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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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五八話:早合点

 

「――知らねぇ天井……と、知ってる毛玉だ」


 目が覚めてまず総護の目に入ったのは木製の天井、そして毛布を挟んだ胸の上で寝ている毛玉(ピー助)だった。


「どこだ、ここ?」


 だるい身体を起こし、転げても起きないピー助をそっと枕の横に置くと総護は室内を見回してみる。


 木製の簡易的なベッドに机と椅子、天井には暖色系の照明器具のみというシンプル・イズ・ベストを体現している狭い空間。

 窓も収納スペースも無く、出入口であろうドアがたった一つあるだけ。


「……捕まった覚えはねぇぞ? つか、服とかも没収されてんじゃねぇかよ」


『独房』という単語が頭に浮かぶ上に、下着姿も相まって余計にそう感じる。


(烏賊擬きと戦ったのは覚えてる。ピー助が来たのも覚えてる。んで、ピー助の〝転移〟で逃げた……よなぁ?)


 とりあえず総護はボヤけている頭を動かして、覚えてる限りの出来事を思い出していく。


「あ〜、不調のオンパレード過ぎて落ちたのか?」


 頭痛、目眩、悪寒、倦怠感、吐気、疲労等を気合いで抑え込んだ反動(ツケ)が返ってきたのだろう。

 緊張感が切れて意識を失った事が容易に想像できる。


 まとめると、ピー助と共に〝転移〟した総護は気絶したままどこかへ運ばれ、気付かぬうちに獲物と服を回収され、狭い部屋へと放り込まれた――という事になる。


(これ、捕……虜じゃねぇか!?)


 そう思い至った瞬間、総護は完全に目が覚めた。


『おいピー助、呑気に寝てる場合じゃねぇ。説明、何がどうなってここにいんのか説明しろッ!!』

「――ふぁ!? アニキ、ようやく起きたんス――キュッ!?」

『バッカ、大声出すんじゃねぇよ!! 俺の事はいいから詩織と陽南はどこだ!?』


 ピー助を叩き起し〝伝心〟で疑問をぶつけ、騒がしい口を片手で塞ぎながら総護は周囲の気配を探る。


(――っ、気付かれたか?)


 見回りなのか、それとも総護の動きに気が付いたのか。足音を隠すことも無く、何者かが近付いていた。


『ア、アニキッ。落ち着いて欲し――』

『――この状況で落ち着いてられっか!!』


 そうこうしているうちにドアが二回叩かれ、ドアノブがガチャリと回される。


「入るよ〜、もう起きたか――ながぁッ!?」


 ドアが開き何者かが入ってきた瞬間に総護はピー助をベッドへ放り投げる――運悪くピー助はベッドの角に激突し悶えているが、そんな事は気にしない――と、問答無用で床へと侵入者をうつ伏せに引き倒す。

 次に抵抗できないように素早く両腕の関節を極め、身体の上に跨って自由を奪う。

 最後に軽く殺気を放つと同時に侵入者――金髪の男からも見える位置に放電する〝雷槍(サンダー・ランス)〟を待機させる。


『黙れ、動くな、質問に簡潔に答えろ。抵抗するなら、どうなるか分かるな?』


 ほんの一瞬。反撃の隙も与えず、実に鮮やかな手並みで『脅す側』の体勢が整った。


「――イダダダッ、ちょっと待って、ストップ!! 君に危害を加えるつもりは無いから!! 本当だよ!?」

『黙れ。いいから答えろ』


 ゆっくりと浮遊する〝雷槍〟の先端が男に近付いていく。


『他にも私のように捕らえているんだろう? どこにいる?』

「〜〜〜っ!? ちょっと待って、お願いだから……っ!!」


 男は怯えてはいるが、何も総護の質問には答えようとしない。


(この筋肉の付き方は前線張るタイプじゃねぇな。つか上手く誤魔化しちゃいるがそこそこな魔力量っぽいし、こいつ魔術師か?)


 抑える腕や僅かに感じる魔力の揺らぎ等をを手がかりに、総護は男を分析していく。


(黒のジャージに、羽織ってんのは白衣、ありゃサンダルだよな? 『あっち』と似た世界なのか?)


 男の服装は総護達のいた世界に通じるものがあった。もしかすると同程度の文明レベルなのかもしれない。


「止めてっ。刺さる、あとちょっとでホントに刺さっちゃうからっ!!」

(……にしても、こいつ全然吐かねぇな。クソッ、こんな事しねぇでさっさと動きゃよかった)


 脅しに屈さず一向に具体的な事を何も答えようとしない男。

 既に眠っていた時間を無駄にしているので、これ以上時間をかける訳にはいかない。一刻も早く詩織や陽南と合流しなければならないのだ。


 ――だから、得られる情報が無いのなら用は無い。


 そう結論付けた総護は〝雷槍〟の先端を首筋へと向け直し、その出力を下げる。


「待ってっ、話せばきっと僕らは分かり合えるから!! そう、まずは落ち着いて話し合おうよ!?」

『安心しろ、殺しはしない。お前達が私の仲間に危害を加えていなければな』

「っ、待っ――」


 男の言葉を無視し、総護はスタンガン程度に調整した〝雷槍〟を突き刺――



「――し、詩織ちゃ〜ん、陽南ちゃ〜ん助けてぇ〜!!」



 ――そうとして、止まる。


「―――――は、ぁ?」


 そう、止まらざるを得なかった。


 脅されてる状態で助けを求める、というのは理解できる。だが、助けを求めた相手が予想外だった。


 一瞬の空白と、二人分の足音がやって来た。


「は〜い、『ドクター』? 呼んだ――どーいう状況だ!?」

「――何があったの!?」



 うつ伏せに組み伏せられている『ドクター』と呼ばれた男。

 その上に座りながら魔術を使用している総護。

 床に転がって悶えているピー助。



 ――そんな混沌とした状態の部屋を見て、男の悲鳴を聞いてやって来た私服姿の詩織と陽南も困惑していた。


「『ドクター』、大丈夫!?」

「ああ、平気だよ。ただ……あと少しでお昼寝しそうだったけどね」

「総君は早く魔術を消して『ドクター』の上から退いてっ」

「お、おう」


 陽南と詩織によって半ば無理やり男から引き剥がされた総護だったが、まだ現状に理解が追いついていなかった。


「――はぁ。でも、これで安心してくれたかな?」


 立ち上がり服を軽く叩いた男は、安堵したような声で総護へと喋りかける。

 その声が総護に届くと同時に、左右から非難の視線が突き刺さった。


(あ〜、そういう事かぁ)


 ここでようやく総護の理解が追いついた。つまり――



「――すいませんでした……っ!!」



 ――全力で頭を下げる必要があるらしい、と。

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