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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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六五話:経過観察――未だ謎多き来訪者

新年、あけましておめでとうございます

 


『やっぱどいつもこいつもデカすぎんだろ。ホント、魔獣化やべぇな』



 今回も音声と映像を通して、ドクターは総護の動きを見ていた。


(――いやいや、『やばい』のは君なんだけどね)


 現在、総護がいるのはかつて『サハラ砂漠』と呼ばれていた場所。


 当然ながら足場は最悪。歩き慣れていなければただ『真っ直ぐ歩く』という行為さえ難しい場所である。

 日中は灼熱の日差しと気温と焼けた砂が、夜間は氷点下まで冷え込む寒さが、そして生きるために必要な水がほとんど見当たらないという環境が容易く人の命を奪っていく、そんな過酷な世界。


 加えて襲い来る魔獣も考慮するならばその危険度は跳ね上がり、人が気安く活動するような場所ではない。


『色々と緩和されてっからちょうどいい――』

『――ピュィィイイッ!!』



 通信機から聞こえる総護の声と、その声を遮るように聞こえてくるけたたましい鳴き声。


『ッ』


 突然にブレる映像と力を込めたような総護の声、そして徐々に生気の感じられなくなっていく声がドクターの耳に届く。


 ――バチャッ。


 最後に聞こえたのは水っぽい何かが落下したような音。


『はぁ、コイツも駄目かぁ』


 総護はいたって自然体だ。だからそれが余計に異様さを醸し出してる。


 頸を斬られた大蛇の骸が二つ。

 背中側を切断された大蠍の死体が、さらに三つ。

 そして、今まさに頭部と体が別れた巨鳥だったものが追加で一つ。


 刀を振って血を飛ばしている総護の周囲は、まさに死屍累々という状況だ。


(今回も、どこ吹く風って感じかな? 本当に……とんでもないね)


 そんな光景を空中に映しだ出された映像から目の当たりにしたドクターは、驚きを通り越して呆れていた。


 そもそも総護がどうしてこんな場所にいるのかと言えば――


「やっぱり、余裕そうだね?」

『この無限湧きっぽい感じはいいんスけど、こうも見かけ倒しだとは思ってなかったんで、ぶっちゃけ拍子抜けッスねぇ』

「そっかぁ。う〜ん、そうなると残念だけど、君の相手になりそうな魔獣はここにも(・・・・)いないみたいだねぇ」


 ――鍛錬(・・)のためだったのだが、総護の相手になりそうな魔獣は周囲にいないということが判明してしまった。


『………マジ、ッスかぁ』


 その結果、総護の声から急速に元気が感じられなくなっていく。


「じゃあ〝転移〟の準備始めるから、もうちょっと待っててね」

『………………うッス』


 ドクターは通信機を一旦消音(ミュート)にし、椅子に座って周囲にある色々な機械を操作することと並行して、少しばかり思案する。



(――これで半人前(・・・)、かぁ。いったいなんの冗談だろうね?)



 今日は総護の順番であったがこれまでに二回ほど、陽南と詩織も今と同じように『鍛錬』ということで地上へと上がっていた。

 ついでにドクターの研究材料や色々な素材集めも兼ねてということになり、その材料の中には魔獣も含まれていたので必然、戦闘も発生する。


 その時はドクターが魔獣などの解説を担当し、総護がアドバイスをするというものだった。


 苦戦という程ではなかったが、『手を焼いていた』という記憶がある。もっとも、彼女達からすれば魔獣と呼ばれる存在との戦闘が初めてなのだから当然ではある。


 しかし今のように――



(うん……どう見ても『赤子の手をひねる』とも言えないよねぇ)



 ――戦いにす(・・・・)らならない(・・・・・)、という状況では断じてなかった。


 付け加えるならば、今回も周囲に潜んでいたであろう魔獣などが総護が戦闘を開始した途端に逃げ出すという行動も確認されている。


(野生の本能も侮れないね。死が近い世界なんだから、当然とは言えるんだろうけど)


