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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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七三話:彼方より来たりし者達

 

「……まずは私が『何者か』ということから、説明いたしましょう」


 途中から沈黙し続けていた【彼方の賢者(アナザー・セイジ)】は静かに語り始める。


「【彼方の賢者】という名前はサラ様から頂いた名前なのです」

「サラって人はドクターの奥さん、だったよな?」

「うん、そうだよ」


 複製(クローン)に指示を出し終えたのか、椅子に座りながらドクターが答えた。


「その時は確かサラは……フリーの【魔導師】だったんだよ。世界中を忙しく飛び回ってた時に、出会ったって僕は聞いたよ」

「へぇ、そうだったんスか。じゃあ、その名前になった理由は何なんだ?」

「当時、『遠くからやって来た物知りな子』という評価を頂き、それを基に名を考えたと仰っていました。私達(・・)には『人間』というような種族名を持っていませんでしたので」


 総護の疑問に答えながら【彼方の賢者】の説明は続く。


「私達はこの星の魔力生命体に近い存在でございます。違いを挙げるならば、魔力が尽きてもすぐに消滅、及び死亡しません。そこは人類と同じと言えるでしょう。ですが肉体……身体構造は全く違います」


 彼らは頭脳であり心臓である『(コア)』、それこそがが本体で、その『核』を守るために無機物、有機物を問わず鎧のように纏っているらしい。

 だから以前は巨大な球体だった、とドクターが補足する。


「この身体も見た目だけを人類へと近付けただけのもので中身は全くの別物、魔力を持たない機械人(ロボット)になります」

「じゃあ、本体はどこにあんだよ?」

「場所は月の裏側。その次元の狭間(・・・・・)でございます」

「……なるほど、【怪獣】から隠れるにはもってこいの場所だね」

「はい。【怪獣】は次元などを理解できる知能を持ち合わせていない、と以前判断いたしましたので」

「だから今まで回復に専念できた、っつぅことか」

「はい。その通りでございます」


 疲弊し、傷付いた『核』を隠すことなどに力のほとんどを使い切ってしまったから、今まで休眠状態で過ごしていたようだ。


「話を戻しましょう。私達には雌雄がありません。宇宙を彷徨い長い年月が経った個体が任意で自身の一部を別けることで個体数が増えていくのです。その際に最低限の知識は引き継がれます」

「プラナリアかよ」


 長い一生――正確な寿命は不明――の中で分裂を一回もせずに過ごす個体もいるようだ。


 彼等は知らない場所へと移動し定住する個体や、渡り鳥のように移動続ける個体もいるとのこと。ちなみに『どこから来た』という総護の質問だが、【彼方の賢者】も『太陽系の外で産まれた』ということしか分からないらしい。


 その比較的に若い個体である【彼方の賢者】が最初に降り立ったのが地球だった。


「地球に降りて最初にサラ様と出会い、色々と教えていただきました。その後は数多くの人類と言葉を交わし、私は本当に様々なことを知りました」


 地球の言語や常識などを最初にサラから学んだと【彼方の賢者】は語る。


「サラさんマジで良い人でよかったな。もし他の人間だったら何されてたか分かんねぇんだからよ」

「……昔から好奇心が強かったからね。よく後先考えずに行動してたよ」

「何でも知りたがるアーファの好奇心って、サラさんからの遺伝だったんスねぇ」

「そうだね、しっかり受け継いでると思うよ」


 その後は魔導関係はもちろんのこと、科学や医療までのあらゆる学問や研究を学び、助言をしたと【彼方の賢者】は言う。

 人間社会に溶け込むことができたのは、サラの活躍のおかげだったようだ。


「サラ様と出会ってから四年ほど経った時でした。珍しいことに同胞達が地球の近くを通ったのです。私は彼らに会いに行くために宇宙へと出かけました」


 そう語る【彼方の賢者】の表情は――後悔に染まっていた。


「時間にすれば約四ヶ月になるでしょう。地球を離れ同胞達と呑気に会話をしている間に、地球では【怪獣】が脅威となっていたのです」


 ちょうど太陽フレアが重なってしまい、地球側からの連絡が届かなかったという。

 そのどちらも運が悪かったとしか言いようがないが、本人からすれば悔みきれないのだろう。


「それに……私が元々持っていた知識や人類の科学力などが仇となってしまったのです」


 それは以前に総護達がドクターから聞いた内容だ。


「再び地球へと降り立った私は全力で戦いました。ですが力及ばず負けてしまったのです」

「あの時にはもう【怪獣】に魔力を用いた攻撃はほとんど通らなくなってたからね、仕方が無いよ」

「はい。ですが責任の一端は私にもございます。当時、ドクターに止められなければ自爆という選択をしていたことでしょう」

「……僕は今でも君を止めたことを、間違いだとは思っていないよ」


 ドクターが彼の『自爆』を止めたということは、その時既に【怪獣】の防御力が桁違いに高かったのだろう。


「ええ。冷静に考えると無謀な賭けでしたので、その選択は正しいものだったと現在は判断しております。その後、逃げ出した私は月に扉を設置し、皆様が訪れるまで静かに傷を癒やしていたのです」


