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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
一章 はじまりの物語
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六話:彼の彼女と彼女への

 七月一三日午後一七時四二分。



 県立神在第三高校。

 約人口二〇万人の地方都市の東側に位置するこの高校が、総護達の在籍する学校である。

 総護は陽南や詩織と違い部活に入っていない所謂帰宅部なので友人達と三人で自転車を押しながら市内を見て回っていた。


 「なぁ総護、健二けんじ。最近な~んか人が少なくねーか?」


 先頭を歩いていたツンツン頭の少年が何かに気付いたように後ろの二人に話しかける。


 「そういやそんな気もすんなぁ。ま、みんな失踪事件でも気にしてんじゃねぇか?無用な外出は控えましょう的なかんじでよ」


 時刻は平日の夕方、いつもならもう少し買い物客などで賑わっているはずの市内だが、最近は人通りが少なく感じられる。


 「多分それだけじゃないと思うよ」


 総護のすぐ後ろを歩いていた大人しそうな少年が意味深に呟く。


 「お、健二、な~んか面白そうな話でもあるのか?」

 「流石じゅん、食いつくね。うん、最近ある噂が広まってるんだ。……ゾンビが出る(・・・・・・)ってね」

 「ゾンビだぁ?まぁたどっかのB級映画みてぇな内容だなぁオイ」

 「いやいやなんとも夢のある噂じゃねーか、詳しく聞かせてくれ」

 「いいよ、僕が聞いた話によると―――」

 

 健二が語った内容をまとめると、夕方から深夜にかけてゾンビは何度も目撃されているらしい。生気の無い瞳に青白い肌、フラフラと何かを求める様に彷徨うその姿は、確かにゾンビだろう。


 「……その噂、酔いつぶれた酔っ払いっつーオチじゃねぇだろうな?顔が青白いのは気持ち悪くて血の気が引いてるだけで、フラフラしてんのは千鳥足ってな感じでよ」

 「ハハハそれも面白い話だね。でも噂にはまだ続きがあってね、なんと今回の失踪事件につながるんだ」

 「おお~、けっこうな急展開。速く続き聞かせてくれ」


 そして目撃した者はゾンビに襲われ、噛みつかれた者はゾンビと化してしまう。そして新たなゾンビとして自身も獲物を探すように彷徨い始める。コレが今回の連続失踪事件の真相ではないかという噂らしい。

 どうやらこの噂、失踪者が出た場所で必ず話題になっているらしく、目撃証言も多数あるということでネット上でもかなり注目を集めているそうだ。


 「マジか~、そんな噂が流れてたのかよ~。チックショウ全然知らなかったぞ~」

 「僕はこの噂が真実なんかじゃないかって思ってるんだ。げんに失踪者の数が増えるにつれてゾンビを見たって人も増えてるらしいし、テレビなんかで報道されないのも政府が情報制限を掛けてるんじゃないかな?」

 「おいおい、マジならやべーんじゃねーの?『気付いたらゾンビだらけでした』なんてシャレにならねーぞ?」

 「まぁ、大丈夫だろ。噂なんざ大体尾ひれが付きまくって広まるモンだしよ、何処までが本当のことかどうかなんか分んねぇだろうよ」

 「でも総護は怖くないの?だって次は自分が襲われるかもしれないんだよ?」


 本当に不安そうにしている二人に対して総護は当然のように答える。


 「怖くねぇさ。俺、小さい頃から鬼ごっこで捕まったことねぇし、むしろ捕まえてみろってな。第一噂は何処まで行こうが噂でしかねぇしな」

 「総護ってドライというか大抵のことには物怖じしないよね」

 「そーいや昔からコイツ帰宅部のくせに無駄に身体能力がたけーんだよな。そして陽南ちゃんや幸原さんとも仲が良いときたもんだ。――――ゾンビに食われて爆散しやがれ、つーかしろ今すぐに!!」

 「あ~あ、僕にも可愛い幼馴染みがいたらよかったのに。で、総護的に本命は二人のうちどっちなの?」


 まるで親の仇を見るような目で総護を睨む純と羨ましそうにする健二の二人。


 「だ、だからあいつらとはそんなんじゃねぇって」

 「隠すな、隠すな。俺がネタにして盛大に広めてやるからよ~」

 「そうそう、尾ひれを付けてね」

 「だぁあああ、鬱陶しいわ。にやけながら引っ付くんじゃねぇええ。つーかゾンビの話どこいったんだよ!?」

 「やかましい!!今はゾンビよりてめーのことが重要だろーが!どうなんだよ!?」

 「さぁさぁ、有ること無いことキリキリ吐こうね?」

 「ウルセェのはお前らだろ!つーか無ぇもんはどうやっても出てこねぇよ!?」


 先程までの薄暗い空気は何処に行ってしまったのか。二人と別れるまでいつも通りのバカ話を続ける総護達だった。




**********




 「ったく、ヒデェ目に遭ったな。どう考えても俺よりゾンビの方が重要だろうが」


 二人と別れた後、総護は一人疲れた表情で自転車をこいでいた。総護の自宅は学校からかなりの距離があり、道中の景色も自宅周辺の田畑の広がる風景から簡素な住宅街、そして賑やかな町中を経由して学校へとバリエーション豊かに変化していく。かなり自宅に近づいてきたので総護の周囲の景色は田んぼと畑が殆どになっている。


 そんな田舎道を走っていた総護の頭の中を健二と純の言葉がよぎっていく。


 『陽南ちゃんや幸原さんとも仲が良いときたもんだ』

 『で、総護的に本命は二人のうちどっちなの?』


 (どっちなの、か。まぁ普通はそう思うわな(・・・・・・・・・)


 総護は己が普通ではないということは自覚しているつもりだ。総護の父や祖父母も普通とは程遠いのだから自分がそうなってしまっているのも理解しているし、納得もしている。


 (――――どっちもなんて(・・・・・・)言えねぇだろ(・・・・・・)


 だからこの気持ちもきっと普通ではないのだろう、今も総護はそう思っている。


 その昔総護の自宅の両隣に二組の家族が引っ越してきた。二組の家族はどうやら父や祖父と知り合いのようで、すぐにそれぞれの家族紹介が行なわれた。

 まだ少し肌寒い春先のこと、その日最上総護は二人の少女に心を奪われた。その日から総護は二人の少女とよく遊ぶ様になった。


 総護が自分の想いに気付くのに数年。この想いが普通ではないと気が付くのにさらに数年かかった。


 そして総護が中学校へと進学した時、この想いが優柔不断で最低の人間の持つものであると知ったとき、総護は自分の想いを心の奥底へと封じ込めることに決めた。

 総護は彼女たちと距離をとったり、冷たい対応をしたこともあった。だが彼女たちの態度は何一つ変わらなかった。


 だから総護は自分の想いを封じ込めるのをやめた。そんなことをしても余計に苦しくなるだけと分ったのだから。その時から総護は彼女たちが〝好きだ〟という想いの他に、普通ではない自分にも優しくしてくれる彼女たちには〝幸せになって欲しい〟という想いが生まれていた。


 もし仮に自分の想いを二人に告げたとしてもそれはたんなる自己満足ではないのか?詩織と陽南に迷惑をかけるのだけなのではないか?


 確実なのは今のこの関係が崩れてしまうということ。それが分っているから総護は一歩先へ踏み出すことが出来ないでいた。


 「ダァアアアアア、チクショオオオオオオッ!!どーすりゃいいんだよマジで!!」


 悩める少年は茜色に染まる空の下、夕陽に向かって叫ぶのだった。

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