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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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五六話:未知、襲来

 


「………着いた、みてぇだな」


 周囲を軽く見回しながら、総護は呟いた。


 総護を囲む木々やか細い木漏れ日、聞こえてくる鳥と虫の鳴き声。どうやら〝転移〟した先は、どこかの森の中。


 〝界渡(かいわた)り〟は無事、成功したらしい。


「『森の中』……スタート地点としては悪くないわね」

「王道ッスね」

「あ、見て見て。めっちゃおっきい蝶々がおるよ」

「オイラの三倍ぐらいあるッス!!」


 総護の頭からフワフワと離れて行ったピー助を交え、喋り出す詩織と陽南。


 そんな詩織達とは一転して、総護の表情は暗い。


(………ぅぶ。やべぇ、魔力ほとんど、持ってかれちまった)


 〝界渡り〟によって想定していた以上に魔力を消費したため、強烈な吐き気と頭痛、倦怠感が総護に襲いかかっていた。

 如何に総護の保有魔力が膨大であろうともやはり世界を跨ぐ〝界渡り〟の代償は大きく、残った魔力は雀の涙程度だった。


(―――っと)


 立っている事もままならず、膝をつく総護。魔力切れの感覚は随分と久しぶりだった。


「アニキ!? 大丈夫ッスか!?」

「……ただの魔力切れ(ガス欠)だから、心配すん―――」

「―――何言ってるの? 心配するに決まってるじゃない」


 額に添えられた詩織の手によって仰向けに倒される。後頭部からは地面よりも遥かに柔らかい感触が返ってくる。


「……恥ずいんだが」

「そんな事気にしてる場合じゃないわ。顔色、最悪よ?」


 それは俗に言う膝枕。しかし残念な事に、その感触を楽しめる余裕は今の総護には無い。


「総ちゃん、お水と魔力補給薬(ポーション)どっちがいい?」

「……とりあえず、水」


 自身の近くに魔法陣を展開させた陽南はその中に手を入れ、ペットボトルを取り出す。


「はい。もう、無茶すぅけんだよ?」

「……サンキュ、詩織、陽南」


 少し起き上がり、手渡されたペットボトルを傾け水を飲む総護。

 詩織が〝回復(リカバリー)〟をかけてくれているおかげで楽にはなるが、動ける様になるまで多少の時間がかかりそうだ。


 なんとも幸先の悪いスタートだ、と鬱蒼と茂る木々を見上げながら思っていた総護だが、そこである事に気が付く。


「―――なんか、ここ魔力濃くねぇか?」



 ―――周囲の魔力濃度がとても濃い事に。



「え、今さら気付いただ?」

「んな事気付く余裕なんかなかったんだよ。つか気付いてたんなら言ってくれよ」

「言うより先に総君が蹲ったんじゃない」


 陽南と詩織は既に気付いていたらしいが、言い出すタイミングがなかった様だ。


「それは……すまん。それより、動くぞ」

「あ、総君っ。まだ動いたらダメよ」

「多少は楽になったから問題無ぇよ」


 詩織の膝枕から重い身体を起こし、引き止める詩織の手を優しくどかしながら急ぐ様に総護は立ち上がる。

 その表情が険しいままなのは、体調不良だけが理由でないのは明白だった。


「ピー助、一応聞いとくが調子はどうだ?」

「最高ッス!!」

やっぱりか(・・・・・)。なら上からなんか見えるか見てこい、あと〝探知(サーチ)〟で周りの確認と、『会話』できんなら情報収集も頼むわ」

「ウッス」


 矢継ぎ早にピー助へと指示を飛ばすと、ピー助はそのまま三人の頭上へと飛んで行く。


「……総ちゃん? きゅ、急にどげしただ?」


 陽南には総護が体調不良を押し殺してまで動き出した理由が分からなかった。


 しかし、その理由は単純だ。



「―――魔力が濃すぎんだよ(・・・・・・)



 ただ、『魔力が濃い』という事。それだけだが、その事実が重要なのだ。


「なにが、いけんだ?」

「………?」


 しかし、陽南にはいまいちピンと来ていないようだ。詩織も同様らしく、首を傾げている。


「婆ちゃん達から聞いてねぇのか? 『パワースポット』の事をよ」

「―――ああ、そういう事ね」


 だが、総護のヒントで詩織は気付いたらしい。


「『パワースポット』って霊場とか聖地とか龍穴とかだが?」

「その特徴は?」

「えっと、一般的には病気とか怪我の回復、運気の上昇。魔術的には何らかの魔術的作用が自然に働いたり、魔力が溜まりやすい場所とか、強大な存在が封印されとって魔力が特別濃ゆい(・・・)―――あっ」


 陽南も遅れながら気付いた様だ。


「考えられる可能性は今んとこ二つ」


 総護は二人を見ながら説明を始める。


「まず、この場所が『パワースポット』って可能性だな。『なんか』が埋まってるか、良くも悪くも現地人にとって大事な場所ってな感じでな。パッと見て魔力が溜まる様な場所っぽくねぇし」


