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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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七話:依頼の内容


 七月一三日午後一九時〇〇分。



 「あ~疲れた~。帰りだけで一日ぶんの体力使ったんじゃねぇのか?ただいま~」

 「なんだぁ、部活入ってねぇクセに随分遅かったじゃねぇか」


 自宅の廊下を歩きながら何か冷たい飲み物でも飲もうか、などと考えていた総護がリビングのドアを開けると目の前には数日は戻らないと書き置きを残していた甚平姿の厳十郎が椅子に座りテレビを眺めていた。


 「どこが何日か戻らねぇんだよ、日帰りじゃねぇか。今回の依頼は余裕だったみてぇだな」

 「まぁな、今回は砂漠に出現した馬鹿でけぇサソリを街に被害が出る前に何とかしてくれってな内容だったんだがよな。でけぇくせに真正面からの一振りでくたばっちまってよぉ、なんとも斬りがいのねぇ相手だったわ」


 今回は砂漠に出現した巨大な蠍の討伐依頼だったらしい。


 「……ちなみにどんぐらいデカかったんだ?」

 「大きさはざっと一〇〇メートルぐれぇだったなぁ。あ~、あと兵器も魔術も効きが悪かったらしいぞ?」

 「なんでぶった斬った本人が疑問系なんだよ。クソ巨大かつ物理・魔力耐性持ち。……どう考えても国家レベルの危機じゃねぇか。どんな大怪獣だよ」


 総護が想像していたよりも巨大な蠍が出現した場所は幸いにも何もない砂漠地帯だったが、このままでは街や人に被害が出ると予想されたため討伐命令が下されたらしい。


 「今回軍隊は役に立たなかったらしくてなぁ。【砂王(さおう)】、【白拳(はくけん)】なんかが出張ったみてぇなんだがダメだったらしくてよぉ。二人がかりで殺せねぇって分った時点で増援の為の時間稼ぎに切り替えたみてぇなんだよ」

 「あの砂ジジイと返り血イケメン野郎がいて殺せねぇとか想像できねぇ~。あ~、相性(・・)の問題とかか?」


 今回厳十郎が現場に到着するまで巨大蠍と激戦を繰り広げていた二人と総護は面識があった。


 ―――【砂王(さおう)】。砂の魔人、砂漠の化身、砂塵帝など数々の二つ名を持つ世界最強クラスの大魔法使い。


 ―――【血染(ちぞ)めの白拳(はくけん)】、通称【白拳(はくけん)】。実力は人の域から半歩か一歩踏み出ていると厳十郎が評価する程の若きシラットの使いの傭兵。


 前者は魔人、後者は人外と呼ぶに相応しいほどの実力者で、そんな二人が揃って討伐を諦める姿が以前模擬戦(殺し合い)をしたことがある総護は想像ができなかった。


 「相性の問題よりも相手が悪かったな、ありゃ人間より数段格上のナニカってとこだろうな」

 「数段格上のナニカって、曖昧すぎんだろ。ついにボケたのか?大丈夫か、自分の名前分るか?」

 「あ?喧嘩売ってんだな?そうなんだな?おーし、表出やがれ糞餓鬼がぁ。いくらでも買ってやらぁ」


 僅かな怒気と不敵な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がった厳十郎がズンズン総護に近寄っていく。


 「冗談、ジョーダンだっつの。てめぇがちゃんと説明しねぇからだろうが」


 いつものお巫山戯だと分っているのか、近寄るだけで何もしなかった厳十郎はすぐまた椅子に座った。


 「ったくよぉ、老人を敬えってんだ。あ~続きだが、流れてきたのか、自力で辿り着いたのか、はたまた跳ばされてきたのかは知らねぇが、ありゃ多分この世界の存在じゃねぇ。もっと別のとこから来たもんだ」

 「………は?」


 今この老人トンデモナイことを口にしなかっただろうか。


 「神獣か龍、神か精霊か悪魔かは分らねぇ。力に飲まれたモノの成れの果て、ただの歪で醜いチカラの塊(・・・・・・・・・)ってのがしっくりくるかもな。それがたまたまこっちの蠍に引っ付いて暴走、ってな感じだろ」

 「………いやいやいや、んな軽い感じの内容じゃねーだろ。世界の危機じゃねぇか」

 「だから人より数段格上だって言ったろうが。本来なら人間じゃ相手にならねぇんだよ、普通魔術や魔法、物理的な攻撃も効かねぇしな。だからこそ流石【砂王】や【白拳】って呼ばれるだけはあるぜ。足止めの割に儂が現着したときゃ蠍はかなり傷だらけだったからなぁ」


 まぁ二人ともボロボロだったがなぁ。おかげでほんとつまらねぇ仕事だったぜ、と続ける厳十郎。

 期待外れだったと心の底から思っている老人の姿に、総護は己の師がどれほど規格外な存在かを改めて思い知らされた気がした。


 全長約一〇〇メートル、その上物理・魔力耐性を持つ大怪獣を足止めしてなおかつ生き残っている【砂王】や【白拳】も相変わらず人間離れしているが、自分の祖父はどうだ?


 恐らくだが【砂王】や【白拳】も巨大蠍の正面に立つなどという自殺行為をしてはいないだろう。

 だからこそ――――人よりも遙かに強大なモノと真正面から向き合うその胆力。


 魔人、人外と呼ばれる程の超人達ですら足止めで精一杯だったというのに。

 だからこそ――――巨体や耐性も問題無いとばかりに一刀のもとに斬り捨てるその技量。


 自身が強くなればなるほど、それらを含めた埋めがたい実力差を実感してしまう。


 (ハァ……追い着ける気がしねぇんだよな、マジで。このジジイ本当に人間かよ?)


 「いつまでんなトコに突っ立ってやがる、さっさと手洗いうがいしてこんかい。あとちょっとで婆さん帰ってくるはずだからよぉ、晩飯の準備だけ先にしとけよ~」

 「分ってんだよ、つか爺ちゃんも手伝えや」


 総護の内心を知ってか知らずか疲れた様な声で指示を出す厳十郎。


 「儂は一仕事終えて疲れてんだよ、働けぃ若もんがぁ。第一お前の学校と儂の仕事どっちが楽だと思うんだぁ?」

 「あ~ハイハイ、分りましたよオシショウサマ。喜んで準備させていただきますとも」


 嫌みったらしく返事をした総護は分ればよろしいといった風に頷いている厳十郎に背を向け、手を洗うためまずは洗面所へと向かう。


 「そっか~爺ちゃん疲れてるのか~。あ!疲れてるときは甘いものが良いらしいな。味噌汁の味噌の代わりにピーナッツバターを入れてあげよう。そうしよう!」

 「おい、いま不穏な言葉が聞えてきたぞ!?コラ総護、そりゃ気遣いじゃねぇぞ!?」


 リビングから出て行く際に総護が残した言葉に危険を感じた厳十郎。夕食間際まで騒がしい最上一家であった。

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