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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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六〇話:現状把握

 

「遅かったわね。着替える……というか、着るだけだったんじゃないの?」

「ピー助に色々聞いてたんだよ。……っと、手伝うぞ?」

「はいはい、さっきまで寝ちょった人は大人しく座っとって」

「へいへい」


 六、七人分の食器を並べられるであろう大きな木製の長テーブルと椅子が五つ。

 その扉から近かった席に促されるままに座りかけた総護は、気付いたように立ち上がり少女達の手伝いを申し出るが軽くあしらわれてしまった。


「いや〜、それにしても助かったよ。僕は料理は好きなんだけど何故か上手くいかなくてね。焦げたり、変な味になってない料理は久しぶりだよ」

「いえ、助けてい(・・・・)ただいた(・・・・)のに、これくらいでしか恩を返せませんから」

「だけん気にせんでいいですよ〜」

「『恩』だなんて、そんなに重く受け止めなくていいよ」


 そんな少女達と男の会話を聞きながら、総護は、


(――陽南がエプロン使ってんの家ではあんま見なかったけど、なんかいいな。それに詩織って動く時とか以外でポニテにすんの珍しいし、やべぇニヤけそう)


 ――真剣な眼差しで、そんな事を考えていた。


 ちなみに、前からはエプロンで見えなかったが黒のTシャツとしホットパンツの陽南が可愛いとか、白のロングスカートとシャツの詩織も可愛いとか、そんなことも考えていた。


 そうしているうちに詩織と陽南によってテーブル上に並べられていく料理の数々。

 パスタや茸のスープ、卵と野菜のサラダに唐揚げなど様々な種類があるので、見ているだけで食欲が湧いてくる。


「それじゃあ、食べようか?」

「「「「いただきます『ッス』」」」」


 そうして和やかな昼食が始まり、料理の感想を喋っている間にいつの間にか完食してしまっていた。


「ご飯も食べたし。遅くなったけど自己紹介といこうか」


 そう言って男は軽く衣服を整えて口を開く。


「んんっ、僕の名前はブレイン。『ドクター』でいいよ、もうそっちの方が慣れちゃったからね」


 男――ドクターは気の抜けた笑顔で名乗った。


 改めて視線を向けるとあまり外見などを気にしていないのか、軽く整えても直らない乱れっぱなしの金髪やくたびれた白衣が特徴的だった。

 確かに、『先生(ドクター)』と呼ばれるような見た目だ。

 それに服装や漂う雰囲気を引き締めればかなりの美丈夫(イケメン)に変身すると思われるが、現状がこの状態なのだから外見などに興味はないのだろう。


「俺は最上総護です。それと、さっきは本当にすいませんでした」

「いいっていいって。さっきも言ったけど気にしてないから」

「ですが――」

「――それに、仕方ないよ。あんなの(・・・・)と戦った後なら、尚更ね」

「……見てたんですか?」

「正確には『僕が辿り着いた時には既に戦ってた』ってところかな?」

「あぁ、なるほど。そうだったんですか」


 ほんの一瞬だけ総護から感じた不穏な空気を誤魔化すように、陽南は経緯を説明する。


「えっと、ドクターはウチらをここに連れて来てごしたんだわ。総ちゃんは気絶しとったけん、覚えとらんと思うけど……」


 どうやら陽南と詩織が走って逃げた先でドクターと出くわしたらしい。

 そしてピー助と意識を失った総護が合流した後に、現在地に〝転移〟して逃げた、という事だった。


「それにしても厳しいご両親だよね、このご時世で『世界を見てこい』だなんて」

「……そう、なんですよっ。ホントに信じられないですよね」


ドクターの口から知らない設定が飛び出してきて危うく『は?』と聞き返しかけた総護。


『……詩織、俺らの事をどう説明したんだよ?』

『安心して、抜かりはないわ』


〝伝心〟でそんな設定を考えたであろう張本人に聞くと、自信に溢れた返答が返ってきた。



 ――遠くにある小さな島に住んでいた。

 ――自衛のできる年齢になり、それぞれの両親から『旅に出ろ』と言われた。

 ――何とか陸地に到着して休んでいたところ、『烏賊擬き』に襲われた。



『――ククク、我ながら完璧な物語(ストーリー)だわ。違和感なんて皆無なのだからっ!!』

『微妙に事実を織り込んでんなぁ。つかドヤんな、ドクターに気付かれんぞ』


「君達が遭遇したアレの事を、僕は【怪獣(カイジュウ)】って呼んでるんだ」

「かい、じゅう……ですか?」

「そう、【怪獣】。なんせそうとしか呼べない存在だからね。コホン、それでは僭越ながら色々と説明しよう」


 そう言ってドクターは説明を始めたので、総護達は口を閉じた。


「もう随分と昔の事だけどね、世界中で『魔力』が異常に(・・・)濃くなったんだ」


 かつてのこの世界では『魔力』という力は総護の世界と同様一般的には架空の存在だったようだ。

 だから殆どの人類は『魔力』を認識できず、極わずかな限られた人類――魔術師にしか認識出来なかった。


「『突然現れた未知のエネルギー』なんて当時は世界中でビッグニュースになったよ。それだけならよかったんだけど……」


 顔には出さなかったが――最悪(・・)だ、と総護は思う。そしてその考えは当たっていたようだ。


「世界中の殆どの人が『魔力中毒』になってね。そこら中で失神や昏倒、ショック死で人が倒れて、それはもう大惨事さ」


