やっぱり私の思い違いだと思うの。だって私が元気になるなんて、本当に、奇跡が起きたとしか考えられないから……」

「ターフ。だから。その思い違いを聞きたい」

「でももうほとんど覚えて無いの。これは本当よ」

ターヘレフはまっすぐにイアンを見た。


「……わかった。言う気は無いんだな?」

「ええ。だって……私が言ってもしょうがないもの」

ターヘレフはうつむいた。


「そんな事言うな。お前はもう元気になったんだから、何でもできる。現にこうしてレオンにも会えたじゃないか?友達もできたんだろう?」

イアンが言うとターヘレフは顔を上げた。


「ええ。そうね……。ありがとう、兄さん」

ターヘレフは微笑んだ。


■ ■ ■


「で、結局、聞けなかったのか?」「すまない」

レオンは呆れて言ったが、イアンは悪びれない。むしろ妹に会えて嬉しそうだ。

相変わらず仏頂面だが、先ほどまでの険しさが抜けている。


「ターヘレフはやはり何か隠しているかもしれないが……言う気がないというのはわかった。彼女は頑固なところがあるから、話す事は無いだろうな」

「ああ、ならもういい」

レオンは軽く手を振って言った。

正直言って、イアンの父親と二人で気まずかったのだ。

レオンの周囲にはやたら出された菓子や料理等が並んでいる。イアンが戻って来て、彼の父もホッとした様子だ。


「それでレオン。ここを出る前に妹と母、使用人、それと妹の友人用にサインを頼む。今、紙を用意させてる」

「サインか?わかった。しかし直接会えないってのは不便だな。この国ならその辺りは多少緩いんじゃないか?壁越しでもいいから、できれば話したいんだが」

レオンは一応、会わせてくれと言ってみた。


「いや、ターヘレフは今、見合い中だからな。話がまとまりそうなんだ」

言われてレオンは納得した。

「ああ。なるほど……それなら仕方無いな。そう言えば、妹さんは今いくつだ?」

レオンは尋ねた。

「ターヘレフは十七だ。病気の事があったせいで俺も本人も家族も諦めていたんだが。父も母も張り切っている」

レオンとしては色紙が届くまでの世間話のつもりだったのが、イアンが急にペラペラと話し始めた。


「俺の母はアラブで一番と言われた美女で、その娘であるターフは引く手数多だったからな。病気を理由に断っていたが……病気が治った今、俺も彼女には幸せになって欲しいと思っている。ターフは体調も良さそうだし、本当にハヤミには感謝している。――そうだ父さん、相手はどんな奴だ?今日はそれを見に来たんだ。家柄は良いのか?顔は?頭は?資産はいくらある?性格は?いいや顔が良くても生半可な相手じゃ認められない。ターヘレフは最高の相手と結婚するべきだ」


イアンが言えば、無口だった父親も身を乗り出し猛然としゃべり出した。

「ああ、今度は間違い無い。いいか今度の相手は本当に間違い無い!良く聞けなんと――」

こちらは主に相手の話だ。

イアンは感嘆し、さらに詳細を聞いた。


「そうだ、写真はあるのか?」

イアンのこの一言で当然写真が出て来る。父がさらに自慢する。イアンのついでにレオンも見る。イアンは決まりそうだった相手に眉を潜めた。


一時間半後。

レオンはイアン親子に二度と妹の話を振るまい、と思った。

――結局レオンは、滞在を伸ばし、見合い相手の確認まで付き合う羽目になった。


翌日。

見合い相手はアメリカ人のレオンから見ても、やたら美形なアラブ男性だった。

「お待たせして申し訳ない。ムスタファさんと、レオナルドさんもいらっしゃると伺い飛んできました――お会いできて光栄です」

声までイケメンだ。

体格はスマートで、白いアラブ服を華麗に着こなしている。

背も高くモデルだと言っても違和感がない。


当然、家柄も良し。資産はありすぎるし、性格もよさそうだ。家族関係交友関係、人づきあいも頭も問題なし。しかも初婚で若く、急な呼び出しにも嫌な顔せずに本当に飛んで来る、など特に問題も無さそうだったが、何が気に入らないのか、面会の後、イアンはダメだと言い、いちゃもんを付け始めた。

