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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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六一話:仮定、来訪者について(上)

 

(ハハ、顔に出ちゃってるよ)


 男の言葉を聞いた少女達の表情は、露骨にぎこちないものへと変わる。

 同時にテーブルの上でくつろいでいた緑色の生命体は、その表情を悟られまいとしているのか男とは正反対の方向を向いた。


 しかし、彼の表情に変化はない。男が何を言っても変わらず、その視線は同じ。


「仰っている意味が分からないですね。『本当は』と言われても、詩織がした説明が事実ですから」


 観察ではない。どちらかと言えば見定めるような視線を――ずっと向けていた。


「そうだね、僕も詩織ちゃんの説明は事実だと思ってるよ」


 しかし、男は彼の視線を失礼だとは思っていない。


 確かに彼等を助けたのも、この場所へと連れてきたのも男の純粋な善意だ。彼に言ったように危害を加えるつもりは無いし、それに騙そうという気も無い。


 感謝されることはあっても、猜疑的な視線を向けられる謂れは無い――というのが、本来の男側の視点だろう。



 ――だが、それはあくまでも男側の視点でしかないのだ。



 彼からすれば、安全な場所や食事をほとんど無償で提供してもらったということになるだろう。

 それも――己の素性を一向に明かさない男から、だ。


 男の行動がただの善意なのか、それとも何か裏があるのか、決めあぐねているからこその警戒心だろう。


 だから男は、彼の視線を失礼だとは思っていない。それは男も同じような(・・・・・)ものだからだ(・・・・・・)


「でも、真実じゃない(・・・・・・)。そうだね――ェッ!?」



 ――彼と目が合った瞬間、バケツに入った氷水を一気に浴びせられたような寒気がした。



「――どうして、そう思ったんですか?」



 感情が欠片も感じられない無機質な声と表情であるはずなのに、まるで獰猛な肉食魔獣と――いや、それ以上のナニカと出会ってしまったかのような絶望感を感じる。


「理……由はいくつかあるよ。説明はっ、必要かな?」


 思わず逃げたくなる気持ちを必死に抑え、男はいつも通りを演じる。

 ――テーブルの下で己の意思に反して震える両足を何とか誤魔化しながら、だが。


 一応何があってもできるだけ対応できるように準備を整えた男だったが、あの【怪獣(カイジュウ)】に対して短時間とはいえ健闘していた彼を相手にするのは、できれば避けたかった。


(い、痛いのは嫌だしね)


 単純に男は痛みが嫌いというのもある。


 それに人には言語があり、知性や理性がある。話し合いで解決できるならそれに越したことはない。


(……胃に穴があきそうだよぉ)


 返答を待つ男には、無言の時間が時間がとても長く感じられる。


「――そうですね、お願いします」


 お互いの顔を見合わせた彼らの答えは今のところ平和的で、一安心だった。

 男は緊張で渇ききった喉を近くに置いてあった水で潤すと、説明を始める。


「まず、勝手だけど君達三人が人間かどうかをこっそり調べさせてもらったよ」


 まず最初に、男が彼らとこの場所――『独立居住施設』へと移動して行ったのは『調査』だった。

 気付かれないように肉体や骨格の構造、DNAや魔力の波長など現状で調べられる限りを調べ尽くし、彼らが『何なのか』を突き止めた。


「結果だけど君達三人が歴としたヒト――つまりホモ(・・)サピエンス(・・・・・)ってことは確定して、あとピー助君は精霊ってことが分かったよ。うん、珍しいよねぇ」

「―――っ――」


 そう男が説明した時、今まであまり変化のなかった彼の表情が少しだけ驚きに染まった気がした。


「ごめんね? 悪いとは思ったんだけど、ちょっと好奇心とかが抑えきれなくてね。それに気になったら調べたくなるのは学者の発作みたいなものだから、大目に見てくれると助かるよ」


 そう、男は彼らに興味を持った。だからこうして言葉を交わしているのだ。


「『好奇心』って、ただの人間と精霊ですよ? まぁ、確かにピー助は珍しいかもしれませんけ――」

「――いや、珍しいのはピー助君も含めて君達全員だよ(・・・・・・)

「………『全員』、ですか?」

「うん、全員だね」


 男の言葉を聞いて彼の表情にも疑問符が浮き出てくる。やはり、本当に何も知らないようだ。


「そうそう。ここ、窓が無いでしょ? もしかしたら気付いてるかもしれないけど、僕らは『地下』にいるんだ。――ねぇ、詩織ちゃん、どうしてだと思う?」


 黒髪の少女は急に名指しで呼ばれたことに驚きながらも、男の質問に答えた。


「――えっ、か、【怪獣】がいるから、ですか?」

「そう、その通り。地上には【怪獣】がいるからね、生き延びるには地下に逃げるしかなかったんだ。……なんせ深海まで追いかけてくるからね」


 かつて深海に『居住地』を建設していた時に、【怪獣】によって一撃で粉砕されたのは男にとっても苦い思い出だ。


「だから地下が生き残った人類の新たな生活の場になったんだ。ここ――『独立居住地』もそのうちの一つだよ。といってもここは他の『集落』とは違って簡易的な場所だけどね。――陽南ちゃん、どうしてだと思う?」


 次に男は明るい少女を名指しで呼ぶ。


「――う、ウチ!? えっと、簡易的なのはぁ。……ん〜、分からんわぁ」

「ははっ、ごめんね、ちょっと難しい、――意地悪な質問だったかな」


 それぞれの集落に住んでいる人々ですらこの場所を知っているのは一握りであり、色々と知識がちぐはぐな彼らが知っている訳がない。


 ――だからこそ、彼らをこの場所へと招いたのだが。


「『独立居住地(この場所)』はね、ちょっと話し合うための場所なんだ。この意味、分かるよね――総護君?」


 男は改めて彼へと視線を向ける。



「……つまり『独房』じゃなくて『雑居房』かよ」



 男の真っ直ぐな視線の先で、小さく呟きながら彼は頭を搔いた。

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