 ある程度を語り終えた【彼方の賢者】は総護やドクターのカップへと順にお茶を注いでいく。


「……なるほどなぁ。んで、怪我はどんな感じだよ」

「まだ完全には治っていません。自然回復を待つのならばあと数年はかかると思われます」


 【彼方の賢者】の魔力を『敵』として【怪獣】が覚えてしまっているようで、回復や治癒の魔導を使うことが難しく時間がかかっているようだった。


「何にせよ、【怪獣】が一番の問題なのにかわりはねぇか」


 総護の言う通り【怪獣】という規格外存在を打倒する他に、平穏が訪れることは無いのだ。


「はい。そこで魔力でも気力でもない『(チカラ)』、それこそが人類が秘めた【怪獣】を打ち破る可能性(・・・)だと当時の私は予想しました」


 二〇〇年以上前に【彼方の賢者】はその時既に〝魔気合一〟の存在を予見していた。


「それは微かに感じる『神の力』などよりも遥かに可能性があったのです」

「神、ねぇ。『微かに感じる』っつぅことは今はもういねぇんスか?」

「いない――とは断言できないんだけどね。ずっと昔は存在したはずなんだよ。伝説や神話も残ってたし、彼が言う通りごく僅かだけど『神』と呼ばれた存在の証拠を示すエネルギーも確認されてたんだ」


 総護達の世界では人に紛れて生きているが、どうやらこの世界の神々はいつからか姿を消したらしい。

 確かに総護もこの世界の人から『神力』を感じたことは一度もなかった。もしかするとどこかの集落で生きているかもしれないが、それを見逃すドクターではないので、まずいないのだろう。


 ――少なくとも、人が生きている場所には。


「その『人類の力』は既存の魔力や気力とは関係の無い、言うなれば全く新しい『第三の力』としてでございます」

「つまり『人類の力』ってやつを持ってる人間を見つける。または新しく発現させるための場所があの『扉』ってわけだ?」

「その通りにございます」


 通常の攻撃では誰も【怪獣】を傷つけることができなくなっしまったのだから新しい方法を模索するのは当然だが、それにしてもヒントや方法が大雑把ではなかろうか。


「……せめてもう少し分かり易くしとけよ。あんだけじゃあ分かんねぇっつの」

「申し訳ありません、時間が限られていたものですから」

「でも、総護君がいてくれて助かったよ。僕達だけじゃ、きっと辿り着けなかったからね」


 魔力を使えず、気力を使えず、最後はそのどちらも使えなくなる。荒療治というよりももはや力技だが、総護には理解できなくもなかった。

 人間、追い込まれれば何かが産まれる可能性もあるのだ。もちろん、人それぞれだろうが。


「しかし、まさか混ぜ合わせた結果が〝魔気合一〟だとは、思ってもみませんでした。実際に目の当たりにするまで不可能だと判断していましたので……」

「それは僕も同じだよ。危険性しかなかった結果の先が〝魔気合一〟なんだからね」

「俺も『正気じゃない』って言われましたからね」


 結果論ではあるが、元々〝魔気合一〟を会得していた総護がドクターと出会った偶然が吉と出たようだ。


「私はまだ【怪獣】を倒すことを諦めてはいません。しかし……私だけでは到底不可能にございます」


 【彼方の賢者】は総護へと頭を下げる。半ば自分が撒いた種であると思ってたいるためか、声色には後ろめたさを感じる。


「総護様、厚顔無恥であることは重々承知しております。ですがどうか、どうか人類のためにそのお力を使って――」

「――そのことなら、ドクターともう話がついてんだわ」

「そ、それは、どういう意味でしょうか?」


 顔を上げながら困惑する【彼方の賢者】へ、総護は気迫のこもった笑みを向ける。


「『【怪獣】をブッ倒すのを手伝う』ってなぁ。俺も負けっぱなしじゃ終われねぇし、このまま『さよなら』なんてできっかよ」

「本当に、頼もしい限りだよねぇ」

「そういう『約束』ッスからね」



 ――この場にいる全員、紛れもなく敗者だ。



「総護様、本当に有難う――」

「――礼は全部終わってからしろっつの。つぅわけで、今日から俺の鍛錬を手伝えや」

「あの劣化模倣(パチモン)を俺が余裕でブッタ斬れるようになりゃあ、本物もいけんだろ。頼りにしてるぜ、賢者様?」




 ――確かに負け、傷付き、逃げた者達だ。




「かしこまりました、私、全力で取り組ませていただきます」

 ――しかし、一人は備えていた。




「おっと、僕を忘れてもらっちゃ困るよ?」

 ――一人は、抗い続けていた。




「いやいや、忘れるわけないッスよ」

 ――一人は、諦めを知らない。





 ――時を越えて、世界を超えて、集い始める。



『次は勝つ』

『次は敗けない』



 ――決意は皆同じ。



 ――決戦の日は刻々と近付いていた。

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