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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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六二話:仮定、来訪者について(下)

「『雑居房』ではないけど、似てるのは否定しないよ。物理的な出入口は無いしね」

「余計にタチが悪いですよ。それに、逃がす気ゼロじゃないですか」

「何か『逃げる』ような理由でも、あるのかな?」

「ドクターの行動次第ですかね」

「なるほど、やっぱり僕と同じってわけだ」


 軽快な受け答えと並行して、緊張感が張り詰めていく。それは何も不思議なことでは無い。

 既にお互い『何かあれば動く』と言い切っているのだから。


「そうだね、分りやすく正直に言うと、……君達を助けたのは二割が善意で、三割は好奇心。それでもう五割は、君と同じだよ(・・・・・・)、総護君」


 男は全員が理解できるように、言語化して自分の行動理由を伝える。それを更に簡潔にした言葉で、彼は答えた。


「――警戒してる(・・・・・)、ってことですか」

「「「っ!?」」」


 男がそんな素振りを見せなかったからか、彼以外は驚きながら視線を男へと向ける。


「だって、今までは放射能汚染の問題もあったからね。それに【怪獣(カイジュウ)】だけじゃなくて『魔獣』もたくさんいるし、好き勝手に変わる天気の問題もあるから、『地上に出る』っていう行動はリスクがあまりにも大きすぎるんだ」


 ――【怪獣】や魔獣、人類が残した爪痕、常に変化する気象。


 どれもが無視できるような問題ではなく、それらの脅威から逃れるために人々は『地下』へと潜らざるを得なかった。


「だから過酷な地上で行動してるのは僕みたいな物好きか、『追放処分』を受けた犯罪者くらいしかいないんだ。――ああ、ちなみに犯罪者が追放されてからの生存日数は、運が良ければ約二日だよ」

「……もしかしたら、生き延びた人もいるかもしれませんよ?」


 彼らからすればその可能性もあるかもしれないが、男は違う。


「確かに、君達からすればその可能性も捨て切れないよね。――でも、残念ながらそれは無いよ、僕は追放された全員の死亡を確認したからね。それも僕の『役割』だから」


 既に彼が言ったような可能性は潰えているのだから。


「僕は色んな場所へ行ったんだ。山の上から海の底、月みたいな人類がそのままじゃ生きていけない場所まで――」


 しかし人類が絶滅しかけていた時は、男も似たような可能性を信じていた。だから【怪獣】を避けながら生き残った人々を助けるために、放射能汚染の問題を解決するために、あらゆる場所へと赴いた。



「――二〇〇年以上かけて、ね」



 男がそう告げた時、全員が驚いていた。だが、この反応には男は慣れている。もう数えられないほどに経験しているのだから。


「僕が知らない場所は、もう二ヶ所しかないんだ。一つは【怪獣】の体内、もう一つは『アナザー・セイジ』が創った『扉』。どっちもずっと監視してるから何かあればすぐ分かるよ」


 【怪獣】は当然だが、『扉』も内部が不明なため警戒対象として常に監視されている。何か動きや急激な変化があればいつでもその場に〝転移〟できるシステムを構築し、今回も問題無く作動した。


「……片っぽは『場所』に入るんスか? しかも入ったら出てこれないじゃないっス」

「あの巨体だから立派な空間だよ。うん、是非とも隅々まで調べたいね。それと『扉』は中に入ったら『一部の記憶』を奪われるよ」

「ヒェッ」


 緑色の精霊は記憶を失った自分を想像したのだろう。男の説明を聞いて震え始めた。


「話を戻すけど、言った通り僕はこの星のほとんどの場所へ行ったんだ。だから詩織ちゃんが言ってた『小さな島』のことも知ってるよ」


 男は一呼吸置いてからこの惑星の北半球に存在する『列島』の名前を、彼らの出身地であろう『国』の名を挙げた。



「君達の出身は――日本(・・)だね?」



 少女達と精霊の反応からして図星なのだろう。だが、それは『事実』であって『真実』ではないと男は確信していた。


「と言っても最初から君達の顔立ちはアジア人っぽかったし、言語が日本語だったから『日本人だろう』っていうすぐに予測はできたよ」


 何か理由があるから隠していたと思われたので、男もそういう話題は意図的に振らなかった。当たり障りのない会話であっても、何かしらの情報は得られるからだ。


「でも君達は僕を知らなかったし、僕も君達を知らないんだ。不思議だよねぇ」

「どこが『不思議』なんですか? 知らない人がいるのは当たり前だと思いますけど?」


 そう、彼の言い分は至極真っ当なものだ。『自分の知らない誰かがいる』など、本当に当たり前な一般論だ。


「その言い方じゃ、まるで――」

「――『全員知ってるみたいな口振りじゃないですか?』って、言いたいのかな?」


 だが、男には当てはまらない。何故なら――


「そうだよ、僕は全ての集落の住人の顔と名前を把握してる。それに世界中にある集落には必ず――僕達がいる(・・・・・)

