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告白

「⋯⋯⋯は?」



 宗也の口から阿呆けたの声が漏れる。



「だから、あなたは他人を好きになったことあるかって聞いているのよ」



 少女は宗也に近づきなから質問を繰り返す。



「何で俺がそんな事を答えなければならないんだ?」


「さぁ? どうしてでしょうね? でも、私はあなたの事を知りたいの」


「⋯⋯⋯何故?」


「私はあなたが好きだからよ」


「⋯⋯⋯」



 あっさりと「好き」という言葉を発する少女。宗也は少女が何の前はぶれもなく、かつ当たり前の様に言われたことに呆気に取られてしまった。



「何で俺を選ぶんだ? 俺が言うのも難だが俺は他人と関わろうとしない。むしろ避けている。というか俺は他人が大嫌いだ。しかもあんたは俺が他人嫌いなのを知っているんだろ? なら、何故俺にその言葉を言う? 他にも良い奴がたくさんいるだろう?」


「⋯⋯⋯あなた、本当に他人の事が嫌いなの?」


「⋯⋯⋯どういう事だ?」


「はぁ。あなた、何人の人を助けておいてそんな事言うの?」


「あ?」


「あなたは覚えてないでしょうけど、私は昔、あなたに助けられたのよ?」



 宗也はそう言われて昔の事を思い出そうとして頭を捻る。が、まったくと言って良いほど何も思い出せない。


 さらに言うと、宗也は少女の顔に覚えがない。⋯⋯⋯そもそも他人の顔を覚えるのが面倒ということもあるのだが⋯⋯⋯



「覚えていないならそれで良いわ。でも、私はあなたが好きな事は変わらないから」


「⋯⋯あっそ、物好きなやつがいたもんだ⋯⋯⋯」


「そう、私はあなたの言う物好きよ。いや、物好きというよりは『あなた好き』というべきかしら?ふふ、特別な感じがあっていいわね」


「はぁ?」


「まぁ、ともかく、さっきも言ったけどあなたは他人を助けている。気紛れや偶然かもしれないけどね」


「⋯⋯⋯何が言いたい?」


「あなたは自分は他人嫌いだと言いながらも、本当はお人好しなのよ」


「⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯」



 シン、とした空気が二人の間に流れる。だがその空気は掻き消される。



「く、くく、あははははは」


「?」



宗也が抑えきれない笑いの衝動を解き放ち、笑う。それを少女は訝しげに見ている。



「あはは、俺がお人好し? あは、有り得ねぇ。あんた、面白いことを言うな」



 宗也は笑いながら少女の言葉を否定する。



「いいえ、あなたはお人好しよ」


「ハッ、何で他人嫌いな俺がお人好しなんだよ」


「じゃあ、証明してあげる?」


「?」



 少女はそう言うと、スタスタと屋上の端に歩き出す。それに宗也も追従するように付いていく。


 宗也は少女に付いていきながら、嫌な予感を感じ取っていた。


 この屋上。普段は立ち入り禁止ということもあり、ろくな整備がされていない。所々の落下を防ぐ柵は工事現場にありそうな、人の手で動かせる大きい鉄柵がある。


 少女はちょうど柵と柵の隙間に小柄な体を入り込ませ、屋上の端に立つ。


 そこで宗也の嫌な予感が的中する。



「じゃ、証明するからね」



 少女は一歩、また一歩。屋上の端に歩み出る。


 宗也は少女がしようとしている事を察し、駆け出す。



 しかし、宗也は間に合わない。



「それじゃあ、ちゃんと助けなさいよね」



 少女は自然に、そう、自然に屋上から⋯⋯⋯飛び降りた。


 宗也は脚に力を入れ、叫びながらさらに加速する。



「クッソガァァァ!!」




――カコン⋯⋯⋯



 屋上から地上に片方の靴だけが落ちてきた。



 靴が一度、二度バウンドし静止する。それ以降地上には何の変化もなかった。



「テメェ⋯⋯⋯」


「ほら、助けた」


「助ける以外あるかよ」



 宗也は間に合った。片手で少女の手首を強く掴み、もう片方の手で屋上の出っ張りを使い、身を乗り出した体を支えている。


 それから、宗也は全身の筋肉を総動員して少女を引き上げた。元々宗也は運動が得意である。その上ある程度は鍛えているため肉体は筋肉質である。そのため、小柄な少女を引き上げるのは不可ではなかった。


 それでも人一人をたった一人で引き上げるのは辛かったらしく肩で息をしたりしながら仰向けで大の字に倒れた。



「ハァハァハァ⋯⋯⋯お前、自分の命は惜しくないのかよ?」


「⋯⋯⋯じゃあ、あなたは自分の命が大事なの?」


「は?」


「言葉の通りよ。あなたは自分が大事?」


「当たり前だろ。いくら俺が他人が嫌いだとしてもそんな簡単には死にたくはない。まだ読んで無い本もあるからな」


「そう⋯⋯⋯なら、私は私自身が嫌いよ」


「⋯⋯⋯だから惜しくない⋯⋯⋯と?」


「そう、私は自分が嫌いよ。あら? まるであなたと反対ね」


「ケッ、言ってろ」



 宗也はぶっきらぼうに話を区切った。


 そろそろ昼休みの時間の終りも近い事もあり、何事も無かったかのようにスクッと立上がり、宗也はスタスタと校内に戻ろうとする。


 そこでふと何かを思い出したらしく、足を止める。



「そういや、あんた名前は?」



 ポケットに手を突っこみながらターンする様に振り返った。


 そんな宗也のお茶目な行動を見て少女はクスッと笑った。



「⋯⋯⋯なんだよ?」


「ん、いや、あなたもそんな事するんだなって思ってね」



 宗也は目を細め、さも不機嫌ですと少女にジト目を向ける。少女はそんな宗也の些細な表情にもほんわかとする。


 そして、そんなほんわかとした表情が妖艶が混じったものに変わる。小柄な体形からは想像出来ないものであったので、宗也も面食らってしまった。



「私の名前は美舟雪よ」


「さいすか」


「さっきも言ったけど、私はあなたが好きよ。今はあなたに私の事を好きにさせられないけど、まず、私はあなたに私だけを意識させてあげる」


「⋯⋯⋯俺はあんたが嫌いだ」


「あら? もう私だけを意識したわよ?」


「⋯⋯⋯チッ」



 宗也はこれ以上少女、美舟雪と話すと墓穴を掘ることしか出来ないと察し校内に戻っていく。


 そして階段を降りる途中呟いた。



だから(・・・)他人は嫌いだ」



 右手で左肩を擦りながら⋯⋯⋯



/



「⋯⋯⋯ふう」



 屋上に一人残された少女、美舟雪は息を一つ着いた。



相変わらず(・・・・・)だったわね、宗也君は⋯⋯⋯」



 雪は昔の事を思い出しなが目を瞑る。



「さて、私も戻りますか」



 そう言うと雪も校内に戻ろうと動き出す。


 制服の袖口の僅かな隙間からほんの少し見える包帯をちらつかせながら⋯⋯⋯

 


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