表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
76/78

七四話:逆転の発想と秘密

本気で今日が金曜日だと思ってました……さーせん。

 

 総護達がこれからについて話し合っていた時、陽南と詩織は集落の商店が集まる一角へと向かっていた。


「詩織ちゃん、今日の晩ご飯どうしよっか?」

「一昨日のメインがカレーライス、昨日が青椒肉絲(チンジャオロース)だったから……今日は和食系がいいかもしれないわね」


 現在、食事当番は陽南と詩織が担っている。


 ドクターが用意した一軒家に住む始めた時は総護とピー助もペアで当番に加わっていた。だが今では二人が押し切る形で当番から外していた。

 別に総護とピー助の料理の腕が特別悪いわけではない、高校生としては上出来な部類に入るだろう。


 ならどうして外されたのかというと――考え方(スタンス)の違いからだった。


『生きるには、食べねばならない』

『バランスよく栄養を摂取するべきだ』


 これは全員が持っている共通の認識であり、問題は無い。――問題になったのは『料理の美味しさ』という点だ。


 陽南と詩織は好みの問題はあれど料理は『美味しく、楽しく食べるもの』だと考えていた。

 対して総護とピー助は『栄養補給』を重要視しており、味や見た目は重要ではなかった。


 最初に出された料理の味を二人はハッキリと覚えている、というよりも記憶に焼き付いて離れなかった。


 その料理の見た目は普通なのに味だけが――とんでもなく不味かったのだ。


 味付けは必要最低限に抑えてある。加えて投入されたであろう大量の素材達が口の中で暴れ回り、阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「和食なら、焼き魚とかどぉだぁか〜?」