 人間にも魔力耐性は存在するが、意図的に鍛えていなければ脆弱と呼ばざるを得ないものだ。

 そもそも『魔力』を知らなければ――使えなければ魔力耐性など必要は無いし、無くても困らない。


 ――だから『急激に魔力が濃くなる』という異常事態は壊滅的な被害をもたらす。


「この『魔力災害』によって全世界の人口の約三割が死亡、そして約三割が廃人同然の状態になってしまったんだ」


 残った人数は約四割。

 全人口がどれ程の数だったかは分からないが、膨大な数の犠牲者が出た事は想像に容易い。

 まさに未曾有の災害と言っていいだろう。


「でも復興するまでにそんなに時間はかからなかったんだ。生き残った人達は『魔力』との親和性が高かったからね、その力を工夫して使うことができたんだ」


 『魔力』という新たなエネルギーは人類の生活を一変させた。


 最初は火力、原子力発電に替わる発電方法として、後に『魔力』そのものが電気に替わるエネルギーとして利用されるようになった。


「古くから存在していた魔術師の知識とそれに生き残った科学者達の知識を合わせて発展させ、新たに『魔導(まどう)』という分野が生まれてね。世界は以前よりも豊かになったよ」


 同時に『魔導』という力を使える資格――【魔導師(まどうし)】が誕生したという。


 それから子供達は学校を卒業するまでに【魔導師】の資格を取得する事が普通になり、その後それぞれの職業へと進んで行く。

 もうその頃には『魔導』はあらゆる職業と結び付いていたという。


 『魔導』により環境問題などが改善され、復興以前よりも遥かに住みやすい世界になったようだった。


「――そんな『魔導』最盛期に、【怪獣】が現れたんだ」


 【怪獣(烏賊擬き)】が初めて確認された時、誰しも脅威だとは思わなかったという。


「どの国も『魔導』による武器や兵器の開発を水面下で行っていたし、優秀な【魔導師】は一人でかつての軍隊以上の戦力を持っていたからね。何より【怪獣】をただの『大きな魔獣』だと決めつけていたんだ」


 『魔獣』とは魔力によって既存の生態から大きく外れた動物のことを指し、そのどれもが独特な変化を遂げ極めて獰猛で強い生命力を持っている。


 以前の人類では考えられない脅威ではあったが、『魔導』を思うままに操れる人類にとっては害獣以下の存在。それが『魔獣』への認識だった。


 それに一国の戦力――軍事力は以前と比べれば雲泥の差であり、『魔獣』よりも他国の方が脅威と考えるのは当然だろう。


 【怪獣】を脅威だと人々が認識したのは、海沿いの国が蹂躙された後だった。


「地上を進んで行く【怪獣】を何回か撃退する事はできたんだけどね、徐々に撃退すらできなくなったんだ」


 集団での大規模な攻撃が効きづらくなり、そして効かなくなった。

 兵器による攻撃が効きづらくなり、そして効かなくなった。


「どうやら【怪獣】の耐性が段々と上がっていたみたいでね、こちらの攻撃が通じなくなっていたみたいなんだよ」


 攻撃を重ねる度に【怪獣】は着実に強くなっていたという。


「でも、どの国も上層部は先しか見ていなかったんだ。【怪獣】を倒した後、『いつの間に大量殺戮兵器を開発していたんだ』っていう他の国や国民の批判に対してどう言い訳するのか――そんな下らないことを考えて、選択を間違え続けた」


 当初、【怪獣】を一撃で倒せる威力の兵器は存在していた。だが、その兵器を使うタイミングを先延ばしにし続けていた。

 皮肉にも水面下での兵器開発が仇となっていたのだ。


 『あの国があれ程の威力の兵器を使ったのだから、自国のこの兵器を使っても文句は言われないだろう』


 そうして使うべき兵器を最初から使わず、必要のない攻撃(選択)を続けた結果――


「つまりたった一握りの人類のせいで、存亡の危機に追いやられてしまったんだよ」


 ――人類の如何なる攻撃を受けても傷つかない、正真正銘の【怪獣】へと変貌してしまった。


「【怪獣】によっていくつもの国が地図上から消えていって、もう後がなくなった時、国々はまた選択を間違えたよ」


 心底冷たい声でドクターは語った。


「――核爆弾を使ったんだ、それも【怪獣】が進む方向も含めて。そこにはまだ逃げ遅れた人達が沢山いたにも関わらず」


 日本人である総護達は核爆弾の恐ろしさを知っている。その凶悪な兵器は容易く人を蒸発させることも、放射能による影響が周囲の土地や人に甚大な被害をもたらすことも。


 この世界では既に骨董品となっていたであろう兵器を使用したこと。それが切羽詰まった故の選択だったとしても、とても擁護できる選択では無かった。


「……本当に馬鹿げた選択だったよ。放射能は【怪獣】に多少の影響を与えた程度で殆ど無傷だったんだから」


 その後は【怪獣】による蹂躙と放射能による影響が人々を二重に苦しめたという。


「それから人類が絶滅しかけた時にちょっとした手助けがあってね。だから今も何とか生き長らえてるんだ。いやぁ、人間何とかなるものだよねぇ」


 ドクター気の抜けた笑顔を総護達に向けながら、そう締めくくった。


「それでここまでが今の常識なんだけど、理解できたかな?」


 確認するようなドクターの声に全員頷くしかなかった。

 予想以上に壮絶な内容を聞いて、総護もどう答えたらいいのか分からなくなっていたからだ。


「それじゃあ、もう一回聞いてもいいかな?」

「……何をですか?」


 そんな詩織の反射的な声に、ドクターは笑みを崩さないまま質問を投げかけた。





「――君達は、本当はどこから来たのかな?」

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