 魔獣の行動原理は大本の生物とほぼ同じだが闘争本能や狩猟本能などは特に高くなる傾向があった。次いで危機察知能力の向上が確認されている。

 だから以前より強大に、より凶悪になった魔獣同士の争いは必然的に激しくなる。

 肉食の魔獣の縄張り争いや狩りなど、熾烈で凄惨なものだ。


 事実として弱肉強食の世界において魔力を感じさせない矮小な人間など、獲物(エサ)以外の何者でもない。


 されど、野生に生きる本能は見抜いたのだろう。相手と自分の間にある――大きすぎる隔たりを。


(みんな『魔術師』としての高い技術も本当に凄いんだけど、やっぱりそれ以外も飛び抜けてるよねぇ)



 ――『魔術』と呼ばれる、もうほとんど失われた魔力を操る技術。

 ――『体術』や『武器術』と呼ばれる、近接戦闘の技術。



 ドクターは総護の『魔術』についてはまだ理解できるが、『体術』などは完全に門外漢だ。

 一応だが『気』や『気力』と総護達が呼んでいるエネルギーについてもドクターは知っている。かつての人類の最盛期では数多くの戦士が存在していたし、現在も少数ではあるが武術家や剣士などの子孫が生きているので、それなりにデータは揃ってはいた。


 ――もっともそんなデータも総護達が叩き出した結果の前では何の役にも立たなかったのだが。


 陽南は素手で硬質な甲羅や外皮を容易に砕き割り、詩織は人間の体重の数十倍の質量をまるで作業のように投げ飛ばす。


 その可憐な容姿からは想像もつかない動きと攻撃力は、いくら『気』による身体硬化、強化の恩恵があるとはいえ並外れたものであることは明白だった。


(……総護君にいたっては、意味が分からないんだよねぇ)


怪獣(カイジュウ)】を相手に立ち回っていた総護なのだから『少女達よりは動ける』とは思っていた。

 思っていたが――



そのまま戦う(・・・・・・)、なんて実際に見ても信じられないよ)



 ――実際は予想の遥か上を通過して行った。


 総護は今もだが地上での鍛錬で強化系の魔術、気術を一切使っていない(・・・・・・・・)


 最初は自殺するつもりなのかと本気で考えたドクターだったが『こういう鍛錬なんスよ』と言ってのけたピー助の真剣な言葉や、素の身体能力とただの鉄の刀だけで立ち塞がる全ての魔獣を斬り倒している総護を見て、ようやく納得することができたのだ。


(う〜ん、結局『あの力』を使うタイミングは今回も無し。あ~、気になる、気になって仕方がないっ!!)



 ――【怪獣】の攻撃を受け止めた『防壁のような能力』に、総護が振るっていた『大きな銀剣』。



 ドクターは以前、総護と【怪獣】の戦闘痕を解析していた。それにより総護が使っていた力が『魔力、気力ではない』という事実も判明している。


 はたして、総護が振るっていた力は何なのか。

 非常に興味深く、調べ倒したいのは山々なのだが、自然と総護がその力を振るうに値する強敵は一向に現れない。

 総護も隠しているわけではないのだろうが、自分から説明するといった気配は一向に無かった。


(今日辺り、そろそろ聞いてみてもいいかな? こう、探ってる感じを出さなければ大丈夫だよね?)


 この二週間で総護達とはそれなりに良い関係を築けたと、ドクターは感じていた。総護とはほぼ毎日のように行動と会話をしているし、そこそこフレンドリーな間柄だと思っている。


(そう、きっと大丈夫だよ。最初ならともかく、今では立派な友人なんだし、それに『善は急げ』って諺もあるんだからっ。――いいねぇ興奮してきたよ。ああ、やっぱり未知は素晴らしいっ!!)


 ――テンションがおかしな状態になってきているドクターだが、それでも総護を回収する準備に抜かりはない。


(ほいほいほいっ。設備(マシン)ヨシ、術式(システム)ヨシ。全部異常無し(オールグリーン)っと、これでいつでもオッケーだね)


 確認も終わり通信機の消音を解除。総護へと話しかけた時、


「総護君、準備でき――」



 ――ビビーッ!! ビビーッ!!



 静かな室内に突き刺さるような警報音が鳴り響く。

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