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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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五九話:掠める違和感

 

 『ドクター』と呼ばれた金髪の男の言葉を思い出しながら総護は一人、狭い部屋で着替えていた。


(俺が言うのもアレだけどよ、いきなり引き倒されて、関節極められて、気絶させられかけたんだぞ? 普通は文句言うとか嫌味やらなんやらあんだろ)


『――アハハ、いいよ、気にしてないから。誤解も解けたみたいだしね』


 ゴッ、と頭を床に打ち付ける勢いで下げた総護に対して、男はそう言ってあっさりと許した。それも、笑みを浮かべながら。


『僕らは向こうにいるから、着替えたらおいでよ。お昼ご飯の準備もできたみたいだしね』


 立ち上がってすぐ、そう言い残して男は部屋を出ていった。


(マジ聖人だろ)


 無論、総護には男を殺す気など一切無かったが、脅された相手にしてみればそんな事は分からないはずだ。

 殺気を露にし、己のすぐ近くで魔術まで使うような人間の『殺す気など無い』と言う言葉のどこに説得力があるというのか。


 殺されそうになったにも関わらず罵詈雑言も無く相手を許せるなど、類を見ない程の底抜けの超お人好しだ。

 ――それこそ『聖人』と呼べる程のもの。きっと懐がマリアナ海溝よりも深いのだろう。


(ん〜? なんか、引っかかんだよなぁ?)



 しかし、改めて考えてみると違和感があった。



 例えば急に首にナイフを突きつけられ、押さえつけられたら普通ならどういう反応をするだろうか。


 恐らく大半がパニックに陥り、頭が真っ白になるだろう。そして状況が理解できずとも――


 『やめてくれ』

 『殺さないで』

 『死にたくない』


 ――そう言うか、思うはずだ。誰だって我が身は可愛いのだから。


 でも、『ドクター』と呼ばれた男は違った。


 男は確かに怯え(ビビっ)ていた。それは間違えようの無い事実だ。



 だが、はたしてそれは――総護に対して(・・・・・・)、だったのだろうか?



 『待って』、『落ち着いて』、『止めて』、『話し合おう』と、男は言っていた。別にトンチンカンな事は言っていた訳では無い。

 そして詩織と陽南に助けを求めたのも、別に不思議な事では無い。事実として、総護は詩織と陽南の行動で冷静になり頭を下げたのだから。


「――まぁ、悪い人っぽくは見えなかったし。色々確認してからでも遅かねぇだろ」


 結局、そんなフワッとした結論にしかならなかった。


 それからいつの間にか止まっていた手を動かし、陽南が持ってきた上着のポケットへと手を入れた――


「アニキ〜、着替え終わっ――なんでまだパンイチなんスか……?」


 ――時に、ピー助が部屋に入ってきた。


「考え事してたんだよ」

「早くするッスよ、みんな待ってるッス。そ、れ、に!! ご飯冷めちゃうじゃないッスかっ!!」

「今行くっつの」


 ポケットの中を探っていた総護は中から白地のTシャツと黒の長ズボン、動きやすいシューズを出して素早く着る。


「こっちッスよ〜」


 フワフワと浮かぶピー助を先頭に総護は外へと踏み出す。

 そこには等間隔に吊るされている照明器具と長い廊下があった。


(……廊下にも窓が無ぇ、それに壁はツルツルしてんな。混凝土(コンクリート)、か?)


 部屋と同じく窓が無い廊下。壁にも天井にも床にも継ぎ目が無く磨き上げたように手触りの良い質感だった。


「こっちの部屋にアニキの『十手』とかが置いてあるっス。で、この先が詩織さんと陽南さんの部屋で、あっちが『ドクター』の部屋で、向こうに食堂があるっス」


 ピー助の説明によると他にも浴室や会議などができる広い部屋がある、との事だった。

 どうやらこの一本の廊下を中心にして部屋があるらしい。


「着いたッス」


 そんな説明を受けているうちに廊下の突き当たり、総護がいた部屋の反対へと辿り着いた。


「呼んできたッス〜」


 ドアノブを伸ばした蔦で器用に回したピー助は中へと入っていく。


「すいません、遅くなりました」

「ハハッ、そんなにかしこまらなくていいよ。さぁ、座って」

「あざっす」


 初対面の時とは打って変わって礼儀正しく接する総護を、男は笑顔で出迎えた。

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