 総護としてはこちらの可能性は遠慮したいところだ。面倒な未来しか見えないのだから。


「『なんだ貴様達は!? 聖域を汚す異教徒め、処刑しろ!!』とかかしら?」

「……目がマジな連中と鬼ごっこはスリルがあって楽しいぞ? あとうっかり封印ぶっ壊すともっと楽しいぞ?」

「総ちゃん、大変だったんだね」


 陽南の優しさが心に染みた総護だった。


 そしてもう一つ。


「次に、この世界の空気中の魔力が濃いって可能性だな」


 総護はこちらの可能性であることを願うばかりだ。


「もしそうなら、どげすぅだ?」

「どうもしねぇ、休憩再開に決まってんだろ。とりあえずピー助待ち―――」

「―――アニキ!!」


 そんな説明をしていると、ピー助が帰ってくる。


「逃げなくていいッスよ!!」

「んじゃ、仮眠するわ」

「って、もう横になっとる……!?」


 ピー助の報告を受けた総護は、聞き終わるまでに休憩の体制へと移行する。実に無駄のない動きだった。


「ピー助、それだけじゃ私達には分からないわ」

「もちろん、説明するッスよ」


 腕を枕にしてもう寝息が聞こえ始めた総護の横、座り込んだ詩織と陽南に向けてピー助は説明を開始する。


「〝探知〟の結果ッスけど、オイラ達にとって危険な反応は近くに無かったッス。あっても動物っぽい反応ぐらいッスね」

「『近く』って、ピー助はどこまでなら調べられるの?」

「だいたい一キロぐらいッスね」

「すご!?」

「フヘへ、照れるッス〜」


 ピー助の報告を簡単に纏めると、


『周囲約一キロ以内に危険な反応は無し。魔力が濃いのは、ここではこの濃度が普通』


 という事だった。


 ちなみにピー助がどうやって魔力濃度の事を調べたかというと、これもまた単純な事である。


「やっぱり便利よね、植物とも『会話』できるのは」

「なんせ『植物』の精霊ッスからね………たぶん」


 鳥を含めた動物達や辺りの木々から情報収集をしたからで、〝伝心〟とは違うピー助の誇れる能力の一つだ。


「あ〜、そーいえば鳴子さん達でも『よく分からない』って言っとったねぇ」

「オイラは別に気にしてないッスよ? アニキの舎弟でいられるならノープロブレムッス」

「ピー助がいいなら、いいけどさぁ」


 鳴子やユランが調べても『ピー助は精霊である』という事しか判明しなかったので、ピー助も自分の事はほぼ諦めていた。


「……そう言えば『変わる』と『大きい』が要注意らしいッスけど、オイラにもこれ以上はよく分かんなかったッス。分かるッスか?」


 そんな自身の事は置いておいて、ピー助は情報収集の中で不穏だと思われる情報を共有する事にした。


「ん〜、それだけじゃウチにはさっぱりだわぁ」

「さすがに情報が少ないし、抽象的すぎて何とも言えないわね」


 一見とても便利に思われるピー助の能力。

 しかし欠点として動植物は言語や思考回路が違うため、今回の様に会話の内容が抽象的になる事があり、得られた情報が理解できない場合もある。


 それに、どうであれ今は総護の回復を待つしかない。


 ピー助は念の為に〝探知〟を続け、詩織と陽南も感覚を研ぎ澄ましつつ、いつでも動ける状態を保っていた。


「上から他に見えんかっただ? 人が住んでそーな場所とか?」

「見渡す限り森だったッスね、樹海ってやつッス」

「……どこかに『聖剣』とか刺さってそうね」

「『迷宮(ダンジョン)』とかもありそうッスね!!」


 過ごしやすい気温の中、たわいもないお喋りをしながら総護が起きるのを待っていた。


 少し前とは違い穏やかな時間が流れていた。気を抜くと総護につられて寝そうになる程に平和だ。


 雲の影響か辺りが暗くなった時、







「―――伏せろッ!!」






 ―――ゾワッ。







 飛び起きた総護の声とほぼ同時に―――まるで背中に氷柱をねじ込まれた様な強烈な悪寒が全身を駆け巡る。



 次いで響き渡る轟音が悲鳴を掻き消し。


 吹き飛ぶ木々がその衝撃の大きさを表し。


 舞い上がる大量の土砂が、異常事態をこれ以上ない程に告げている。




 ―――超重量の(・・・・)物体の落下(・・・・・)、という異常事態を。




「クソッ、たいして休めなかったじゃねぇかよ。つか、今来んな(・・・・)―――って、おいマジかよ……っ」


 瞬間的に発動した〝魔気合一〟により全員を包む様に『守護』を展開した総護は、焦りを滲ませながら独り言ちる。



 ―――まさかこんなにも早く相対するなど想定外だった。



「全員、逃げる準備しといてくれ」


 もうもうと立ち込める土煙の先を見据えながら、総護は指示を出す。




「あんま持たねぇわ」




 その視線の先には―――強大で禍々しい存在感を放つ『山』の影があった。

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