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これは守護者の物語  作者: 橋 八四
二章 空の下、君と歩くための物語
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幕間:新暦二年一月一日、とある家族の一幕

 

「さっきまでは夏だったのに。まったく、風邪引いちゃうじゃないか」


 白衣姿の男は部屋の暖房器具を操作しながら窓の外に目を向ける。


 いつも見ているボサボサの金髪や気の抜けた表情の向こう側が、吹雪によって先が見通せない程に白く染っていた。

 少し前まで真夏の様な快晴だったのだから、相変わらず予測がつかない天気だ。


(……これは、まだ外に家を建てるのは早かったかな?)


 メキメキと今にも吹き飛びそうな『自宅兼研究所』の中で、男は思案に耽る。


(新年を迎えるタイミングでもあったし、地下での生活も飽きてたから丁度良かったんだけど……あれ? そういえば〝強化〟のスイッチOFFにしてたっけ? う〜ん、どこに置いたっけ?)


 メキメキという音がメギメギという音に変わり、いよいよ屋根が吹き飛びそうになってきた時―――


「ドクター、ただいまぁ!!」


 ―――少女が扉から駆け込んで来た。


「おかえり、アーファ」


 扉から入ってきたのは防寒着を着た黒髪の女の子だった。


「なんでそんなに落ち着いてるの!? 屋根から凄い音がしてるよ!?」

「実は〝強化〟のスイッチが見当たらなくてね」

「そのポケットの膨らみじゃないの!?」

「お〜、こんなところに。ありがとうアーファ。今日は野宿しなくてよくなったよ」

「いいから早くスイッチ入れてぇ!!」


 どうやら屋根が吹き飛ぶという結果は回避する事ができた様だ。


「はい」

「……ありがとう」


 防寒着を脱いで椅子に座った少女へ、男はホットココアをカップへと注ぎ手渡した。


「はぁ〜、あったかい」


 両手でカップを持ってココアを飲み、ほっと一息着いている愛嬌のある少女を男は柔らかな表情で見ている。


「それで? 今日はどこまで行ってきたのかな?」

「今日は『魔導バイク』で海まで行ってきたわ」


 が、少女の今日の行動を聞いて眉をひそめる。


「気を付けないといけないよ? 『怪獣』がいなくなったからといって、『魔獣』は普通にそこら中にいるんだからね?」

「わかってるって。でも私も『魔導師』なんだから『魔獣』ぐらいへっちゃらよ」

「自信を持つのはいい事だけど、過信は駄目だよ。いくら優秀な『魔導師』だと言っても、まだアーファは九歳なんだから」


 さっきまでとは違い、男が少し厳しい表情をしているのは心配の現れだろう。


「……ごめんなさい」

「うんうん、理解してくれて何よりだよ。ココア、もう一杯いる?」

「うん、ちょうだい」


 しかし、そんな表情もつかの間。真摯に謝ればいつだって許してくれる、それが少女の父親だ。


「そういえば、どうして防寒着なんて持ってたのかな?」

「『ソナーアレバ、マレーシア』って前にソーゴが言ってたから。一応持って行ってたの」


 ココアを受け取りながら、ふふんと胸を張る少女。


(『備えあれば憂いなし』って言いたいんだね。でもさすが僕の愛娘だ、偉いぞっ!!)


 言っている内容は意味不明だが、意味を完璧に理解しているし、何より可愛いので、それでいい事にした男。


 存外に親バカかもしれない。


「……今頃、どこでなにしてるのかなぁ?」


 パタパタと足を動かしながら、少女は小さな声で呟いた。


「どこだろうと、変わらないと思うよ」


 『彼ら』と過ごした時間は男からすれば短い期間だった。


「きっと元気にしてるさ、だって彼らは―――」


 しかし、その出会いは男の人生において強烈な印象を残している。



「―――この星の人類や【彼方の賢者】では倒せなかった『怪獣』を、たった三人で打ち破ったんだから」



『ドクター、今までたった一人で戦ってきたんだろ? 俺にも手伝わせてくれよ』



 そう言って、『人類の地上への帰還』における最大の難所を、少人数で取り払ってしまったのだから。


「だから、きっと元気にしてると思うよ。例え何か問題に巻き込まれても『これも修行だ』って言って解決してるさ」

「そっか、うん。そうだね」


 その時、キュルキュルと可愛らしい音がどこからか聞こえてきた。


「ちょっと早いけど夕飯にしようか?」

「……うん。あ、そうだ。海で釣りを初めてしたんだけど、大きな鮭が釣れたの。持ってくるねっ」


 そう言って、少女は防寒着を羽織って扉から出て行った。


(初の釣りで大物とは、紛れもなく僕の娘は天才だね!!)


 やっぱり、親バカだった。


「見て見て、おっきいでしょ?」


 確かに大きい。少女の身長と同じサイズの鮭がふわふわと浮かんでいた。


「釣り、だったんだよね?」

「そうだよ」

「……なんで焦げてるのかな?」

「〝雷球(サンダー・ボール)〟を投げ込んだから、ちょっと焦げちゃったみたいなの」

「…………夕飯は鮭の塩焼きでいいかな?」

「『シオヤキ』? 私知ってる、『ホシャク』って呼ぶのよね!?」

(『和食』って言いたいんだね。やっぱり自信満々なアーファは可愛いなぁ)


『釣りとは?』という疑問は、少女の愛らしさの前に砕けて消える。


 男はどう考えても、親バカだった。

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