どうみても話を潰す気満々だったので、レオンは冷静な意見を述べておいた。

『いやお前が言うほど悪くないと思うぞ』とかそのくらいだが。


「……いや、しかし。念の為、こちらの人物も確認したい……」

イアンが懐から写真を取り出した。その後は別荘、高級ホテルの巡り歩きだ。


結局、会ったのは三名。イアンの本名と、レオンの名前を出せば皆が最優先で面会に応じた。

「……いや、ルックスはこちらだが。資産が……」

見合い相手達に会った後も、イアンはぶつぶつ呟きながらひたすら迷っている。

どうやらイアンは、自分が誰が良いかを決め、それをターヘレフに伝え。ターヘレフから父母に言わせるつもりらしい。

しかも、ターヘレフもそれが良いと言ったようだ。シスコン、ブラコンもここまでくると笑えない。


「だが、しかし……」

行って戻ってきて、トルコの適当な茶店。イアンは写真を眺め唸っている。

「お前な、そんなに迷うなら、もう本人に選ばせろよ……。その写真を見せて、お前が見たままを話せばいい」

レオンが言うと、イアンは目を丸くした。


「どいつもルックスも条件も性格も良いし、金もある。彼女は誰を選んでも幸せになれる。お前は迷って決められない。じゃあ後はそれだけだ。が……もしお前もまだ早いと思ってるなら、今はやめとけ」


今まで黙っていたが、これでは永久に帰れない。

レオンは彼女はまだ若いし、先延ばしにするのはどうかと言ってみた。

イアンの様子を見ていると、彼はあら探しに躍起になっているような気がする。

ターヘレフには縁談に口を挟む権利はないようだが、兄の事は信じていて一任している。

しかし肝心のイアン自身がまだ乗り気じゃない、相手を見てまず溜息を付く。

……それで選べる訳もない。

イアンの点が辛い理由は、もしかしたら、ターヘレフにその気がなさそうだから……なのではないか?


――性格にもよるだろうが、病床からの奇跡の回復、その後はまず結婚よりも家族と過ごして、今までできなかった分、沢山遊びたいと思うのではないか?

噂だけでこれだけ縁談があるのだ。少し遅らせたところで、イアンの妹なら相手に不自由しないだろう――


そう説明して、レオンは続けた。

「彼女が今すぐ結婚したいっていうなら話は別だが……お前はどう聞いてるんだ?」


レオンが言うと、イアンは目を丸くした。

「なんだ?」

レオンは眉をひそめた。イアンは仏頂面に戻っていた。

「……いや。とても的確な意見だが、君はどうしてそんなにターフに詳しいんだ?」

イアンが言ったので、レオンは机に突っ伏した。

「あー、キティ……俺の従姉妹がそういう感じだったんだよ。恋愛とか、服装とか、興味が無いときは周りがいくら言っても無駄だ。彼女に聞いてみろ。いい加減帰るぞ」

やけくそのレオンは適当な事を言って、帰国する旨を告げた。


その後、イアンとレオンは屋敷に戻り、イアンがターヘレフの意見を聞いた。

ターヘレフは「本当は、今はもう少し遊びたいし……旅行もしたいの」と答えたらしい。レオンはそら見たことかと頭を押さえた。

そこで本当にタイムリミット。レオンとイアンはようやく帰る事になった。


飛行機の中で、イアンはとりあえず自分抜きで家族旅行に行って、しばらく家族団らん、ということになるだろうと語った。

「ターフは以前から、元気になったら海外旅行がしたいと言っていた。トルコにいる間に行くのがいいだろう。父は早く戻りたがっているが、暫くターフの好きなようにはさせるだろう。何せ一人娘だからな」

「ああよかったな」

レオンは限りなく適当な相槌を打った。


「……君は意外に付き合いが良いんだな。ノアやハヤミが頼りにするわけだ」

イアンの中でレオンの評価が少し上がったらしい。いや、これは遠回しな礼かもしれない。

それを聞いたレオンは疲れがどっと出た。


やたら疲れたものの、この小旅行はレオンにとって良い気分転換になった。

これと言った収穫もなく時間を無駄にした気もするが、現状では焦っても仕方無い。

とりあえずイアンの家庭の事情には詳しくなったし、アラビア半島の歴史も学べた。そういう事にしておこう。


(そんな場合じゃないんだがな……)

レオンは飛行機の中で苦笑いして、その後、爆睡した。


〈おわり〉

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