「「「「っ!?」」」」


 ――男が『例外中の例外』だからだ。


「『僕を知らない』なんて有り得ないんだ、どこの集落であれ生活してたら何度も僕を見かけるはずだからね。『僕が知らない』のも有り得ないよ、個人と総数の把握も僕の『役割』だからね。……誤差なんか今まで無かったんだよ」


 個人の把握とは『年齢、職業、住所』などの基本的な情報を記憶(データ)として共有頭脳(サーバー)に保存し、年単位で更新していくことだ。そうすることで個人の状態を適切に把握し続けることができる。

 それに人口を適切に把握することは事前に食料問題などを回避する上で重要な役割であり、男としても特に気を使っていた部分でもある。


「既に地上に人類がいないことは確認済みなのにも関わらず、急に(・・)地上から現れた君達を『警戒するな』っていうのはちょっと無理かなぁ」


 ――故に男は善意と好奇心、そして同程度の警戒心を持ったのだ。


「今の地上で大量に魔力を消費する魔導を使うなんて、どんなに優秀な【魔導師】でも自殺行為でしかないんだ。【怪獣】が『人の魔力』に反応してやって来るからね」


 【怪獣】が魔力を食べて生きていることは広く知られている。特に『人の魔力』を好むことは、今を生きる人々にとって常識と言っても過言ではない。


「個人的にも『どんな魔導が使われたのか』気になってね、現地の魔力の痕跡を解析してみたり、観測された情報から三つ分かったことがあるよ」


 男は分かりやすく指を三本立て、順番に説明を始めた。


「まず『転移系』の魔導ったことが分かったよ。それも『長距離型』なんか比べ物にならないほどに魔力を消費する代物っていうことがね」


 移動する距離が伸びるほど魔力を消費するのは当然だが、彼が消費した魔力量は地上を移動するにはあまりに多すぎる。

 それだけの魔力を効率的に用いるのであれば理論上――太陽まで移動できるのだから。


「二つ目にその『大規模』と言える転移の魔導を発動したのはたった一人。空間にある魔力を使用した形跡は無かったし、本当にすごい魔力量だね総護君。個人でそれだけの魔力を保有してる人と久しぶりに会ったから、本当にびっくりしたよ」


 今も多数の【魔導師】は存在している。だがそれはあくまで『資格』としてで、『職業』としての【魔導師】はそんなに多くはない。

 ほとんどの人々にとって魔導は『日常にある』存在であり、『探求』するものでも『研鑽』するものでもないからだ。それは魔力も同様で、『膨大な魔力』など日常生活において必要ないのだ。


 現在の平均的な魔力量を容易く上回っている彼らは、それだけでも異質と言えるだろう。まるでかつて存在した『魔術師』ようだ。


「最後に時空の歪み(・・・・・)を観測したんだ。たった一瞬だけだったけど、『別のどこかと繋がった』っていう明確な証拠だね。普通の〝転移〟じゃないって証拠でもあるよ」


 確かに通常の〝転移〟と呼ばれる魔導でも僅かな『空間』の揺らぎを観測することはできる。しかしそれは『歪み』と表現できるほどのものではないのだ。

 何よりも同一空間上での〝転移〟において『時間』が『歪む』など絶対に有り得ないのだから。


「それともう一つ気になることがあってね。――総護君が持っていた武器は何を加工して作られたのかな?」


 もう一度渇いた喉を水で潤すと男は彼らの背後へと視線を向けた。


「硬度は測定不能なほどに硬い。どうやっても傷つかないし、どう調べても材質が分からなかったよ。巻いてある布っぽいものも含めてお手上げ状態だし、ちょっと悔しいねぇ」


 表面を少し削ろうとしても当てたナイフの歯が欠け、布状の部分を鋏で切ろうとしても同じく歯が欠け、その他のあらゆる方法を試してもただ『硬い』ということしか分からなかった。


「あと分かったのは『地球上に存在しない物質』ってことくらいだね。――さて、ここまでが『真実じゃない』って思った理由だよ。理解してくれたかな?」


 一通りの説明を終えた男は改めて全員を見る。


「そして、ここからは僕の考えなんだけどね?」


 ――紛れも無く人間であり、なおかつ過去の知識は持っている。

 ――しかし今の常識を知らず、かつ状況を知らない。

 ――『日本にいた』とは言うが、全員を知っている男は彼らの存在を知らなかった。

 ――人間とは思えない量の魔力を保有し、『どこか』から転移してきた。

 ――【怪獣】を相手に戦える武器を持っている。



「僕は一つの仮説を立てたよ。もしかしたら君達は――」



 ――並行世界(パラレルワールド)から来たんじゃないのかな?

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