「いいわね。まずは魚屋さんに行ってみましょうか」

「おっけー」


 そんな経緯があって、総護とピー助は料理以外の担当になっていた。


『初夏の昼前』設定の疑似太陽が照らす大通りを少し歩くと、色々な店が見えてくる。


「今日は野菜の特売やってるよ!!」

「できたてのパンはいかがですか〜?」

「こんな日にはアイスでもどうだい?」


 昼前という状況だからだろう、それなりの人々が集まっていた。


「こんにちは〜」

「こんにちは」

「おう、いらっしゃい。今日は紅鮭がお買い得だよ」


 すっかり顔を覚えられている二人に、店の奥側から店主の男が声をかける。


「恥ずかしい話だが、うちの店員が養殖の設定を間違えちまってな。一本でも買ってってくれると正直助かる。安いが味は保証するぞ」

「一本……十円!? 見たことない値段になっとるわ〜」

「こんなに安くて、大丈夫なんですか?」

「持て余して腐らせるよかマシってもんよ。なんと今なら一本サービスできるぞ?」

「一本五円になったわ……」


 衝撃的な価格設定だがお買い得には間違い無かったので陽南と詩織は三本買い、サービスも含めて合計四本の紅鮭を手に入れた。


 その後も買い物は続き、帰る頃にはお昼を少し回っていた。




 **********




 遅めの昼食の後、二人は静かに食器を洗っていた。現在、家には陽南と詩織だけが残っている。


 いつもなら明るい会話が飛び交っているが、今日はいつもより数倍も重い空気が漂っていた。


「ねぇ詩織ちゃん」

「なに?」


 重苦しい空気の中で食器を洗っていた詩織へと、陽南は遠慮がちに喋りかける。


「ウチ、おる意味あるだぁかぁ?」

「……っ、それ、は」


 その言葉を詩織すぐに否定できなかった。何故なら詩織も同じことを考えていたからだ。


「そうね。私も、ただのお荷物になってるし。ついてきた意味が、無いかもしれないわね」


『――いやいやいや、あるに決まってんじゃん』と、もし総護がこの場にいたならば全力で、それはもう全力で否定しただろう。


 しかし総護の言葉があっても、彼女達にとっては気休めにしかならなかっただろう。彼女達考えている内容は慰められたところで、解決するものでは無いのだから。


「……そうそう、なぁんもできんかったしね〜」


彼方の賢者(アナザー・セイジ)】の『迷宮』でのことは、既に苦い思い出になっている。


 陽南も詩織もドクターの説明を聞いて『大丈夫』だと勝手に決めつけていた。『危険は無い』と勝手に思っていた。


 ――その結果は惨憺たるもの。


 魔力を乱された時はまだ――と言ってもその時既に無防備でギリギリだったが――耐えられたが、気力は耐える以前の問題だった。

 終始総護に頼りきりで、総護もそれを理解したからこそ二人を危険から遠ざけるような動きをしていた。


 最初に【怪獣】と遭遇した時もだ。何もできず、ただ言われるがまま逃げるしかできなかった。


 情けない、不甲斐ない。足りないだらけだ。


「前よりはめっちゃ強くなったと思ぉけど、全然だわ〜」

「まさに『井の中の蛙』、ね」


 陽南と詩織は強い。それは彼女達の父親(師匠)も認めている。鳴子やユラン、マーシーも認めていた。


 ただ、つい比べてしまう青年が色々と特殊な人物なだけだ。



 最上総護が至った『魔気合一』という境地。



 ――それは、ヒトが秘める魂の力。

 ――それは、ヒトの内に在った真なる力。

 ――それは『非存在』、『非有』と呼ばれた有り得ざる力。


 その境地に至るには血の滲むような――狂気的な努力が必要不可欠であり、自力で辿り着いたのはたったの三人。


 元来はヒトの力であり、肉体と心と魂が耐えられない為に一種の自己防衛として魔と気が別れたもの。ある女性曰く『魔法と気術の融合術です』とのこと。

 元雷神(鳴子)最古の魔女(ユラン)の説明では『神力の劣化版』と言っていた。実際に、あながち間違いではない。


 神力ほど万能ではない。

 ――故に突出する力は時に神すら超える可能性を持っている。



「「はぁ〜」」



 自然と溜め息が出てくる。


 今の陽南と詩織にはあまりに高く、遠い壁。それに戦士として成長した今だからこそ、理解できたこともあった。


 以前に総護に頼み込んみ、監視のもと少しだけ〝魔気合一〟を発動させようとしたことがあった。


 両足で立ち、気合いを入れ、いざ魔力と気を混ぜようとしたら――


『待て待て!! ストップ!!』

『え、まだ何もしとらんがん?』

『そうよ。まだ掴む前よ?』

『いやいや余計に駄目だわ。んな量のもん混ぜたら暴走して死ぬっつの』


 ――慌てて総護が止めたのだった。


 求められたのは想像を絶するほどに繊細で緻密な魔力と気の操作で、彼女達の技量では到底不可能な領域。

『不可能』と言われた理由を、その身をもって理解できた。



『強くなりたい』



 数年前から徐々に強くなっていく思い。

 頭では地道に歩むしかないと理解しているものの、気持ちはどうしても先走ってしまう。


 それも日々、二人とは別に過酷な鍛錬を続けている総護を見る機会が増えたのもあるだろう。


 同時に、多少なりとも持っていた自信は『迷宮』に入ったこともあり木っ端微塵になってしまった。


「……とりあえず、終わったら組手しない? 総君のやり方を参考にして」

「……うん」


 少なくとも鍛錬が重要なのは変わらないはずなので家事が終わり次第、動きだそうとした時、


「ただいまぁ」


 ――総護が帰ってきた。


「おかえりなさい」

「おかえり〜」


 総護は昼食後に【彼方の賢者】の傷付いた『(コア)』治療に出かけていた。


「早かったわね」

「あぁ、もう治りかけみてぇなもんだったんだよ」

「え、そんな怪我に苦戦しとっただ?」


 意外そうな陽南に総護は自身が見てきた傷の全容を、身振り手振りを用いて説明する。


「なんつぅか、こう、こんな感じの虫歯? 癌? みてぇになっててな。ガンガン削って燃やして、ゴリ押しで治してやったんだよ。ほら、俺はこう見えて治すのも得意だかんな」

「治療に行ったのよね……?」

「……それで、治るだ?」


 別に二人とも信じていないわけではないが、その行動と治療行為が結び付くイメージが浮かばなかった。


「なら今度見てこいよ。そりゃあもう、バッチリ元通りになってっからよぉ」

「「ふ〜ん」」

「オイ、急に興味無くすなよ」


 いつもの他愛もない会話。そんな何気ない日常の一コマの途中で――


「――それよっ!!」

「っ、なんだぁ!?」


 ――詩織に、あるアイデアが降りてきた。


「フフフ、フハハハハッ。我、天啓を得たりっ!!」

「し、詩織ちゃん?」

「陽南ちゃん、これはまたとないチャンスよ。逃すなんてあり得ないわ」

「え、えぇ〜、なんのことだぁ?」


 突然にテンションが上がり始めた詩織の意図を読めない陽南は、困惑するしかない。


「大丈夫、私に任せてちょうだい。――総君」

「お、おう、なんだよ?」


 総護も自身に向かってビシッと指を指し、ポーズをドヤ顔で決める詩織に困惑しながらも反応する。


「【彼方の賢者】を呼んでもらえるかしら?」

「いいけどよ、呼び出してどうすんだ?」



 詩織はニヤリと笑みを浮かべながら、こう答えた。




「それは――秘密よっ」




 ――この日を境に、ほぼ毎日のように疲れ切った状態の詩織と陽南が目撃されるようになったという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